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お縫い子テルミー
【集英社】
栗田有起
定価 1,470円(税込)
2004/2
ISBN-4087746887
>> Amazon.co.jp
>> 本やタウン
川合 泉
評価:B+
照美の、流しの仕立て屋としての淡い恋と宿命を描いた「お縫い子テルミー」と、同級生の友人に劣等感を抱く小学生の、ひと夏の経験を描く「ABARE・DAICO」。
「お縫い子テルミー」は、作品内の時間の流れがゆったりとしており、照美の性格が上手く醸し出されている。叶わぬ恋とわかっていても、ホステス(!)として働く彼のために、心を込めてドレスを縫い上げるテルミーは、15歳とは思えないほど大人だ。「ABARE・DAICO」は、主人公の男の子がとても純粋で、思わず嬉しくなってしまう。誰でも一度は抱いたことのある友人に対する劣等感。それを自分なりに消化し、次の行動をとることで、人というのは成長していくのだと感じた。
芥川賞候補作だった「お縫い子テルミー」に劣らず、「ABARE・DAICO」も良い!自分らしく生きていくことの大切さを教えてくれる一冊。
桑島 まさき
評価:B
個性的で応援したくなるヒロインだ。どこだかわからないが南の島出身、小学校にも行かず、気がついたら祖母に教わった裁縫を武器に、右手のバッグに生活道具、左手のバッグに裁縫道具をもって上京。住所不定、居候生活の16歳。「人針入魂 お縫い子テルミー」は地に足をつけて都会で生きていく。飄々としているが、テルミーは、案外苦労人。12歳で夜這いをかけられた過去を持つ。なのに少しも悲壮感はない。
そんなテルミーがシナイちゃんという魅力的な歌手に恋をした。居候しているのにシナイちゃんは彼女を女としてみてくれない。恋するテルミーの切ない胸のうちが切切と描かれる。恋しい男からもらったクッションを“私の枕”にし、プロの仕立て屋として自立する決意をするテルミーは失恋したが不幸ではない。そもそも彼女は「不幸」の意味さえわからない。この世で起こることはすべて受け入れていくのだ。恋しい男が見上げる空は自分とつながっている空だ、と言い聞かせ。まるで童話の世界のヒロインだ。薄幸な身でも強く逞しく生きていく少女!
古幡 瑞穂
評価:B+
仕事のやりがいってなんだろう、そんなことをよく考えます。この主人公テルミーは流しの仕立屋。珍しい職業だし、そんな仕事今まで聞いたことがなかったけれど、これを読むと生きるための仕事と生活のための仕事は一緒なようでまったくの別物なのかも。と思ってしまうのです。彼女にとっての仕事って運命以外なにものでもないんですよ。水商売仕事をしながら出会った歌手のシナイちゃんと奇妙な同棲生活を初めて狂おしいほどの恋をするのに、これは絶対成就しそうもない恋です。その欲望を昇華させるかのように命がけでドレスを縫うシーン、好きだなぁ。命を削るようにして行うプロフェッショナルな仕事に心を揺さぶられました!
流しの仕立屋なんて聞くと、すごーく広い世界を渡り歩いたようなイメージを持ってしまうんだけれど、テルミーの生きている世界は実はそんなに広くありません。なのに彼女からはもの凄い包容力を感じます。漂白をしているけれどふわふわしていない…テルミーの真っ直ぐな生き方に触れるときっと元気が出ますよ。
松井 ゆかり
評価:B
表題作も佳作だと思うが、私は併録の「ABARE・DAICO」がよかった。小学生の頃に世間というものに相対したときに感じる不自由さ。同級生への微かな嫉妬心の混じった憧れ。自分の限界を超えたいと強く思う気持ち。ああ、自分にもこんな感覚あったよなあ、でもいつの間にか忘れちゃってたんだなあ、とちょっと切なく思った。
長男がそろそろ主人公コマと同じ年頃だ。もう私には周りではらはら見ていることしかできない(仮に忠告できることがあったとしても微々たる力にしかなり得まい)。コマや友だちのオッチン(ナイスなキャラ!こういう男の子に出会えるのが少年ものを読む醍醐味のひとつだ)は、いまはもがいていても、何年後かに振り返って自分の少年期をまぶしく思うことだろう。願わくは、我が息子たちにもそんな未来が待っていることを。
自分たちが通ってきた少年少女時代を思い出す一編だと思う(あ、「お縫い子テルミー」のこと書いてない。ごめんなさい)。
松田 美樹
評価:A
「お縫い子テルミー」と「ABARE・DAICO」の2作品が収められています。
「お縫い子テルミー」は1つのことに一心に向かっていく、そんな無垢で賢明な主人公・テルミーの姿に親近感を覚えました。何だか、吉本ばななの「キッチン」の主人公が料理にのめり込んでいく姿を思い出しました。周りのことが何も見えなくなって、ただそれだけを真摯に見つめている感じ。この作品の場合は料理ではなくて「縫い物」です。テルミーは自分にとって唯一無二の縫い物だけを信じて、辛い恋を乗り切っていこうとします。帯に書かれている「恋は自由を奪うけれど、恋しい人のいない世界は住みづらい」は、ほとんどの方の共感を呼ぶのではないでしょうか。
でも、どちらかというと、私はもう1つのお話「ABARE・DAICO」に惹かれました。小学生の男の子・コマの両親は別居中で、彼はお母さんと一緒に暮らしています。体操服をなくした彼が、自分で稼いで買おうと内緒で留守番のアルバイトを始めます。1人で何とかしようという健気さというか、自分に対して甘えを許さない小学生っていうのが素敵でした。いい男になりそう!
三浦 英崇
評価:B
「クリエイター」なんていう、どこか軽々しい呼び名より「職人」と呼ばれたい。有形無形の作品を生み出す人々の多くは、心の中でこう思っています。少なくとも私はそうでした。
2編を収めた作品集のうち、表題作のヒロイン・テルミーは、16歳にして既に「職人」の風格を備えた、プロのお縫い子です。自らの持つ能力をフルに使って、世を渡り歩くその力強い後ろ姿が、眩しくて、本当に羨ましかったです。
収められているもう1編、「ABARE・DAICO」は、大人になりたい、自立したい、と願いながらも自己の無力さにじたばたする、小学校5年生の主人公・誠二の、夏休みのさまざまな経験を描いています。
自分の自由になるお金が持てることが大人の証拠だ、と思っていた子供の頃を思い出しました。お金は確かに大事だけど、お金以外にもいろいろ手に入れなきゃいけなかったんだよなあ、と、今になって思います。
心によく効くいい作品集でした。