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第28回:吉田 修一さん (よしだ・しゅういち)

吉田修一さん

男女の機微を絶妙なタッチで描き、新作が出るたびに注目を集める吉田修一さん。今最も輝く恋愛小説家の読書道は〈ある偶然〉を境に作家道へとつながっていきます。高校時代に耽読した詩集から現在ページをめくっているエッセイまで、記憶をたどりつつ読書ライフを語っていただきました。

(プロフィール)
1968年長崎県生まれ。法政大学経営学部卒。97年『最後の息子』で第84回文學界新人賞を受賞し作家デビュー。同作は第117回芥川賞候補となる。2002年『パレード』で第15回山本周五郎賞、『パーク・ライフ』で第127回芥川賞を受賞し、脚光を浴びる。他の著書に『熱帯魚』『日曜日たち』『東京湾景』がある。『パレード』は今年4月に文庫化される予定。

【本のお話、はじまりはじまり】

――最近買った本は何ですか?

東京湾景
『東京湾景』
吉田修一 (著)
新潮社
500円(税込)
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忘れられる過去
『忘れられる過去』
荒川洋治 (著)
みすず書房
2,730円(税込)
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吉田 : 小池真理子さんの本を何冊かまとめて。お会いする機会があったので、読んでおこうと思いまして。『恋』は前に読んだことがあったのですが、その他の作品を拝読しておらず、まとめて最近読ませていただいているんです。『瑠璃の海』まで読みました。自分でも『東京湾景』という恋愛小説を書いてますけど、タイプがまったく違うものを読む感じで、新鮮でした。

――昨秋上梓された『東京湾景』に品川の倉庫が出てきますが、実際にそこで働いていらしたとか。

吉田 : 小説と同じ場所ではないですが、近辺で働いていました。お台場の方でも働いたことがあったので、いつかこの辺で小説を書ければいいなあと思ってはいたんです。

――月にどのくらい本を購入されますか?

吉田 : 以前は月に何冊かわからないけどだいたい平均して買っていたのですが、最近はバタバタしているのもあって、買う月はまとめて買うし、買わないときはほとんど買わないんじゃないかな。小池さんの本にしても、インターネットでバーッと何冊かまとめて買う感じですね。

――たった今読んでいる本を教えてください。

吉田 : きのうから荒川洋治さんの『夜のある町で』を読み始めました。いくつかエッセイを頼まれているので、いいエッセイってどんなエッセイなんだろうと思って読み出したんです。一緒に買った『忘れられる過去』を年末に読んだので、続けて荒川さんの本を読んでいますね。

――とっておきの読書空間というのはありますか?

吉田 : 本はあまり持ち歩かないんですよ。やっぱり家ですね。酔っ払ってなければ、だいたい寝る前に、ベッドに入って読みます。

――本の収納はきっちり並べる方ですか。それとも……。

吉田 : でっかい本棚が一つあるんです。そこに一応入っていて、あとは押入れに積まれている感じです。去年、以前よりは広いところに引っ越せたので、今はどうにか収まっているんですが、以前は(両手で体のまわりを囲むしぐさをしながら)これぐらいは本でした。ほんとにひどかったんです。ロフトで寝ていたので、寝る場所は確保できていたんですけど、下が……。文芸誌はかさばるじゃないですか(笑)。

――読み終わった本は必ず保存します?

吉田 : 学生のころに読んだ本は、人の本ばかりだから全然持ってないんです。だから、買った本はなるべく手元に置くようにしていますね。売ったことも、あげたこともないです。たまに「読ませて」とか言われると、同じ本を買って渡すようにしています。貸さないとケチみたいだし、返ってこないのもイヤだし(笑)。

【人生を変えた詩集】

――本に興味を持ち始めたのはいつごろですか?

吉田 : 小学校や中学でも読んではいたんですけど、好きで読んでいるというより、あるから読んでいるという感じでした。高校1年のころ、新潮文庫なんかに入っている詩集を読み始めたんですよ。文章というものがおもしろいなあと思ったのは、そのときが最初だったと思います。どちらかというと体育会系の人間だと思っていたので、そういうのに手が出なかったんですけど、たまたま手にとった何冊かがおもしろくて、「自分はこういうものをおもしろいと思えるんだなあ」と発見したというか。ランボーやボードレール、萩原朔太郎、中原中也など手当り次第に読んでいました。

――初めて詩集を手にしたときの状況をお聞かせください。

吉田 : たぶん放課後にどこかへ行こうとしてたんでしょうね。学校の図書室で待ち合わせをしていて、友達が来ないのでぶらぶらしていたときです。それから図書室へよく行くようになりました。誰でも読んでいるような有名な詩集ばかりですけど。たぶんあれを読んでいなかったら、小説なんか書いていないだろうし、ほんとに文章というか文学がまさか好きになれるとは思っていなかったので、あの経験はけっこう大きかったかもしれませんね。

――その中で核をなすもの、これははずせない1冊は?

ボードレール詩集
『ボードレール詩集』
ボードレール(著)
新潮社
380円(税込)
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吉田 : この1冊というのはないんですけど、当時引いた線が最も多いのはボードレールですね。

――今でもときどき読み返しますか?

吉田 : 年に何度か、気がつくとパラパラとめくってますね。煮詰まっているときに多いです。

――詩集との出合いの後は?

吉田 : うーん(と記憶をたどりながら)、大学になってから小説を読むようになって、いや、高校ぐらいのときも、三島由紀夫だ川端康成だとだいたい読んではいたんです。高校になってからあまり自分で本を買うことはなくなりまして、人の家にいったらそこに本があるじゃないですか(笑)。おもしろそうなものを手当り次第に読んでいました。たとえばその人が山田詠美さんのファンだったら、山田さんの本が並んでいるので、それを全部読むとか。あまり系統立てて読むという感じではなくて、そこにあるものを読んでいました。それでファンになるんです。伊集院静さんや原田宗典さんの作品も、知り合いの家にあったのを読んで好きになったんです。

――当時は日本の作家ばかりですか?

吉田 : 日本の作家の場合はそろっているんですけど、外国の作品はあまりそろっていない印象があるので。

――買った本で印象に残っているのは?

吉田 : 大学のころは……言うのが格好悪いですけど、ニーチェとかみなさん読みますよね。まわりの友達に興味のある人がたぶんいなかったんでしょう。自分で買ってショーペンハウエルだなんだと読んでいました(照れ笑い)。気に入ったところにいっぱい線を引きましたね。高校のときからのクセなんです。たまに人が遊びに来て「本を貸して」とか言われると、昔の線が引いてあったりするので、あまり見せたくない(笑)。

――書き込みもされていました?

吉田 : たまにやってるんですよ、恥ずかしながら(笑)。詩集なんかだと余白がいっぱいあるので。

彼岸先生
『彼岸先生』
島田雅彦 (著)
新潮社
660円(税込)
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――20代半ばにかけては?

吉田 : 23、24歳ごろから文芸誌をたまに思い立って買うようになりました。島田雅彦さんとか現代作家の作品を読むようになって、近所の図書館でもぱらぱらと読んでいました。

――他にはどういった作家さんを?

吉田 : うーん(と再び黙考する)。みなさん、すらすら答えられるというか、どうなんでしょう?

――人それぞれですね。次から次に読んだ作品名が出て、驚かされることもあります。

【お気に入りの本たち】

吉田 : 自分で読んできた本を挙げるのは、照れくさいですね。23、24歳のころがなかなか思い出せないんですよ。あまり芥川賞作品とか読んでいないですしね。確かその頃だったかな、ジャン・フィリップ・トゥーサンの『浴室』とかロラン・バルトとか。ボリス・ヴィアンとかジュネとかフランスの作品をまとめて読むようになりました。新しそうだなという感じのものに惹かれていましたね。

――28歳でデビューされたころは?

吉田 : 文芸誌は前に比べてしっかり読むようになりました。毎月、何かしら気になったものを読むように……あっ、そうだ。フェルナンド・ペソアというポルトガルの詩人がいるんですけど、とにかく好きなんです。最初に読んだのはそのころだったかな。詩を入れても2,3冊ですが。

――その中のお気に入りは?

吉田 : 「不穏の書、断章」。詩集は『ポルトガルの海』しか出ていません。あと、ヨシフ・ブロツキーというロシアの詩人が書いた『ヴェネツィア・水の迷宮の夢』に感激して、お薦めの3冊を聞かれるといまだに挙げていますね。

――最近、新たに興味を持ったジャンルはありますか?

吉田 : 自分より若い人の本を読むようになりました。文芸誌に新人賞の受賞作が載っていると、おもしろそうだなあと思うものを読んでいます。前は全然そんなことなくて、自分の世代より上の方ばか りでしたけど。最近デビューされた若い方では、生田紗代さんの『オアシス』がおもしろかったですね。

ポルトガルの海
『ポルトガルの海』
フェルナンド・ペソア(著)
彩流社
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『ヴェネツィア・水の迷宮の夢』
ヨシフ・ブロツキー (著)
集英社
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オアシス
『オアシス』
生田紗代 (著)
河出書房新社
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(2004年)

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