« 第80回 | 一覧 | 第82回 »

第81回:魚住直子さん (うおずみ・なおこ)

魚住直子さん イメージ写真

キレイごとではない、少女たちのリアルな日常を切り取りとりながら、温かい声援を感じさせてくれる児童文学作品で人気を博す魚住直子さん。最近では大人向けの小説も発表、今後の活躍がますます期待されるところ。本に関しては、幼い頃から気に入った作品は何度も繰り返して読んできたのだそう。そんな濃厚な読書習慣に連れ添ってきた、数々の名作を教えていただきました。

(プロフィール)
1966年生まれ。広島大学教育学部心理学科卒業。『非・バランス』(講談社文庫)で第36回講談社児童文学新人賞を受賞しデビュー。著書に『超・ハーモニー』、『未・フレンズ』(ともに講談社文庫)、『海そうシャンプー』、『ハッピーファミリー』(ともに学習研究社)、など。

【大人になってからも読み返した名作たち】

――幼い頃の読書で、覚えているものといいますと。

魚住 : 家にある本を見てみたら、集英社の『少年少女世界の名作』の全30巻のなかから10冊ほどありました。定価は1冊360円(笑)。月に1度買うのを楽しみにしていた記憶があります。それが、小学校4年生くらいの時ですね。それと、学研の「科学」と「学習」の「学習」のほうで、夏休みなどの休みにあわせて「読み物特集号」という雑誌があったのですが、それも読むのをとても楽しみにしていました。

――集英社の10冊は、今でもお持ちだということですか。どんな名作があったのですか。

魚住 : 全部を持っているわけではないんですけれど。私が読んだのは、『アルプスの少女』『海底二万里』『アンクルトムの小屋』『十五少年漂流記』『飛ぶ教室』『ああ無情』…。『ロビンソン・クルーソー』は『ロビンソン漂流記』というタイトルでした。監修が川端康成、浜田廣介、中野好夫なんです。時代を感じさせますね(笑)。

――どれも名作ですが、特に好きだったお話はありますか。

魚住 : この全集は、内容はもちろん全部覚えていますけれど、それより匂いがすごく好きだったんです。紙面から甘いクリームのような匂いがして。今でも香るんですよ。内容でいうと、『アルプスの少女』でハイジがホームシックになって夢遊病になるところなんかを、ドキドキして面白く読んだことが心に残っていますね。

マリアンヌの夢
『マリアンヌの夢』
キャサリン・ストー(著)
岩波少年文庫
756円(税込)
商品を購入するボタン
>> Amazon.co.jp
>> HonyaClub.com
光車よ、まわれ! (復刻版)
『光車よ、まわれ! (復刻版)』
天沢退二郎(著)
ブッキング
2,835円(税込)
商品を購入するボタン
>> Amazon.co.jp
>> HonyaClub.com

――本は、買ってもらうことが多かったんですか。

魚住 : 6年生になるときに転校して、友達はできたけれどそれほど親しくない、という状態の頃に、図書室に通うようになりました。6年生の時に読んで、今も持っているのが、キャサリン・ストーの『マリアンヌの夢』。病気になった女の子が、ある日お母さんの裁縫箱から、ちびた鉛筆を見つけてきて、それで絵を描く。すると、それがそのまま夢に出てくるんです。家の絵を描いたら家が出てくる。でも入ることができないので、ドアを描き足すと、入ることができる。窓辺に男の子を描いたら、本当に男の子が登場する…。結構怖い話なんです。今でも岩波少年文庫でソフトカバーで出ています。マリアンヌと同じ夢を見たくて、母のところからチャコペンシルを取ってきて絵を描いたりしていました。もちろん、夢を見ることはできませんでしたけれど。

――海外小説が多かったのですか。

魚住 : 日本の作家では天沢退二郎さんの『光車よ、まわれ!』。ファンタジーで、ちょっと怖い感じなんですが、すごく面白くて。数年前に、天沢さんの似た感じのお話の「オレンジ党」のシリーズとともに復刻版が出たんです。私は小さい頃読んだ本をそのまま持っていますが、同じくファンだった妹は新たに全部そろえたといっていました。あとは、山中恒さんの『ぼくがぼくであること』、大石真さんの『教室205号』、佐藤さとるさんの『だれも知らない小さな国』のシリーズ、古田足日さんの『宿題ひきうけ株式会社』といったあたりが好きでした。日本の創作児童文学が盛んだった頃なんだと思います。このあたりは大人になっても全部読み直しているので、記憶が上書きされていますね。

ぼくがぼくであること
『ぼくがぼくであること』
山中恒(著)
岩波少年文庫
756円(税込)
商品を購入するボタン
>> Amazon.co.jp
>> HonyaClub.com
教室二〇五号
『教室二〇五号』
大石真(著)
講談社文庫
294円(税込)
※絶版
>> Amazon.co.jp
だれも知らない小さな国
『だれも知らない小さな国』
佐藤さとる(著)
講談社青い鳥文庫
651円(税込)
商品を購入するボタン
>> Amazon.co.jp
>> HonyaClub.com
宿題ひきうけ株式会社
『宿題ひきうけ株式会社』
古田足日(著)
理論社フォア文庫
693円(税込)
商品を購入するボタン
>> Amazon.co.jp
>> HonyaClub.com

――小さい頃に読んだ本を、ずっととってあるのですか?

魚住 : 引越しのたびに、荷物を整理しないといけなくて、全部を取ってはおけなかったんですけれど。『マリアンヌの夢』なんかは図書室で読んで、大学生になって本屋さんで発見して、あーっ、て喜んで買って読み直したんです。大きくなってから集め直したものも多いですね。

――なるほど。ところで、引越しが多かったのですか。

魚住 : 父が転勤族だったので転々としました。福岡で生まれて、山口、広島、大阪、名古屋…。だんだん東に来て、数年前まで神奈川の逗子に住んでいて、今は東京です。死ぬ時は北海道かなと思ったり。北海道の人と結婚したので(笑)。

【ムーミンに共感】

――中学生になると、どのような本を読まれたのですか。

星新一 一〇〇一話をつくった人
『星新一 一〇〇一話をつくった人』
最相葉月(著)
新潮社
2,415円(税込)
商品を購入するボタン
>> Amazon.co.jp
>> HonyaClub.com
ムーミン谷の冬
『ムーミン谷の冬』
トーベ・ヤンソン(著)
講談社文庫
390円(税込)
商品を購入するボタン
>> Amazon.co.jp
>> HonyaClub.com
ムーミン谷の仲間たち
『ムーミン谷の仲間たち』
トーベ・ヤンソン(著)
講談社文庫
470円(税込)
商品を購入するボタン
>> Amazon.co.jp
>> HonyaClub.com

魚住 : 星新一さんがすごく好きだったんです。新潮文庫から刊行されるのをすごく楽しみにしていました。講談社文庫や角川文庫からも出ていましたから、40〜50冊、全部そろえました。新作が読みたくて『ミステリマガジン』も買いましたね。ファンレターを書きたくて、新潮社に往復はがきで住所を教えてほしいと送ったら、当時は教えてくれたんです。実際に書いてみると恥ずかしくて、何度も書き直しているうちに、出さないままになってしまって。最相葉月さんの『星新一 一〇〇一話をつくった人』を読んだら、中学生や高校生からファンレターがたくさん届いていたという話があったので、ああ、そうだろうなあと思いました。

――多くの人が通る道ですよね、星新一作品は。

魚住 : あとは「ムーミン」のシリーズがすごく好きでした。ちょうど岸田今日子さんが声優をされていたアニメの再放送をやっていてそれも好きでしたが、原作とは違うんですよね。その後新たに作られたアニメは、わりと原作に忠実だそうですが。原作は『たのしいムーミン一家』のような小さい子向けのものもありますが、大人が読んでも考えさせられるような幅広さがあります。なかでも『ムーミン谷の冬』という作品があって。ムーミンたちは冬眠する動物なので、みんなが寝ている真冬に、主人公のムーミントロールは目が覚めてしまう。みんなを起こそうとしても起きないし、ベッドにもぐりこんでも眠れない。それで表の雪の世界に出ていくと、冬にしかあえないような人たちとの出会いがあって、一家が起きる春までを過ごしていく。私は小学校5年生くらいから不眠症に悩んでいたんですが、この本に眠れない苦しみが書かれてあったので、ほっとしました。眠れない時に何度も読みましたね。『ムーミン谷の仲間たち』も好きです。ムーミンは出てこなくて、他の登場人物たちのお話を集めたものなんですが、この中に「この世の終わりにおびえるフィリフヨンカ」というお話がある。それが自分の気持ちにぴったりと合ったんですね。海辺の大きな家に住んでいるフィリフヨンカが、お友達のガフサ夫人が遊びにくるのを楽しみにしていたのに、うまくお話ができずに終わってしまう。一人でいると嵐がやってきて、波でいろんなものが洗い流され、朝がきて、さっぱりする…。それも読むと励まされて、今でもよく読んでいるんです。

――育ち盛りの年頃に眠れずに悩んでいた、というのが気になります。

魚住 : 小学校5年の頃に、林間学校に行ったんです。それまでは寝るのが苦手なんて思ったことはなかったのに、みんな先に寝てしまって、真っ暗ななかで寝息といびきしか聞こえない。それがすごく怖くて。そこから、寝られなかったらどうしよう、と思うようになったんです。家では眠れなくても読書灯をつけたりラジオを聞いたりと好きなことができますが、集団宿泊がすごく嫌で。

――でも、そうした機会っていっぱいありますよね。

魚住 : 中学1年の時の林間学校には、懐中電灯を持っていって、あとは……梅酒を……。

――えっ!!!

魚住 : 時効だからいいと思うんですが、私はお酒が強くなくて、奈良漬を食べても赤くなっていたんです。それで、ちょっとだけでも飲めば酔って眠れるかなと思い、母が漬けていた梅酒を…。大きな容器で持っていくと見つかるので、お弁当に添える、魚の醤油さしがありますよね。あれに吸い取って…。

――超微量ですね(笑)!

魚住 : 微量でも酔うかな、と思ったんです(笑)。それを10個くらい集めてビニール袋にいれました。それでも不安だったので、母に「眠れない」って相談して、児童精神科のようなところに連れていってもらって。先生に「眠れないってことばかり考えていてはいけないよ」と言われたんですが、結局、安定剤か睡眠薬みたいなものを2錠くれたんです。でも偽薬だったのかな、と思います。その薬と、懐中電灯と梅酒とポケットラジオを持っていったのですが、結局眠れなかったんです。

――えー。よっぽど緊張していたんですね。

不眠症諸君!
『不眠症諸君!』
なだいなだ(著)
文藝春秋
819円(税込)
※品切・重版未定
>> Amazon.co.jp

魚住 : 今思うと、体力はあるのだから、一晩くらい眠らなくても大丈夫だっただろうに、とにかく眠れないことが怖くて。中学生でなだいなださんの『不眠症諸君!』を読んだりしていました。今でも、新書などで不眠症関連の本を見つけるとつい買ってしまいますね。

――眠れない夜は、読書ですか。

魚住 : 星新一さんの本でした。そういえばその林間学校のときも、はやく読みたいのを我慢してとっておいて持っていったんですが、懐中電灯をずらしながら読まなくちゃいけなくて、集中できなかったんです(笑)。

――星さん以外で読まれた作家さんは。

魚住 : 中学のうちは『ジェーン・エア』や『嵐が丘』が好きで、『ブロンテ姉妹』とかいう研究書みたいなものまで買いましたが、これは全然分からなかった(笑)。なぜか石川啄木の『一握の砂』がすごく好きで、お手製のカバーをかけて大事にしていました。それは今でもあります。高村光太郎の『智恵子抄』も好きでした。同時期に北杜夫さんの『楡家の人びと』を読み、あとは灰谷健次郎さんの本は、文庫が出るとすぐに買っていました。

一握の砂・悲しき玩具 石川啄木歌集
『一握の砂・悲しき玩具 石川啄木歌集』
石川啄木(著)
新潮文庫
420円(税込)
商品を購入するボタン
>> Amazon.co.jp
>> HonyaClub.com
智恵子抄
『智恵子抄』
高村光太郎(著)
新潮文庫
420円(税込)
商品を購入するボタン
>> Amazon.co.jp
>> HonyaClub.com
楡家の人びと(上)
『楡家の人びと(上)』
北杜夫(著)
新潮文庫
660円(税込)
商品を購入するボタン
>> Amazon.co.jp
>> HonyaClub.com
太陽の子
『太陽の子』
灰谷健次郎(著)
角川文庫
680円(税込)
商品を購入するボタン
>> Amazon.co.jp
>> HonyaClub.com

【高校、そして大学生活】

――高校に入ってからは。

箱男
『箱男』
安部 公房(著)
新潮文庫
460円(税込)
商品を購入するボタン
>> Amazon.co.jp
>> HonyaClub.com
シングル・セル
『シングル・セル』
増田みず子(著)
講談社文芸文庫
1,365円(税込)
商品を購入するボタン
>> Amazon.co.jp
>> HonyaClub.com

魚住 : 高校では、本を読むよりも音楽を聴くことのほうが好きだったかな。ただ、不可思議な設定が星さんと似ていると思ったのか、安部公房作品は全部そろえて繰り返して読みました。実際にはどこまで理解していたのか分からないですね。でも初期の『友達』『壁』は分かりやすいほうでしたし、『箱男』はすごく好きで、自分で箱を製作しかけたこともありました。『砂の女』や『燃えつきた地図』も読みました。どんどん自分の居場所がなくなるようなストーリーで、途中で分からなくなって頭が混乱する感じが好きだったのかも。評論も好きでしたね。小此木啓吾さんの『家庭のない家族の時代』などを読みましたし、大人になってからも一時期、斎藤学さんが好きで『「家族」という名の孤独』なども読みました。精神科医が書くようなものが好きなんです。

――そういえば、大学は広島大学で心理学を専攻されたんですよね。

魚住 : そうです。大学の頃が一番、本を読みましたね。自宅から大学まで往復3時間かかっていたんです。広電というすごく遅い路面電車に乗って(笑)、その間はいつも本を読むので、1日に1冊くらいの勢いで読んでいたと思います。この頃に一番好きだったのが、増田みず子さん。『シングル・セル』は何度も何度も読み返しました。その前に出ていた本も買いましたし、その後新作はずっと買い続けているので、著作は全部持っています。数年前に『月夜見』が出ましたが、その後、新作をずっと待っているんです。

――大学時代の大きな出会いだったわけですね。

魚住 : そうなんです。ほかはやっぱり文庫をずっと読んでいました。外国の作家はあまり読んでいませんが、ヘンリー・ジェームズのちょっと怖い感じが好きで。『ねじの回転』とか、嘘をついている男の人を意地悪く見るような『嘘つき』『デイジー・ミラー』。アラン・シリトーの『長距離走者の孤独』も何回も読みました。日本人では、島尾敏雄さんの『魚雷艇学生』がすごく面白いと思って『死の棘』を読んだら、全然違うので驚きました。それから『日の移ろい』とその続編も読んで。『死の棘』には奥さんのミホさんも出てくるので、そこから島尾ミホさんの本を読んだり、息子で写真家の島尾伸三さんの『生活』を読んだり。ちょうど逗子に住んでいる頃に葉山で個展をされていたので、行ったことも。島尾ファミリーを追っていった感じです(笑)。

ねじの回転
『ねじの回転』
ヘンリー・ジェイムズ(著)
新潮文庫
1,365円(税込)
商品を購入するボタン
>> Amazon.co.jp
>> HonyaClub.com
嘘つき
『嘘つき』
ヘンリー・ジェイムズ(著)
福武文庫
630円(税込)
※品切・重版未定
>> Amazon.co.jp
デイジー・ミラー
『デイジー・ミラー』
ヘンリー・ジェイムズ(著)
新潮文庫
340円(税込)
商品を購入するボタン
>> Amazon.co.jp
>> HonyaClub.com
デイジー・ミラー
『デイジー・ミラー』
アラン・シリトー(著)
新潮文庫
500円(税込)
商品を購入するボタン
>> Amazon.co.jp
>> HonyaClub.com
魚雷艇学生
『魚雷艇学生』
島尾敏雄(著)
新潮文庫
380円(税込)
商品を購入するボタン
>> Amazon.co.jp
>> HonyaClub.com
死の棘
『死の棘』
島尾敏雄(著)
新潮文庫
820円(税込)
商品を購入するボタン
>> Amazon.co.jp
>> HonyaClub.com
生活―照片雑文
『生活―照片雑文』
島尾伸三(著)
みすず書房
2,940円(税込)
※品切・重版未定
>> Amazon.co.jp

【眠れぬ夜のお供となる本】

――社会人になられてからは。

るきさん
『るきさん』
高野 文子(著)
ちくま文庫
609円(税込)
商品を購入するボタン
>> Amazon.co.jp
>> HonyaClub.com
棒がいっぽん
『棒がいっぽん』
高野 文子(著)
マガジンハウス
918円(税込)
商品を購入するボタン
>> Amazon.co.jp
>> HonyaClub.com

南の島の魔法の話
『南の島の魔法の話』
安房直子(著)
講談社文庫
540円(税込)
商品を購入するボタン
>> Amazon.co.jp
>> HonyaClub.com
ポケットのなかの「エーエン」
『ポケットのなかの「エーエン」』
岩瀬成子(作)
柳生まち子(絵)
理論社
1,325円(税込)
※品切・重版未定
>> Amazon.co.jp

魚住 : 会社で正社員として働いたのは2年ほどなんですが、仕事ができなくて落ち込んで、幸福になるにはどうしたらいいんだろう、などと短絡的に考えてショペンハウアーの『幸福論』を読んだりしていました。雑誌の『Hanako』がとても人気のあった時で、そこに漫画家の高野文子さんが連載していた『るきさん』が好きでした。漫画はほとんど読まないけれど、高野さんだけは読んでいて、今自分が持っている中では『棒がいっぽん』が一番好きですね。ガルシア・マルケスの『百年の孤独』や『落葉』などを読んでいたのもこの頃です。会社を辞めたあと安房直子さんを読みました。『きつねの窓』という作品が教科書にも載っている方です。これは桔梗の色に染めた指で窓の形を作ると、向こうに会いたい人が現れるといったお話で。童話なんですが、読んだ後に悲しいような、しっとりした感じになる。当時、講談社文庫で安房さんの本はピンクの背表紙だったのを覚えています。今でも『南の島の魔法の話』などがあると思います。

――大人になってから童話に触れると、また味わいが違いますよね。

魚住 : 会社に勤めていた頃は疲れていたから、子供向けのものが心地よかったのかもしれません。大人になってから読んですごく好きになった児童向けの本では、岩瀬成子さんの『ポケットのなかの「エーエン」』もありますね。柳生まち子さんの絵がついていて、すごく可愛くてお気に入りです。これは結婚した後で読んだ本ですね。

――現代作家の大人向けの小説では、どのようなものを。

さようなら、ギャングたち
『さようなら、ギャングたち』
高橋源一郎(著)
講談社文芸文庫
1,260円(税込)
商品を購入するボタン
>> Amazon.co.jp
>> HonyaClub.com
誘惑者
『誘惑者』
高橋たか子(著)
講談社文芸文庫
1,121円(税込)
※品切・重版未定
>> Amazon.co.jp

魚住 : 高橋源一郎さんの『さようなら、ギャングたち』もこの頃に知って、今でも読み返します。高橋たか子さんは、『誘惑者』がすごく面白くて大好きです。自選小説集も持っていますし、『ロンリー・ウーマン』やわりと最近の『きれいな人』、『君の中の見知らぬ女』なども。『居酒屋ゆうれい』の山本昌代さんは、江戸ものでなく現代ものをよく読みますが、一番好きなのは『手紙』という短編集。今、夜、眠れなくなると必ず『手紙』か、稲葉真弓さんの『午後の蜜箱』『私がそこに還るまで』、それと岩阪恵子さんの『掘るひと』が加わって、その中のどれかを読んでいます。

手紙
『手紙』
山本 昌代(著)
岩波書店
1,890円(税込)
商品を購入するボタン
>> Amazon.co.jp
>> HonyaClub.com
午後の蜜箱
『午後の蜜箱』
稲葉真弓(著)
講談社
1,785円(税込)
商品を購入するボタン
>> Amazon.co.jp
>> HonyaClub.com
私がそこに還るまで
『私がそこに還るまで』
稲葉真弓(著)
新潮社
1,680円(税込)
商品を購入するボタン
>> Amazon.co.jp
>> HonyaClub.com
掘るひと
『掘るひと』
岩阪恵子(著)
講談社
1,680円(税込)
商品を購入するボタン
>> Amazon.co.jp
>> HonyaClub.com

――どういう部分が、お好きなんでしょう。

魚住 : ああ、どうなのかな。例えば稲葉さんの『午後の蜜箱』の中の「ヒソリを撃つ」という短編がすごく好きなのですが、女の人同士の話で、ベタベタしているわけでもないけれど、大人としてお互いを認め合っていて生きていて、でも複雑な思いもあって…というところが、いいのかな。

――幼い頃からずっとそうですが、同じ本を何度も繰り返して読まれていますよね。

魚住 : 昔から、図書室で借りて読んで気に入ったものは買って何度も読んでいました。好きな作家さんの作品は最初に文芸誌で読み、それから本になると買ってまた読みます。「ヒソリを撃つ」も文芸誌に載っている時に読んで、本になるのを待っていたんです。

――同じ作品を何度も繰り返し読まれる魅力は、どこにあると思われますか。

魚住 : 自分の気持ちに染み入るような部分があるんですよね。読むたびに、同じところでペースがゆっくりになっていって、同じところで立ち止まる。時に傷に塩を塗るようで、痛い時もあるんですけれど(笑)。

だいにっほん、おんたこめいわく史
『だいにっほん、おんたこめいわく史』
笙野頼子(著)
講談社
1,680円(税込)
商品を購入するボタン
>> Amazon.co.jp
>> HonyaClub.com
東京島
『東京島』
桐野夏生(著)
新潮社
1,470円(税込)
商品を購入するボタン
>> Amazon.co.jp
>> HonyaClub.com

濁った激流にかかる橋
『濁った激流にかかる橋』
伊井直行(著)
講談社文芸文庫
1,575円(税込)
商品を購入するボタン
>> Amazon.co.jp
>> HonyaClub.com
愛と癒しと殺人に欠けた小説集
『愛と癒しと殺人に欠けた小説集』
伊井直行(著)
講談社
1,785円(税込)
商品を購入するボタン
>> Amazon.co.jp
>> HonyaClub.com

――女性作家が多いのは…。

魚住 : 最近は女性作家のほうが好みですね。笙野頼子さんは『レストレス・ドリーム』や『なにもしていない』『居場所もなかった』の頃から好きで、最近の『だいにっほん おんたこめいわく史』のシリーズも。たまたま今、両親が笙野さんのお住まいである千葉の佐倉に住んでいるんです。私は実際にその家で暮らしたことはないのですが、佐倉やユーカリが丘線なんかが出てくるので「ああっ」と思っています。読み方として正しいとは思いませんけれど(笑)。桐野夏生さんもそろえていますね。『グロテスク』『OUT』『アンボス・ムンドス』『魂萌え!』、最近では『東京島』…。男性作家では伊井直行さんの『濁った激流にかかる橋』『愛と癒しと殺人に欠けた小説集』を読んでいます。

――幅広く読まれていますが、本を選ぶ基準は。

魚住 : 以前は、文庫を読むと、後ろに同時期に出た本を紹介している広告ページがありますよね。あらすじも少し載っているので、それを目印にして本屋さんで探していました。最近は新聞や雑誌の書評と、あとは新聞の文芸誌の広告を見て、お気に入りの作家さんの作品が掲載しているものがあったら買って読みます。ただ、自分が本を書くようになると、例えば児童文学を読むと「私もちゃんとやらないと」とそのたびに落ち込むようになって、あまり読めなくなりました(笑)。だんだんノンフィクションの量が増えてきた気がします。もともと心理学が好きなせいか、精神医学系、社会病理系の本をよく読みます。

【童話を書いたきっかけ】

――作家になろうと思ったきっかけを教えてください。

魚住 : 最初に書いたのは結婚する前で、名古屋に住んでいた頃なんです。毎週日曜日、朝日新聞に童話があって、すごく楽しみにしていたんです。私はそのコーナーをいろんな読者が投稿しているんだと思っていたんですが、ある週、それほど面白くないと感じたものがあって。それで、ものすごく図々しいのですが、私もやってみよう、と書いて投稿したんです。でも実はその欄は、投稿欄じゃなくて、同人誌の方が持ちまわりで担当されていたんです。それを分からず勝手に投稿してしまったのに、連絡がきて、結果的に載ったんです。

――すごい!

魚住 : そんな、たいしたことはかいていないんです。その後、結婚して逗子に引っ越して、子どもがいない時期が5年ほどあって。横浜の会社でずっとアルバイトをしていたんですが、夫の帰りが毎晩深夜の2時3時で、バイトから帰っても一人の時間がすごく長かったんです。その時に、ちょっと勉強してみよう、と思ったんですね。

――童話を、ですか。

魚住 : 最初は普通に大人向けの小説を思い浮かべていました。でも原稿用紙の書き方すら分からないので、朝日のカルチャーセンターで小説の講座を受けようと思って。そうしたら満員で、受付の人が「童話講座ならあいていますよ」と教えてくれて。それで横浜の朝日カルチャーセンターに通うことにしました。

――そんなめぐりあわせが! 講座は役立ちましたか。

非・バランス
『非・バランス』
魚住直子(著)
講談社文庫
470円(税込)
商品を購入するボタン
>> Amazon.co.jp
>> HonyaClub.com

魚住 : はい、すごく。原稿用紙の書き方も教えてもらえましたし。最初、2枚書けただけですごく嬉しかった。起承転結をつけてお話らしきものを書いてプリントアウトをして原稿が出てくる瞬間。あの充実感に満ちたうれしさを、今でもよく思い出します。それで、2枚だったものが5枚書けるようになり、10枚になり、50枚になり…。100枚くらいになると、合評の日にコピーして持っていかなくちゃいけないんですが、コピー代がかかりましたね(笑)。最初は、大人になってから読んだ童話が安房直子さんでしたから、安房さんの物真似みたいなものを書いていたんですが、途中からネタ切れになって。それで動物が出てくる童話のようなものではなく、『非・バランス』の原型のようなものを書いていました。幼い子ではなく、ちょっと大きい子が主人公で、という話ですね。

――『非・バランス』は、中学生の女の子が主人公ですよね。過去の苦い経験から「クールに生きていく」「友達をつくらない」をモットーに学校生活を送っている子。そうしたお話を書くようになって、応募されて。

魚住 : 講師の菊地ただし先生が、公募できるところを書き出して渡してくださったんです。それで、講談社の新人賞や他にもいくつか、書きためたものを送りました。

【作品について】

未・フレンズ
『未・フレンズ』
魚住直子(著)
講談社文庫
580円(税込)
商品を購入するボタン
>> Amazon.co.jp
>> HonyaClub.com
ピンクの神様
『ピンクの神様』
魚住直子(著)
講談社
1,575円(税込)
商品を購入するボタン
>> Amazon.co.jp
>> HonyaClub.com

――そして『非・バランス』で講談社児童文学新人賞を受賞してデビューされたわけですね。どの作品でも女の子たちへのエールを非常に感じますが、大人たちを聖人君子に描かず、時にダメな存在だったりするのが印象的です。『未・フレンズ』の母親なんて、なんて思いやりのない、ひどい人かと! お話は、親は無関心、学校になじめない女の子が、異国の少女と出会うお話なんですけど。

魚住 : ああいうお母さんが書きたい、ということが出発点ではなかったんです。あれを書いた頃にすごくこだわっていたところがあって。「外国では、飢餓や内戦で苦しんでいる子どもたちもけなげに頑張っているんだから、日本の子どもたちも頑張れ」という意見を聞くと、自分が弱虫だからなのか、悲しくなるんです。日本の子どもたちは、今の状況でしか生きていけなくて、ある意味単純に生きるか死ぬかではなく、もっと複雑なところで生きていくのが大変だったりする。飢餓で死にそうな子と比べたら甘い、と言われたら確かに甘いけれど、でも日本の子どもたちも大変だっていうことを書きたかった。だから、ひどい大人ばかり出てくるし、外国の少女に関しても、けなげで純粋、というステレオタイプではない話になりました。

――これまでの作品も、大人が読んでも充分楽しめるものでしたが、新刊の作品集『ピンクの神様』は、児童文学の枠を越え、社会人の女性や幼い子どもの母親など、主人公の年齢がぐっと上がった大人向けの小説集なんですね。人間関係に悩んでいる女性たちの背中を押してくれる作品ばかり。林間学校に行って眠れないという、ご自身の中学生時代と似た状況の中学生の女の子も登場しますが(笑)。

魚住 : 今回は大人の主人公もいますが、そこは自分の主婦としての経験を書いている感じです。幼稚園の母親仲間との関係に悩む話などは、うちは保育園だったので保護者同士の関係が薄かったのですが、幼稚園通いの友人たちの話ではそれが大変そうだったので。

――ピンクのマニキュアをしたホームレスの女性が、いくつかの作品で登場しますね。

魚住 : 以前、うちの近所の駅のそばに、実際そういう方がいたんです。指先だけピンクのマニキュアをつけてピカピカで。どうしてここにいるのか、どんなことを考えているのか、知り合いになりたい気持ちがあったんですよね。一度ペットボトルを置いておいたら、なくなっていました。でも毒入りかもと思って飲んでいないかも…。もう、いなくなってしまったんですけれど。

――実在のモデルがいたとは! さて、今後のご予定は。

魚住 : 今は高校生くらいを主人公にしたものを書いています。今後、どの年齢層に向けたものを書くのかはまだちょっと、分からないですね。作家としてこうしていきたい、というものが強くあるわけではないんです。とにかく地道に頑張っていきます(笑)。

(2008年7月25日更新)

« 第80回 | 一覧 | 第82回 »