作家の読書道 第189回:相場英雄さん
ミステリー『震える牛』がベストセラーになり、その後も話題作を発表し続けている相場英雄さん。新作『トップリーグ』も政界の暗部に切り込むリアルなミステリー。エンターテインメントに徹する著者はキーパンチャーから記者になり、さらに漫画原作を手掛けるなどユニークな経歴の持ち主。その人生の道のりで読んできた本、そして小説家になったきっかけとは?
その7「"エンタメ作家"を主張する理由」 (7/7)
――普段の一日のサイクルはどんな感じなのでしょう。
相場:飲まない日はですね、毎朝4時半か5時に起きてですね、夜来たメールなどの事務作業を全部片付けて、朝6時くらいに犬の散歩に行き、30分から1時間くらい体操とかストレッチをやって、8時くらいに仕事場に入って昨日書いたやつを見返して、10時くらいからちょろちょろ書き始めて、乗ってきたら昼くらいまで書きます。昼飯に出て、また戻って、そこから夕方まで一気に書く。だいたいその繰り返しです。
――記者時代、ロックを聴きながら原稿を書いていたとのことでしたが、今はどうですか。
相場:執筆中に音がないと書けないです。だから仕事場のMacのデスクトップの横にBOSEのスピーカーをポンと置いて、今日何しようかなーって、AppleMusicに何万曲も入っているので、そこからランダムに選んでかけています。音がないと仕事できません。家内が階段でスリッパの音をパタパタさせているから「うるさいんだけど」と言ったら「あなたの部屋の音のほうがよっぽどうるさい」って言われるくらい(笑)。
――新刊の『トップリーグ』は政界の暗部に触れる新聞記者と週刊誌記者の話ですよね。ものすごいリアリティ。他の作品もそうですが、でも相場さんは「社会派」と呼ばれるのが嫌なんだそうですね。
相場:僕、やっぱりエンタメなんで。ツイッターでもすごく誤解されている読者は多いと感じるので、あえて「今日、同伴からアフターまでキャバクラコンプリート」とかツイートしているんですけれど。
――なんかアピールの仕方が間違っている気が...(笑)。キャバクラに行ったからといって「社会派」のイメージが変わるわけじゃないのでは?
相場:「社会派」っていうとみなさん、勝手にイメージを作るのが嫌なんですよ。真面目な奴だとかね。奇をてらって双葉社で『クランクイン』っていうコメディを書いたら、あまり売れなかったっていう。
――社会派を書く人だという、ジャンルのイメージが固定されてしまうと幅が出ないから嫌、ということですか。
相場:そうです。それが嫌なんですよ。だから「徹底的にエンタメにしてもらって結構だし、僕自身全然ネタにしてもらって結構なんですよ」って言ってるんですけれども、もうインタビュアーのみなさん「社会派」っていうイメージで来られるので。僕のキャラクターを無視して、相場英雄っていう名前が一人歩きするのが嫌なんです。
――なるほど。松本清張などの、社会派と呼ばれる作品が嫌いというわけじゃないんですね。
相場:そういうわけじゃないです。ガキの頃に見たドラマで、今もDVDを取り寄せて見ているのが、松本清張原作、和田勉演出のNHKの土曜ドラマの「ドラマ人間模様」ですし。今見てもすごすぎてひっくり返りますね。NHKには深町幸男っていう、「事件シリーズ」や「夢千代日記」を作った名演出家もいますが、二人とも、重い内容でも作り方は完全にエンターテインメントに徹しているんですよ。ちゃんと笑わせるようなシーンを作ったりとか、内部まで入ってキャラの造形を作ったりとか、ものすごく演出が巧み。ものすごく見応えがあるので、疲れた時はそういうのを見ます。
「事件シリーズ」は大岡昇平原作なんですが、脚色して脇役だった弁護士のキャラを作ったら人気が出たので、大岡先生原案、早坂暁脚本でシリーズ化してましたよ。
――見てみたいです。さて、今、連載しているのは。
相場:「週刊新潮」さんで連載をやらせていただいているのが、ちょうどキャラも動いてきて、いいペースで進んでおります。で、その次は来年の春から2本連載が始まるらしいです。
――らしいです、って他人事ですね(笑)
相場:そう思わないとやっていられないので(笑)。
(了)