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イデアの洞窟
イデアの洞窟
【文藝春秋】
ホセ・カルロス・ソモザ
定価 2,200円(税込)
2004/7
ISBN-4163231900
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  古幡 瑞穂
  評価:B−
   「これって、知識がある人が読んだら面白い本なんだろうな」という本でした。古代ギリシアで、野犬に食い荒らされた死体などいくつかの変死体が発見されます。その事件の調査に乗り出したのが“謎の解読者=探偵”ヘラクレス。この事件について書かれた「イデアの洞窟」という古い書物を翻訳していく私。まずこの複雑な構造にアタマを悩まされます。しかも文中で翻訳について悩んだり、脚注がついたりするのです。さらには“この表現は直接隠喩だ…なぜだ”みたいな哲学的な検討もするし、そしてそのうちにこの筆者を取り巻く境界のゆがみというか絡み合いが見られるようになってきます。この辺からメタミステリとしての面白さが分かってきたのですが、たぶんギリシア哲学についての教養があれば前半から楽しめるのでしょう。うーんくやしい。
そんなわけで、私にとってのこの読書時間は狐につままれたような気分のまま終わってしまいました。あ、先に読むとネタばれになりますが、あとがきにとても助けられました。このおかげでようやくもやもやが消えたかも。

 
  松井 ゆかり
  評価:C
   なんじゃこりゃ。頭が悪くてよくわからない。
 哲学あるいは史学について通じていればもっと楽しく読めただろうか。それにしても、簡単に「こういう話だ」と説明するのが難しい物語である。本格ミステリ?歴史もの?哲学書?はたまたあとがきにあるようにSF?死体の描写とか気持ちが悪く、ホラーの要素もあるし…。いちばんおもしろかったのは風間賢二さんによるあとがきであった。
 小説の構造としてはすごくよくできてると思う。メインのストーリー(作中話)があり、それに対応して脚注でも別の話(作中における現実の話)が同時進行している。その2つの物語が干渉し合い融合して、どっちが本筋だかわからなくなってくる…もうちょっと読みやすいとありがたいんだけどなあ。似たような仕掛けの小説もいくつかあとがきで紹介されているのだが、寡聞にして未読のものばかりだ。歌野晶午さんあたりに書いてもらえないでしょうか。

 
  三浦 英崇
  評価:A
   あなたが今、この文章を読んでいる「そこ」は、本当の現実世界ですか?
 古代ギリシャで起きた連続猟奇殺人事件の記述を読む翻訳者自身が、文章に示された数々の修飾に酔っているうちに、自らも作品内の比喩と同じような状況に追い込まれていることに気付く、という展開は、夢の中で夢を見ている人の夢を見ている、といったような心境に読者を陥らせ、本当の「現実」って何だろう? という、気の狂いそうな疑問を読者に抱かせます。
 眠れない夏の夜に、こんな本を読むことになった私の気持ちが分かりますか? 「彼ら」の息遣いが、はっ、はっ、はっ、と背中越しに聞こえてくるような気がしたんですよ。こんなにも臨場感溢れる恐怖ってのは、虚構から現実に、何かが浸食してくることによって生じるものです。ひとまず、私が「現実」だと思っている世界に帰ってこられて良かったと思います。
 ここ、現実世界ですよね? え!? 頼むから、何か言って下さい!