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  黄色い目の魚 黄色い目の魚
  【新潮社】
   佐藤多佳子
  定価 1,575円(税込)
  2002/10
  ISBN-4104190039
 

 
  大場 利子
  評価:B
   「マジになるのって、こわくない?自分の限界とか見えちゃいそうで。」なんていう高校生とは、相容れない。信用もならない。あまりに自分の高校時代と違い過ぎるし、そんな時代もあったよねなんて、悠長に振り返って、そんな人もいるさと冷静に思えるほど大人になっていない。読んでいて、そんな物語じゃないのに、つらかった。
 村田みのりにも、木島悟にもなれなくて、その他大勢のクラスメイトの一人になったような気分になる。二人に嫉妬していたけれど、物語の中にそっと自分を入れることが出来て、幸せだった。ただ心地いいだけではなかったが。
 ●この本のつまずき→似鳥ちゃんという名前。ここだけ、浮き世離れしている。

 
  新冨 麻衣子
  評価:AAA
   これぞ2002年マイベスト恋愛小説!! 高校生を主人公とした恋愛小説としては、山田詠美『放課後の音符』以来の傑作と言ってもいい!!
画家である叔父にだけ心を許せるひねくれ者のみのりと、シュールな似顔絵描きが得意なサッカー少年・木島。二人が出会い、お互いの存在を心の中に広げつつ、成長していき、恋をする。だけど単なる恋愛小説だと思うなよ!!と啖呵を切ってしまうほどに、本当にいい小説なのだ。お互いにとって「消えない女になりたい。消えない男になって欲しい。」と願う気持ち。せつない。高校生ものといえば最近はセックス、セックスばかりだけど、久々に、やっぱこれだろうよ、と思わせる恋愛小説。だけど単なる恋物語ではない。二人がお互いの存在から影響をうけることで、みのりは叔父とその空間から自立していき、木島はいろんなことから逃げ続けていた自分を抜け出していく。この二人の恋と成長がみごとなタッグで読む者にぐんぐん迫ってくるのだ。本当によい小説なので、読んでください。

 
  鈴木 恵美子
  評価:A
   小学生の時に描いた三角の黄色い目をした性格悪そうないやあな魚はみのりの自画像だった。家族も学校も大嫌いなヒトやモノばかりで自分の居場所がない、叔父のアトリエだけが唯一のシェルターだったみのりは、クラスの似顔絵王木島の描いた「いやァな感じでよく似てる」絵にキレル。「私は人のヤなとこばかり見える自分を必死でなくそう隠そうとしてるのに堂々と絵にしやがって」。へぼGKでもサッカーやってれば居心地よいポジションがあり、「マジになるのは自分の限界がみえちまう。」恐さから逃げ、ヘラヘラしてた木島はみのりの怒りのオーラを「感電するように受け取った。」8編を貫いている10代の主人公ならではのピュアさにジンとくる。自分の居場所を見つけるのに苦しんだりごまかしたりしてたことさえ忘れてしまった私めさえ、思わず再読してしまって変わらぬ感動。青春の渦中で翻弄されている人はポールニザン風に「それが美しい時代だったとは誰にも言わせない」と大見得きるにせよ、冬の海さえ輝かすようなラストシーン美しい!青春小説ならでは。よいなあ。成長と未来があるということは。

 
  松本 かおり
  評価:C
   「絵」をきっかけに、互いを意識し始める高校生の木島クンと村田サン。モチーフとして、改めて見つめて気づいた村田サンの奥深さ。「輪郭が見えない、果てが見えない」デカさに木島クンは惹かれる。戸惑い気味だった彼女もいつしか「木島の目がほかの誰かを追いかけてしまうのがイヤだ」。いいなぁ、この変化。見つめることが、愛。互いを見る、観察することが刺激になって村田サンの世界は広がり、木島クンの「描きたいパワー」も倍増するのだ。
 前向き恋愛を象徴するかのごとく、終盤では「一生、村田のこと、描きたい」「会えたのが奇跡」「絶対的な運命」とキメ台詞連発。ここに至って若さのスゴさにシラジラ。それは若気の至り、と言いたくなるのは中年女のヒガミか。
 ところで、長野の美和子サンと村田サンの文通はいかに。「今度の手紙で美和子に木島の話〜」と書いて以降、パッタリ途絶えたまま。やはり転校したら最後「去る者日々に疎し」で自然消滅? 現実は確かにそんなもんだからわからないでもないが、尻切れトンボな感じではある。

 
  山崎 雅人
  評価:A
   叔父のアトリエに入り浸る村田みのり、似顔絵がシュールになってしまう木島悟。十六歳の同級生で、微妙な年頃のふたり。他を圧倒するほどの個性を持っているわけではない。どちらかというと普通の高校生である。
 彼らは大人の言葉が届かない心の領域に、見ているだけで痛くなるような、まっすぐで力強い気持ちをぶつけあう。共鳴した感性が鮮やかな色彩を帯び、ふたりは最も光輝いて魅力的な存在としての表情を持ち始める。
 そして、自分をうまく表現できないもどかしさを抱えながらも、湘南の青いキャンバスに、自由な絵を描きだすのだ。
 絵に対する一途な想いを手がかりに、恋、家族、そして自分の存在を不器用に模索する姿が、力強くも繊細なタッチで描かれている。
 日々ゆれ動く複雑な心を持て余していた時代を思いださせてくれる、気持ちの良い作品である。熱き鼓動が胸一杯に響きわたる、さわやかな青春小説だ。

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