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第32回:青木るえかさん (あおき・るえか)

「本の雑誌」「WEB本の雑誌」でおなじみの青木るえかさん。本だけでなく、競輪、競馬を愛し、その方面のエッセイでも大活躍なのはみなさんご存じの通り。現在は日がな本を読んで暮らしている青木さんも、子供の頃は読書が嫌いだったとか。そんな彼女が読書に目覚めたきっかけから、その個性的な読書スタイルに至るまで、たっぷり語っていただきました。

(プロフィール)
1962年東京都生まれ。書評、競馬・競輪のエッセイなどの分野で活躍中。「本の雑誌」に書評エッセイを執筆のほか、大阪スポーツニッポンの競馬面で予想コラム「ギャンブル絵本」を連載。著書に「主婦でスミマセン」、「主婦は踊る」(角川文庫)、「私はハロン棒になりたい」「青木るえかの女性自身」(本の雑誌社)ほか。

「青木るえかの官能の部屋」

【本のお話、はじまりはじまり】

ベルサイユのばら 第1巻(中公愛蔵版)
『ベルサイユのばら 第1巻(中公愛蔵版)』
池田理代子 (著)
中央公論社
1470円(税込)
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ジェーン・エア(上)
『ジェーン・エア(上)』
シャーロット・ブロンテ (著)
新潮文庫
660円(税込)
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次郎物語(上)
『次郎物語(上)』
下村湖人 (著)
新潮文庫
780円(税込)
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――子供の頃は、本を読んでいました?

青木るえか(以下 青木) : あんまり読んでいなかったと思います。小学生の頃なんて、夏休みに「本を一冊読んで感想文書くこと」という宿題が出て苦痛だったという思い出しかないですね。ただ、漫画は読んでいました。『週刊マーガレット』が毎週楽しみで。ちょうどその頃は「アタックNO.1」や「ベルサイユのばら」「エースをねらえ」が連載されていて、子供ながらに、「マーガレットの今のこの状態はなかなかいけてるんじゃないか」と思っていました。

――小説とかは嫌いだった?

青木 : そういうわけでもないんですよね。小学生の頃だったか中学生の頃だったか、親と新宿の伊勢丹に行った時に、親が買い物している間に500円やるから好きな本を選んで買っていいと言われて、こんな幸せがあるのか! と思った記憶があるんですよ。あまり読んでなかったくせに。

――ちなみにその時に買った本は。

青木 : 新潮文庫の『ジェーン・エア』。なぜそれを選んだかというと、その前に読んだ『足長おじさん』の中で主人公が『ジェーン・エア』を読んでいるシーンがあって。内容がメロドラマでスキャンダラスな感じがして、面白そうだなあと思っていたからなんです。ただ、頭の部分の、主人公が伯母さんの家でイジメられるとこしか読まなかった。もうちょっと先まで読んだら面白かったはずなんですけれど。

――面白い本を逃してしまいましたね。

青木 : そうなんです。子供の頃読んだ時は嫌で嫌でしょうがなかったのに、後で読んでみたら面白かったっていうものはありますね。

――例えば?

青木 : なんといっても『次郎物語』。夏休みの宿題で読まなければいけなかったんですけれど、導入部が陰気くさくて本当に嫌で。でも後で読んでみたら、すごくドラマチックな話だと分かったんですよね。出てくる人間出てくる人間下世話で、すごいんですから(笑)。もう、血湧き肉踊るって感じで読みました。

――スキャンダラスなものとか下世話なものに興味を示す傾向が…。

青木 : そういうものが好きなんですよねー。

【読書に目覚めた高校生時代】

『血族』
山口瞳 (著)
文春文庫
489円(税込)
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『日本の面影―ラフカディオ・ハーンの世界』
山田太一 (著)
岩波現代文庫
1050円(税込)
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『虚無への供物(上)』
中井英夫 (著)
講談社文庫
730円(税込)
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――高校生になってからも、本は嫌いでした?

青木 : いえ、文庫を読み出すようになりました。高校の近所の本屋で山口瞳を買って、これは好きな世界だなと思って。もともとは、土曜の夜9時だったかNHKで山口さん原作の「血族」をドラマでやっていて、それを見ていたんです。で、文庫で出ているのを読んだら、文章のほうがもっと面白かった。

――きっかけはドラマだったんですね。

青木 : あの頃の土日のドラマってすごく面白かったんですよ。山田太一の「日本の面影」とか、別役実の作品とか。たしか松本清張の作品もあったと思う。それがきっかけで彼らの作品を読むようになりました。別役実は戯曲はそうでもないけれど童話が面白くて、山田太一は小説よりも脚本のほうが面白いとか。ちょうど昨日読み返してみたんですけれど、やっぱりなんべん読んでも山田太一の脚本て面白いですよ。

――高校生くらいからはすっかり読書習慣が身についたようですね。

青木 : 私の場合は1冊を何べんも読むんです。以前中島らもがマンガの『ジャイアント台風』を10回くらい読み返したことをあたかもすごいことかのように書いていたんですが、それを読んだ時にこの人は何を言っているのだろう、と思いましたから。本なんてそれくらい読むのが当たり前だと思っていたんですよね。『血族』なんて今も折りにふれ読んでいますよ。

――何回も読み返す時って、ストーリー展開はすでに分かっているわけですよね。どこを楽しみどころとしているんでしょうか。

青木 : 謎解きの話でも、犯人探しよりも細かいところに気がとられてしまうんですよね。高校三年生の時に読んだ中井英夫の『虚無への供物』なんて、推理小説なんですが何べん読んでもディティールが楽しめる。密室殺人の話なんですが、犯人さがしなんてどうでもいい。目黒不動、目白不動、目赤不動…というのが出てくるんですが、そこにそれぞれキーパーソンが住んでいるんですよ。そういうのが私には、これはたまらん! という感じなんですね。読んだ後、それぞれの場所を見に行きましたから(笑)。

――それはすごい!

青木 : おいしいものは何回食べてもおいしいのと一緒。高橋和巳の『邪宗門』も相当読みました。これは純粋にストーリーが面白いし、登場人物が魅力的なんです。私の夢は、NHKの土曜ドラマ枠でこれがドラマ化されることですね。

――キャスティングもすでに考えたりしてます?

青木 : あったりまえですよ。今は歌劇のOSKに夢中なのでそのキャストで考えたり、競輪にハマっている時は、女性の役もすべて競輪選手で考えたり、競馬が好きなので、あの馬をこの役に…と考えたり(笑)。一人で考えていると、楽しいですよ。

【特別に好きな作家】

『日日雑記』
武田百合子 (著)
中公文庫
620円(税込)
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『小説中華そば「江ぐち」』
久住昌之(著)
新潮0H!文庫
510円(税込)
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――新刊が出ると必ず買っていた作家はいますか?

青木 : 今世間で流行っているからあまり言いたくないんですが、武田百合子。新刊が出ているのにふと気づく時の喜びはすごいものがありました。まだ彼女が生きている頃の話ですけれど。そういう意味では、『遊覧日記』とか『日日雑記』は本屋でたまたま新刊を見つけた喜びが大きかったので、好きな作品。『富士日記』も作品としてはいいかもしれないけれど、これは出ていることがわかっていて買いにいって買った本だから、偶然見つけたものに比べて思い入れは少ないかも。

――ほかにそういう作家は?

青木 : 久住昌之ですね。彼の漫画も好きなんですが、エッセイというか雑文が大好きで。最初に読んだのが『ある純情青年の風俗十番勝負』という、自分の友達を風俗に行かせて聞き書きしたルポがあって、文章のリズムが私のツボにはまったんです。それ以降は本が出るたびに買いましたね。最近『小説中華そば「江ぐち」』が文庫になったんですが、それは「WEB本の雑誌」の新刊採点のところで相当キツイこと書かれていて。みんな見どころ分かってない! と一人で怒ってました(笑)。

――何がそんなにツボにハマったんでしょうね。

青木 : 自分でもよく説明できないんですけれど、文章がたまらなく面白いんです。笑わそうとしている訳ではなく、すました顔で淡々と書いているのに、私にはお腹がよじれるくらい面白い。山口瞳、武田百合子、久住昌之の三人は私にとって別格なんですよ。みんな私の笑いのツボをついてくるんだけど、もう、どう面白いのか説明できない。理科の実験でかえるの足に電流を流したらビリビリと動くのと同じように、彼らの文章を読むと反応してしまうんですよ。

【そのほかの偏愛作品&作家】

『天才伝説横山やすし』
小林信彦 (著)
文春文庫
500円(税込)
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『雪舞い』
芝木好子(著)
新潮文庫
660円(税込)
※絶版
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――エッセイなどは読まないのですか?

青木 : 小説もエッセイも書いている作家も多いですが、私の場合、エッセイしか読めない作家と、小説しか読めない作家がいるんです。前者は、小林信彦。『天才伝説横山やすし』は著者が本人にいかに迷惑をかけられたか、言えなかったうらみつらみが書かれてあって、イライラさせられるんですけれどそこがいい。小林信彦は『おかしな男 渥美清』のほうが評判になりましたけれど、『天才伝説』のほうが下世話で、やすしの哀れが感じられて、評伝のたぐいでは一番面白いと、私は思うんですけど世間では違うんでしょうかねえ。

――小説しか読めない作家というのは?

青木 : 芝木好子。何代も続いている名家の芸の話とかが多いんですけれど、とにかくこれも読んでいるとイライラさせるんですよね。なんでもっと昼メロにしないの! と。そこが楽しいんです(笑)。舞踊家の道ならぬ恋の話の『雪舞い』なんて、本当にイライラして、楽しくて楽しくて。でもエッセイになるとこれがひとつも面白くなくて(笑)。

【読書スタイル】

――一日の中で、どんな時間に読書を楽しんでいるんですか?

青木 : 最近は、さあ読むぞ、と集中して読むことはないですね。何かをしている時に読むことが多い。食事中とか、お風呂入っている時とか。テレビを見ている時も読みますね。競輪や競馬で大きなレースがある時は、ひいきの選手が出る時なんて、ドキドキしてしまってつい本を手にとってしまう。これも一種の逃避でしょうか(笑)。

――食事中も、というのがすごい。

青木 : 旦那も本を読んでいますから。結婚して何がよかったって、食事しながら本を読んでも怒られないことです。

【最近の読書道】

――最近では面白い本はありましたか?

『宿命―「よど号」亡命者たちの秘密工作』
高沢皓司 (著)
新潮文庫
900円(税込)
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青木るえかの女性自身
『青木るえかの女性自身』
青木るえか (著)
本の雑誌社
1,575円(税込)
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青木 : いっぱい読んではいるんですけれどね、覚えていないんですよね。5年くらい前になりますが、高沢皓司の『宿命』は何べんも読みました。最初に読んだ時は、まだ寝しなに読む習慣があった頃で、読み始めたらこわくてこわくてやめられなくなって、気がついたら夜が白々と明けてました。よど号ハイジャック犯の話なんですが、私にとってはスリラー、ホラー。イデオロギー的なものが怖いのでなく、ただただ、人間って怖い、って思った。これは恐ろしい本です。あとは、新しい本を買って読んではいるんですけれど、気がつくといつも読み返している本に戻ってしまっている感じです。

――7月下旬には青木さんご自身の本も出るとか。

青木 : 「WEB本の雑誌」で連載していたものにエッセイを一本くらい書き下ろして出す予定です。エロ話中心で、タイトルは『青木るえかの女性自身』

――山口瞳の『男性自身』にならったわけですね。

青木 : そうなんです。恐れ多いやら、嬉しいやら(笑)。でも私がつけたタイトルじゃありませんから! めっそうもない。

(2004年6月更新)

取材・文:瀧井朝世

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