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  幻獣ムベンベを追え 幻獣ムベンベを追え
  【集英社文庫】
  高野秀行
  定価 540円(税込)
  2003/1
  ISBN-4087475387
 

 
  池田 智恵
  評価:B
   いやあ、すごかった。わざわざ怪獣を探しにコンゴまで行ってしまうところがすごいし、その為に様々な人をポジティブに巻き込んでゆく様がすごいし、現地ではマラリアにかかったり、食べ物に本当に飢えたり、とんでもなくすごい。しかも、これは企業やテレビではなく、いち早稲田大学探検部なのである。すごい。同じ大学生(学校は違います)やっていたとは思えないすごさである。もう、最初から最後まですごかった。びっくりだ。
 しかしホンモノの探検というのはままならないものなのだなあ。現地人との意志疎通の難しさや空腹などに苦しむ様子が生々しい。怪獣は見つけられなかったそうだけど、この探検の実行そのものに拍手を送りたい。

 
  延命 ゆり子
  評価:A
   ロマン!ロマン!この本には男の浪漫が溢れているのだ。コンゴのテレ湖にいるとされる幻の恐竜ムベンベを追い求めるため、彼らは仲間を集め、フランス語を学び、リンガラ語を学び、日本の企業に協力を募り、コンゴ政府を説得する。しかし、原住民のボア族に反対されてだまされて、泥と虫に行く手を阻まれ、マラリアに冒され、空腹に耐えながら、彼らは行く。その途方もないエネルギーに泣きたくなる。忘れてました、こんな気持ち。世界が無限に広がっていて、何にでもなれると信じていたあの頃。ヒーン!「おまえら ほんっとに きもちのいいやつらだな」。これは隊員がボア族に対して語った言葉だが、彼らにこそこの言葉を送りたい。
それから、食生活が刺激的。猿の丸焼きとか、死んだゴリラとか(写真をみると、冗談としか思えません)。もう一息で人間も食べられそうだという記述に慌てました。

 
  児玉 憲宗
  評価:B
   早稲田大学探検部。人並みはずれた好奇心と勇気を兼ね備えた、恐るべき“若気の至り”十一人衆だ。
 幻獣ムベンベを探しにコンゴ奥地の密林へ。予想もしなかったトラブルやアクシンデントの数々が彼らを歓迎してくれる。当たり前だ。予想外のことが待っているのが“探検”なのだから。からだは弱り、気は滅入る。“探検”なんて来なければ、こんなつらいめにあわなくて済んだのだ。なのに彼らはなぜ“探検”に行ったのか。そこにはそこでなければ得られない何かが待っているからだ。まさに、彼らはそれを探しに“探検”に行ったのであり、見事、探し当てて帰って来た。とにかく、本当に行っちゃった彼らに拍手のスコールを。

 
  鈴木 崇子
  評価:C
   コンゴってどこにあるのだ〜? 聞いたことはあっても場所までは知らない、遠くの国という印象。そのジャングルの奥深く、神秘の湖に生息するという怪獣「ムベンベ」の探索記。大学探検部の学生中心の自腹を切っての冒険旅行ながら、メーカーからの機材調達や現地の関係省庁との交渉などなど、用意周到で本格的な遠征である。そこには、かつての冒険につきものの悲壮感や使命感はなく、トラブル続出の中でも、からっと明るく、現実的でたくましい若者たちの姿がある。そのせいか、(実際には違うのかも知れないが)軽い感じもしてしまう。
 しかし、その探検以上に印象的だったのは、文庫版あとがきの中のマラリアに苦しんだ田村氏の手記。人間、極限状態に置かれて初めて本当のことが見えてくるものなのか。冒険そのものの結果も大事だろうが、そこから何かを得るのが冒険の面白さでもあるのだろう。

 
  中原 紀生
  評価:C
   人はなぜ探検をするのか。そんな問いはつまらない。ある種の人々にとって、それはなぜ生きるのかという問いに等しい愚問でしかない。探検記の面白さは、感想や情緒を廃した徹底的なリアリズムにあるのであって、ほとんど日常の退屈さと紙一重の上にかろうじて読むに値する表現をなりたたせるのは、尋常でない出来事や痛快な行動などではない。記録はつねに事後に書かれる。すべてが終わり、あらゆる主観の軋轢や生の感情の錯綜が濾過された後で、しかし今なお完結しない物語として綴られるのだ。私にとってあの探検は何だったのか。それこそが問われるべき問いである。その答えを徹底したリアリズムでもって、克明にひとつの客観物として造形しえたとき、はじめてすぐれた探検記が生まれる。そういう意味で、本書で一番面白いのは文庫版あとがきだった。そこに記された「早稲田大学探検部コンゴ・ドラゴン・プロジェクト・メンバー」十一人の、消息不明の一人を含めたその後の人生が、読後の印象をやや濃いものにしてくれた。

 
  渡邊 智志
  評価:A
   探検で未開の奥地に進んでゆく男たちの顔はみんな似てくるんですね。そっくりな顔の友達がいますよ。ところでムベンベって何? これは80年代の話だから、当時はそんなのがいたの? 今も昔も変わらず生き続けてる怪獣? どうせ「みんなの心の中に」「夢として、良い思い出として」生きてるんでしょう? …そんな甘っちょろいもんじゃなかったです。日記調の筆致はあくまで冷静に現実を見てる。やってることが普通の感覚からするとかなりブッ飛んでるから、逆にクール。でもどう考えてもこの人たち「変」。本読んで声出して笑ったのは久しぶり。ムベンベらしき写真は無し。せっかく来たからでっち上げちゃおう、と不純なことは微塵も考えなかったらしい。あくまで純な動機だったことにも感動。最後にメンバーが寄せたあとがき、…泣けるねぇ。30日間病気で倒れていた田村くんの心情は胸に沁みる。自分もアフリカに探検に行きたくなる…、ことはないよね?

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