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好き好き大好き超愛してる。

好き好き大好き超愛してる。
【講談社】
舞城王太郎
定価 1,575円(税込)
2004/7
ISBN-4062125684

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  川合 泉
  評価:C
   ずばり、舞城王太郎の小説は、最も書評するのに適さない作品だ。まさに、内容を読みとるのではなく、感覚を読み込む作品である。この書評を読んで下さっている方には、実際に読んで、是非その感覚を感じ取ってもらいたい。本書も例に漏れず、おなじみの舞城節が炸裂!独特の擬音語も健在!はちゃめちゃなエピソードがはさみこまれながらも、最後まで恋人の死という一本の太い芯がぴりりと効いている。
ショッキングピンクの装丁を剥けばアルミ色の装丁が現われたり、舞城氏によるイラストが挿入されていたりと外観にもこだわった作りで楽しめます。ゼロ年代作家は、センスとこだわりが抜群だと毎度思い知らされます。個人的には、「ドリルホール・イン・マイ・ブレイン」より、表題作がお薦めです。

 
  桑島 まさき
  評価:C
   舞城王太郎にはいつも驚かされる。タイトル見てビックリ、表紙みてビックリ!「好き」では足らず「大好き」でもダメ、「超愛してる」ときた。純愛ブームだから「セカチュウ」にあやかって愛を声高に叫ぼうというのか?「好き」や「愛」を象徴する色ピンクを帯に、気持ちが強いだけに表紙は濃いピンクを使用している。さぞかし本作には愛が溢れていることだろう。
 智依子、柿緒、妙子、ニオモという名前による章分け。病弱で死にゆく女達とそれを見守る男達の物語が描かれる。男はかいがいしく好きな女のケアをし祈るが、女のほうは病人特有のワガママをいい男を困らせたりする。それでも男は尽くす。それだけでなく自分の女への愛をもっと突き詰めようとする。〈男の純愛〉という古風なテーマに、幻想的で暴力的なエピソードを絡ませる奇妙なアンバランスが独特の世界を作り上げている。内省的に言葉を重なる作品に、著者の思想やパッションを垣間見ることはできるが、同時に破壊的な作風は好き嫌い分かれるところ。
 目つきの鋭い男の子と女の子のイラスト付き。なんだが怖い。

 
  藤井 貴志
  評価:A
  「芥川賞受賞作」になっていたかもしれない話題作だと期待しながら本書を手にした。
……………。
あれ? 読了したのに小説を読んだという気がしないのはどうして? 物語の世界にいたというよりは、最愛の人を失った心の底にいたという気がする。いろいろな出来事やディテールよりも、愛する人がもうこの世にはいないという事実だけが深く印象に残っている。
わかりやすく整理されて「ここが泣き所」「ここがオチ」と綿密に構成された小説に慣れていると、本作(というか、舞城王太郎という作家?)は簡単には消化できない。本書にしたって「なんだこりゃ!?」と感じる人も少なからずいるはずだ。安易に「感動した」とは言いたくないし言えない、そんな気持ちにさせられる作品である。このじくじくとした奇妙な感じはしばらく後を引きそうだ。

 
  古幡 瑞穂
  評価:A
   どう考えても「世界の中心に向かって愛をさけぶ」という本だとしか思えないんですが…違いますか?
それはさておき。人を好きになる、人を愛するという感情は人生をも左右する大きな意味があるのにいざ相手にその気持ちを伝えようとすると意外とボキャブラリーが少ない気がします。好きですとか、愛してますとか、一緒にいてくださいとか…本当に人を好きになっちゃうとそんな言葉じゃ物足りなく思うんですよね。(なーんて感情をしばし忘れていましたが)
そんな“好き”を徹底的に言葉と物語にしてくれたなーやられたなと。涙は出てこなかったけれど、ものすごく切なかった。これまで舞城王太郎という人の小説はどう読んで良いのかよく分からなかったんですが、今回はテーマがわかりやすくてしっくりなじめました。小説家の治さんのお話、心に染みいります。

 
  松井 ゆかり
  評価:B
   モブ・ノリオ氏の芥川賞会見時の第一声、「舞城王太郎です」というギャグはなかなかよかった。氏の外見や文体は、大森望さん命名の「ヒップホップ新本格」と舞城王太郎的なものとマッチしている気もするし。いっそほんとに同一人物だったらおもしろいのだが。同時受賞したら一人二役できないから覆面作家でよかった、とかね。
 ラップな文体(特に会話部分)に目くらましされるが、表題作は実はストレートな愛情物語。今まで私は舞城作品のよき読者ではなかったので、よもや泣かされるとは思っていなかった。反省しきりです。「セカチュー」ブームの次は「好き好き」ブームか。それは無理か。あ、でも併録の「ドリルホール・イン・マイ・ブレイン」はちょっとストライクゾーン外れました。まだまだ頭が固いかなあ。でも柔らか過ぎて穴が開いても困るってか。

 
  松田 美樹
  評価:C
   以前に読んだ舞城さんの『山ん中の獅見朋成雄』の時には「変わったことを考える人がいるもんだなぁ」と書きましたが、今回は更に更に変わったことを考える人がいるもんだなぁと思わされました。タイトルを見ると、すごーく甘いラブストーリーかと思えるんですが(実際にラブストーリーではあるんでしょうけど)、「ラブストーリーで思い付くお話は?」と100人に聞いても100人ともが考え付かないような内容です(100という数字は適当で、これは1万でも1億でも同じことです)。舞城さんの頭の中はどうなってるんでしょうか?
 また、本の造りが凝っています。この本には2作品が入っているんですが、それぞれの作品で紙質が異なります。表代作は白っぽいの紙、もう1つの作品はちょっと黄なりがかった色の紙です。どういった意味があるのかはわかりませんが、その2つのストーリーの間には作者自身が描いたイラストも挿まれていて、装丁を含めた“本”全てを作者は作品として捉えているようです。

 
  三浦 英崇
  評価:B
   本屋さんに置いていなかった場合、注文するのに非常に躊躇しそうなタイトル。そしてド派手なカバー。外してもやっぱりド派手な表紙。課題図書として手に入れたから良いようなものの、この作品をレジに運ぶのは、相当な度胸を必要とします。タイトルとカバーで相当読者を無くしているんじゃないか、と心配です。中身は、見た目よりは数段真っ当なのに……真っ当か!?
 連日、真夏日が続き、東京では40度行くかも、と言われたくらいの酷暑の中、いつもながら勢いつきすぎてむしろ暑苦しい舞城氏の文章をたどっていると、ああもうなんでこんな一人我慢大会を繰り広げてるんだ俺ー、とツッコミ入れたくなります。だってさあ。全編、愛で満ち溢れてるんですもの。
 奇病で死んでゆく恋人への愛。戦闘機と化した娘をただ見送る無力な自分を嘆き語る愛。世界を滅ぼす魔獣と化した彼女を泣きながら葬る愛……暑苦しいったらありゃしない。でも、羨ましい。こんなにも暑く熱く、人を愛せるとは。