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  七王国の玉座 七王国の玉座
  【早川書房】
  ジョージ・R・R・マーティン
  本体 (各)2,800円
  2002/11
  ISBN-415208457X
  ISBN-4152084588
 

 
  大場 利子
  評価:C
   訳者の岡部宏之さん、ありがとう。
 この手の表紙の本には近付かないことにしている。読んだこともないし、苦手に決まっているし、その上、二段組で上下巻。字は大きくない。読む前から、いやな気分満々。陰鬱、憂鬱とはまさに。なのだが、読み終えた。これはすごい。自分を褒めてあげよう。
 丸腰では読めないと判断し、カバーを外したり頁をぱらぱらとめくったりし、登場人物を説明した付録と訳者あとがきを発見する。まず訳者あとがきを読み、これでやっぱり読了したことにしようかとも思ったが、あとがきに訳者の心を感じ、「それぞれの名前、性格、人間関係を掴むことが大切です」とあるので、付録を切り取り冊子にしようかとも思ったが、それは本が可哀想なのでコピーを取り、ガイドを作った。それでも読むのは大変だった。訳するのはもっと大変に違いないという思いが、支えだった。
 ●この本のつまずき→いったい何人登場させるつもりだ。

 
  小田嶋 永
  評価:A
   ファンタジーというジャンル、というかその呼称にあまったるさを感じて敬遠していた人(ぼくのことです)も、これならいける。戦国絵巻の伝奇物語だからである。下剋上の歴史・時代小説が好きな人だったら、必ず楽しめる。ということは、またひとつ読書の楽しみが膨らむということだ。舞台は架空の、未来とも過去ともしれない、あるいは異世界かもしれない王国の争奪をめぐる物語。長く厳しいいつまでも続く冬をもつ北の王国では、その辺境に異形人が出没し、海を越えた騎馬民族集団では、王位を略奪、弑された、ドラゴンを系譜にもつ王家の遺児がその奪還を狙う。現王も、王妃とその一族の野望に利用されるまま。物語は、多彩な登場人物それぞれの物語として、章を替えて書き進められている。登場人物が多く、それぞれの関係・家系図が多彩で複雑そうだが、個性的にキャラクターが書き分けられ、それがまったくステレオタイプではなく、巻末の登場人物一覧のおかげもあって、「これ、誰だったっけ」と煩うことなくストーリーを追うことができる。上下巻2段組みで900ページにならんとするが、これでまだ物語の始まりに過ぎない。おそるべし、〈氷と炎の歌〉シリーズ。

 
  鈴木 恵美子
  評価:A
   警告!「えーっ次、次はどーなっちゃうのよ?」とあれこれ想像し過ぎて不眠症になるおそれがあるので、せっかちな人は全巻完結してから読むべし!「氷と炎の歌1」という表題が既に暗示的だ。古代北の王の血族スターク家6人の子供達に迫る氷雪の試練と、ドラゴンの血を受け継ぐ前王家ターガリエン家最後の末裔デーナリスの、炎の中から誕生復活再生する命。その魔術的妖しさと冷厳残酷な政争の現実感が溶け合って、スケールの大きな世界が展開されている。ディテールも読ませる。現王家をめぐる攻防の中、正義と名誉と友情を重んじる男は、手段を選ばぬ謀略の前で、何と愚かで無惨な存在か。陰謀、強姦、略奪、殺戮、破壊、戦乱の南。「壁」と呼ばれる防壁の周辺、ゾンビのような恐怖の存在が隙をうかがう北。最後に生き残るのは誰か。ほんとドキドキしちゃう!それに七王家のそれぞれが持つ紋章と銘言は、人に誇り強さ美しさを与えるお守りであると同時に運命的血縁の呪縛でもあるんだなあ。かっこいいような、こわいような。

 
  松本 かおり
  評価:D
   「このヒト、誰だったっけ?」。読みながら、いったい何度、自問したことだろう。そして、悲しいかな自答できないことすらあった。小説世界没入への第一歩、肝心な登場人物把握が、なんせシンドクてしょうがない。この人数と種類の多さは何だっ。あとがきに「まず、それぞれの名前、性格、人間関係を掴むことが大切です」とあるが、まさにそのとおり。巻末に「付録」として、各家の説明があるのがせめてもの救いである。
 物語は、小事件は数々あれども、さほど大きな盛り上がりもなく一本調子。まあ、まだまだ先の長い作品らしいので、今回の上下巻はまだ序の口、ということだろう。スターク家の私生児・ジョンが、自分の立場に悩みながらも、これからどう成長していくのか、が楽しみなところ。運動神経抜群の同家の次女・アリア嬢も、良家の子女にしては大胆、活発で魅力的。
 それにしても、カバー絵のゲーム攻略本みたいな毒々しさは最悪だ〜。

 
  山崎 雅人
  評価:A
   わたしは翻訳ものを読むとき、まず登場人物一覧を探す。見あたらないなあ、と思っていたら、ありました巻末に分厚い付録が。9家198人(たぶん)の家系図。脇役と思われる家も数えると、もう何人になるやら。
 栗本薫絶賛の帯に触手がのびたので、ままよと読み始めると止まらない面白さ。昼夜を忘れて、興奮の一気読みとなったのだ。
 主人公はスターク家。王権争いを中心に、ダイヤウルフ(大狼)を従える子どもたちの冒険を描いた物語だ。異世界のロマンに満ちあふれた、七王国世界を知る導入編でもある。登場人物の個性が際立っているため、覚えやすく、すっと感情移入できる。
 剣や魔法、怪物といった要素ではなく、人物の魅力と戦国活劇の色彩が強い、時代劇の趣を持つ作品である。キャラクターに目を奪われがちだが、ストーリーも骨太で濃厚。重厚な歴史絵巻に、SFファン以外も必読である。続巻を待ちつつ、じっくりと楽しみたい。

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