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トゥルー・ストーリーズ
【新潮社】
ポール・オースター
定価 2,100円(税込)
2004/2
ISBN-4105217089
>> Amazon.co.jp
>> 本やタウン
川合 泉
評価:B
まさしくトゥルーストーリー。ポール・オースターの周りでは、有り得ないような偶然の連鎖が重なり、やがて必然となっていくのです。ポール・オースターがこのエッセイを書いた理由も、きっと「偶然というものは常に起こりえること」だということを伝えるためだと感じました。そして、このエッセイのもう一つの見所は、オースターがいかにカツカツの状態で生きてきたかという話。誇張ではなく、本気で明日の食べ物にも困るような毎日が赤裸々に綴られています。ただ、このエッセイ、作者のどん底人生についてはこれでもかというぐらい書かれているのですが、成功体験はほとんど書かれていません。もちろん、有名になっていった過程は多くの人々の知るところかもしれません。しかし、その時のオースターの気持ちは一体どのようなものだったのか、このエッセイを読むとそこのところが気になります。
個人的に気になったのは、オースターが発明した野球カードゲーム。遊び方まで細かく解説されており、これは是非、実際に作って欲しいほしいです。
桑島 まさき
評価:B
現代アメリカ文学を代表する世界的作家、ポール・オースターのエッセイ。作家になるまでの超ビンボー物語を赤裸々に綴った「その日暮らし」に重点がおかれている。つまり作家の現在までの足跡を辿った“トゥルー・ストーリー”だ。本書にはオースターの人生以外の“トゥルー・ストーリー”も又、沢山登場する。「赤いノートブック」に収められたそれらは、小説の題材になる話(事実)ばかりだ。しかし、だ。それらは奇しくもオースターの前にのみ現れた物語なのだろうか? フツーの人ならばさしたる感慨もなく聞き流す恐れがあったのではないか。それらを作家は我々に聞か(読ま)せる。巧妙な語り口で。さながら奇妙な「事実」を考察するかのように。作家が魅了されている「現実の成り立ち方」は、彼の作品の核となるものだ。
作家はさらに言う。好きな野球選手を前にして鉛筆を持っていなかった為にサインしてもらえなかった悔しさをバネにし「ポケットに鉛筆があるなら、いつの日かそれを使いたい気持ちに駆られる可能性は大いにある」と。そうやってオースターは作家になったのである。
藤井 貴志
評価:A
新しい小説が出たと思いきや、オースターの最新刊はエッセイ集だった……。そんなわけで読む前は少し不満だったけれど、読み始めたらいつものオースター節のオンパレードで楽しめた。本書にはその題名どおり、多くの“不思議な実話”が編み込まれてまれている。これらはすべてオースター自身の経験に基づく実話だからだろうか、著者の肉声をより強く感じた。すでに発表されている小説のネタとも受け取れるエピソードもあり、ファンなら1冊で二度美味しい。
オースターの小説に現れる“魅力的な登場人物”は、エッセイとはいえ本書でも健在である。こうも魅力的な人物が何人も登場するのを見ると、恐らくは彼ら登場人物が取りたててユニークなのではなく、彼らを見つめるオースターの観察眼が鋭くユニークなんだということに気がつく。考えてみれば著者の身のまわりばかりに不思議なことがこうも起こるはずもない。となると、誰にでも振りかかり得る出来事が、オースターの手にかかれば「小説ヨリモ奇ナリ」なエッセイや小説に生まれ変わるということなのだろう。というか、そう信じたいのもファン心理からである。
※銀座のメゾンエルメスで5月9日まで「
幽霊たち ジョン・ケスラー+ポール・オースター展
」が催されています。
古幡 瑞穂
評価:B
お恥ずかしい話ではありますが、オースターの本って今まで読んだことがなかったのですよ。でももちろんその名前と存在の大きさは知っています。そんな大作家が日本のファンのために自ら目次を組んだなんて聞くとそれだけで嬉しくなりませんか?(我ながら単純だなぁ)
内容はエッセイで、若い頃の貧困生活から最近思うことつれづれまでが綴られています。なによりも心を動かされたのは、人を繋ぐ奇妙な縁と偶然がこんなにも沢山存在しているのだということ。そしてオースターという人はそれを素直に受け入れて小説を描き続ける人なんだなと感じます。宗教家と小説家の大きな違いはここで神という存在に一直線に向かうか向かわないかなのかもしれませんね。
装丁もステキです。カバーを外したときの高級感がこれまたいい!持って歩くだけで頭が良くなったような気分が味わえました。
松井 ゆかり
評価:B
ポール・オースターについては、新刊が出たら必ず買って読むというほど熱烈な読者ではないのだが、読めば必ず当たりという安心できる作家だと思っている。自分にとっては「神様仏様稲尾様」的存在だ(私はいくつだ)。
エッセイ集といっても、この本に収められている文章は大まかにいって2種類に分けられると思う。実際に自分の体験したことを綴った文章と、主に他人から伝聞したという「嘘のような本当の話」(あるいは「嘘のような本当の話のような嘘」)の数々だ。後者には、オースター氏の小説世界に迷い込んだような不思議な心地よさがある。しかし、この本を読んで私が感銘を受けたのは、前者のような文章にもオースター氏ならではの味わいが感じられたことだった。力量を見せつけられた気がする。これからはもっと熱心に追っかけていこうかな。
松田 美樹
評価:C
「リヴァイアサン」「ムーン・パレス」で知られるポール・オースターの自伝的エッセイ集。と書きながら、彼の作品は読んだことがありません。名前は知ってはいましたが、それは吉野朔実さんの『お母さんは「赤毛のアン」が大好き』(本の雑誌社)でポール・オースターについて書かれたマンガとエッセイを読んだからです。今回、エッセイ集を読む前に吉野さんのを読み返してみて、ふーん、オースターって「自意識過剰だし自虐的だし気難しい」のか、と事前に頭に入れてから取りかかりました。それで結果はと言うと、偶然が偶然を呼ぶ不思議な体験や本当にあった話を書いた「赤いノートブック」「なぜ書くか」などは面白く読めましたが(ずっと探していた本を持っていた女性に道で出会い、本を譲ってほしいと言うと、読み終えたところだからと譲ってもらった話など)、作家になるまでをの日々「その日暮らし」は特に何も感じませんでした。これは、私が彼の作品読んだことがなくて、彼に関心がないからでしょう。ファンなら興味深く読めるのかもしれません。
三浦 英崇
評価:C
昔、ゲームのシナリオの資料にするため、オカルト雑誌として有名な「ムー」を購読していたことがありました。そこに出てくる「本当にあった○○話」の類は、よく読んでみると「いかにも作り物」な感じが漂っていて、その安っぽさがかえって面白かったです。
さて、この作品。著者の小説作品を全然読んでいないので「そうか。この人はこういう体験を通じて、ああいう作品を生み出してきたのか」という感慨がまるでない分、今回の評価が低くなってしまうのは仕方ないかと思います。しかし、それを差し引いたとしても、ここに書かれている「本当にあった○○話」は、作家としてもきっと一流なんだろうなあ、と予想できるような語り口の妙味を楽しめるし、真に経験した者だけが示しうる重みを感じさせてくれます。
自分の勉強不足が恥ずかしいので、今度、この著者の小説作品を探してこよう、と思いました。