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第18回:みうらじゅんさん 

みうら じゅんさん

数々のマイブームを巻き起こしてきたみうらじゅんさんが登場です。
ボブ・ディラン、怪獣、仏像、崖などなど。そんなマイブームの裏側にはみうらさん流の読書経験がありそうな……、なさそうな。

(プロフィール)
58年、京都生まれ。美大在学中に『ガロ』にてデビュー。以降、漫画やイラストのみならず、エッセイスト、ミュージシャン、映画監督、音楽プロデューサーなど、多岐にわたる分野で活躍。97年に『マイブーム』で流行語大賞を受賞。著書に『アイデン&ティティ24歳/27歳』、『見仏記』シリーズ(共著)、『新「親孝行」術』、『とんまつりJAPAN』、『脳内天国』、『D.T.』など多数。

【本のお話、はじまりはじまり】

見仏記 親孝行篇
『見仏記 親孝行篇 』
いとうせいこう(著)
みうらじゅん(著)
角川書店
1,575円(税込)
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新「親孝行」術
『新「親孝行」術』
みうらじゅん(著)
宝島社
500円(税込)
※品切・重版未定
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――みうらじゅんさんといえば怪獣に仏像、最近では親孝行という数々のマイブームを巻き起こしていますが、本、読書がマイブームだったことはあるのでしょうか?

みうら : 絵本も好きじゃなかったし、小学校に入るまでは、本なんて読んだことなかったですね。本よりも映画のパンフレットとかが好きで、ディズニーの『海底2万里』とか、『三大怪獣地球最大の決戦』とか。

――怪獣好きの片鱗がうかがえますが……。

みうら : その『三大怪獣』はゴジラ、キングギドラ、ラドンにモスラも出てきて、でも、パンフレットは表は怪獣なのに、引っくり返すと裏はクレイジーキャッツだったんですよ。『花のお江戸の無責任』! 2冊を無理やりに一緒にしたんでしょうね(笑)。でも、本と言えば、最初は怪獣でしたね。『怪獣画報』に『怪獣図鑑』。でも、『怪獣画報』は写真が少なくて、イラストが多くて。イラストの怪獣、苦手なんですよね。それに恐竜も苦手だったな。

――では、恐竜の図鑑などは好みではなかったわけですか?

みうら : 原始人のおネエちゃんのビリビリファッションは好きだったけど(笑)、恐竜はグッと来ないんですよ。もっぱら怪獣、それも写真。小学校のときには『少年マガジン』と『少年サンデー』と『少年画報』をとってもらってたから、そこから怪獣の写真を切り抜いて自分でスクラップしてました。

――「怪獣スクラップ」ですね。

みうら : コクヨの「ラ40」のスクラップブックに。「怪獣スクラップ」を始めたのが小1で、その年に「ラ40」のスクラップブックが発売になったんですよ。小4ぐらいまでやってましたね。

――本屋さんには行かれてましたか?

みうら : 本屋は、小学校から帰ってくると毎日、行ってましたよ。近所にラテン書房っていう本屋さんがあって。でもそこでは顔が知られてるからエッチな本を買うときは、遠出してました。小6のときに『SMファン』というのを買って、その後、きっちりSMファンになりましたけど。

――仏像との出会いもその頃だったんですか?

みうら : 京都の生まれなんで、近くにお寺がいっぱいあるし、最初はデカくてかっこいいという興味の持ち方だったんですよ。怪獣と同じですね。それで、父親に『日本の彫刻』という本を買ってもらって。土門拳さんはじめ凄い人たちが撮影してるやつで、金色の箱に入ってて。それとか、『日本の美術』全30巻というのも買ってもらいましたね。

――小学生が読む本としてはかなり高価ですよね。

みうら : ひとりっこで甘やかされてたんです(笑)。

――中学時代の読書はどうだったんですか?

みうら : 江戸川乱歩の少年探偵団シリーズにハマったんですよ。オドロオドロしたところと小林少年がイヤらしくてよかった(笑)。挿絵を描いてた人が、違う名前でSMの絵も描いてる人だったって後から知って、やっぱりなって感じでした。少年探偵団のシリーズじゃなくて、大人向けの『盲獣』とか『屋根裏の散歩者』とかも最高でしたね。

――たしかに江戸川乱歩には、エロチックなものがありますね。当時、さわやかな本は読んでなかったのでしょうか?

みうら : 家庭教師の先生が高校の時、全共闘の活動家だった人で、柴田翔とか高橋和己とかすすめられて読んでましたね。学校の友だちは星新一や筒井康隆を読んでたのに、学校に高橋和己の『邪宗門』を持っていったりして。それがかっこいいと思ってたんですよ。

――女の子へのアピールのほどは?

みうら : 中学、高校と男子校だったし、まったくモテなかったですね。『邪宗門』とか読んで、自分からますますモテない方向に行ってることに気付いてなかったんですね。星新一や筒井康隆を読んでれば、まだましだったのかも。
しかも、なぜか高校になると、落合恵子なんか読んだりして。

――れもんちゃんですか……。

みうら : そうそう(笑)。『スプーン一杯の幸せ』を女の子にプレゼントして、気味悪がられたりして……(笑)。

【人生を変えた本】

ゼロの焦点
『ゼロの焦点』
松本清張(著)
新潮社
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ダウン・ザ・ハイウェイ
事務所の壁には
松本清張の写真が・・・
ダウン・ザ・ハイウェイ
『ダウン・ザ・ハイウェイ ボブ・ディランの生涯』
ハワード・スーンズ(著)
河出書房新社
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――みうらさんが絵を書く上でもっとも影響を受けた本というと……?

みうら : それはもう『横尾忠則大全集』でしょう。美大を受けているときも横尾さんの影響でデッサンにUFO飛ばしたりしてましたから。それで、2年も浪人。遠回りしました。一時、「崖ブーム」というのがマイブームで来てて。それは松本清張の『ゼロの焦点』からなんだけど、崖の写真集なんか探しても、全然なくて。でも、横尾さんが滝に凝ってたから、滝の写真集は本屋さんにも置いてあったんですね。それで、その頃、横尾さんに会ったら、「キミ、崖やってんだって。それって僕の滝から水を取ったんだよね」と言われました(笑)」

――……(笑)

みうら : 横尾さんの『プッシュ』という本にも影響を受けてますね。日記と写真で構成されていて、パンキッシュなんですよ。ある日の日記に、ジャスパー・ジョーンズに会って、その後、オナニーしたって書いてあって、オレも自分のオナニーのことを書けるようになりたいと思ったもの。

――……(笑)。さっき、松本清張という名前が出てましたが。

みうら : 松本清張は好きで、文庫になってるのはほとんど読んだんじゃないかな。何年か前に関西と名古屋でテレビの仕事をしていて、新幹線の中で読んでました。どうしてグッときたかというと、僕も結婚して、いけない恋愛をするようになって……。そういうドロドロが松本清張の小説にはありますから。でも、週末の新幹線に乗ってたりすると、そういうカップルがいて、東京駅に着いて男のほうがどこかに電話するのを横のボックスに入って聞いてみたり。いちばん怪しいのはオレだよね(笑い)。

――事務所の壁には松本清張の写真が飾ってありますね。

みうら : 顔が好きなんですよ。それと、松本清張が作家として注目されたのは40過ぎてた頃で、ちょうどオレの今の年代なんです。ウルトラマンの円谷英二もチャールズ・ブロンソンも40過ぎてから花開いてるから、そういう興味もありますね。

――ボブ・ディランの本はどうですか?

みうら : 昔、ディランの本を読んで、まねして家出とかしてたのに、それは嘘だってディラン本人が言っててショックだった。今、『ダウン・ザ・ハイウェイ』というのが出てるから読んでみようかな。

【本屋さんのお話し】

――よく行く本屋さんはありますか?

右手が『横尾忠則大全集』左手が『PUSH』

右手が『横尾忠則大全集』
左手が『PUSH』

みうら : 事務所が新宿なので、新宿の本屋さんに行ってますね。『はなまるマーケット』に出て電動自転車をもらったので、それに乗っていってます。いっこはエロ写真を自分でスクラップしている「エロスクラップ」がもう126冊目で、その材料を買いに行くある本屋。エッチな写真集を買ってきて、眺めもせずに製本を壊して、再構成したり。ああ金持ちになったなと思う瞬間です(笑)。

――ある本屋さんなんですね。

みうら : そう、ある本屋さん(笑)。でも紀伊國屋にもよく行きますよ。自分で「マイブーム」なんて言い出して。それが首をシメてるとこがあって。取材を受けると絶対に「次のマイブームは何ですか?」って聞かれるんですよ。そのネタを探しに紀伊國屋の上から下まで全部の階をまわります。こっちが見つけるんじゃなくて、向こうから飛び込んでくるものがあるんですよ。最近だと、ミイラの本とか、『日本民謡史』とか。そういう本は1万円とか高いほうがいいですね。一生懸命、そのジャンルをものにしようとするから。

(2003年2月更新)

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