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勝手に目利き
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みんな元気。
みんな元気。
【新潮社】
舞城王太郎
定価 1,470円(税込)
2004/10
ISBN-4104580023
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  朝山 実
  評価:D
   目覚めたら隣のベッドで姉が宙に浮いていたってところから始まるのが表題作。主人公とまわりの人物との“関係”がひょいひょいズレたりするから、えっ?ってしばしば戸惑う。あるべき“安定”がないのだ。一見ふつうの子が暴走する「スクールアタック・シンドローム」にしてもそうだが、ハチャメチャに暴走するのは特色で作者の意図でもあるのだろうね。鬼退治に出かけた金太郎がカチカチ山でサーフィンしていた、ふうな話っていうか(例えは無茶だけどノリはそんな感じ)。妄想というか、夢ん中というか、SFな感じ。現実と遮断されながらも、それでいてところでリアルがのぞき見えるというか。「みんな元気。」でいうなら、空で暮らす一家が主人公の妹を誘拐し、三人兄弟の真ん中の男の子を「交換」に置いていく。なぜそうするのか尋ねても答えはない。スジをたどろうとすると不条理そのもの。でも、子を失った家族の欠落感はよく出ている。これってもしかして小説界のウォーホールみたいなものかも……。

 
  安藤 梢
  評価:A
   相変らずの口語調の文章(とにかく読みにくい)にはいまだに抵抗があるが、その軽い文体の隙間から何か核心をつくものが見え隠れしているようで、侮れない。この人の文章は嫌がっていると勿体ないかもしれないな、と少しばかり考えが変わった。まるで子供のようにぐいぐいと伸びる自由な想像力にはただただ驚くばかりである。全く抑圧されていない。読んでいる方としては、ついていくのがやっとである。まず始めの一行からして突拍子もない。固定観念にしっかりと根を張っている一般人の思考など軽々と飛び越えていく。
 人が生きていくことは常に選択し続けていくことで、常に他の全ての選択を殺している、そのことをリアルに具象化し思い知らせてくれた作品である。ただ、長い長い独白を聞いているようなたらたらと続く文章には途中で挫折しそうになる。

 
  磯部 智子
  評価:A+
   おお、これが舞城王太郎か。とにかくしゃべるしゃべるの饒舌文体。登場人物たちも、よくくっちゃべるし、価値観対立しまくり、葛藤しまくり、どいつもこいつも信念もったイカレ具合つーか。それがどうだ、落としどころが物凄く真っ当。家族はよく話し合うし、傷つくのを恐れて自己完結などしたりしない。心も体も傷だらけなのに前向き、みんな元気!なのだ。文体を変えたら自己啓発本?いやこのままでブンガク、世界の真ん中で愛と暴力の御旗の下に叫んでいる、いや、しゃべりまくってる。『みんな元気』は、選ばない優しさなんてウソだという。自分の人生を我が手に取り戻すまで戦いは続く。真綿でくるもうとする親相手にだってそうだ。でも「愛してる、愛されてる」それは紛れも無い事実、だからこそみんな元気で戦えるのだ!『我が家のトトロ』では美しい太陽色のタヌキのような猫レスカが太って太ってトトロに変身!?それが《希望の作り出す架空の存在》だとしてもどうなのだ。『スクールアタック・シンドローム』は人ごとではない。親業も大変なのだ。「人間は想像力を使ってちゃんと相手のことを思いやらねばならない」こんな当たり前の事、恥ずかしくって親が言いきかさなきゃ誰が言うのだ!!

 
  小嶋 新一
  評価:D
   冒頭の『みんな元気』が、表題作だし一番長いし、きっとこの短編集の目玉なんだろう。が、読んでみたら、脳ミソがでんぐりがえりしてしまった。これは何だ〜、正直言って僕には全く理解不能だぞ。姉の身体が宙に浮き、クルマが竜巻に乗り、妹を空飛ぶ家族の少年と交換し、各地のイトウタカコさんが次々と姿を消す……。ストーリーがグシャグシャで、これって実は落丁しまくってるんじゃないの、とか。理解できない自分の感性がお粗末なのか、この小説が特殊なのか。頭を抱え込んでしまいました。
 理解できたのは、5編中2編。人生の希望について解く『我が家のトトロ』は、全編通した「となりのトトロ」論ででもあり、うんうんとうなずかされる。自らの通う学校を襲撃し殺戮をくり広げようとする中学生と、その父親であるアル中・無職男との奇妙な関係を描く『スクールアタック・シンドローム』は、昨今の殺伐とした風潮に一石を投じる作品で、結構よかった。以上!

 
  三枝 貴代
  評価:C
   純文学文芸誌『新潮』に掲載された中短編4編と、書き下ろし1編からなる作品集です。
 舞城さんは好きな作家なのですが、これはいただけません。世間は、舞城さんの純文学進出や芥川賞候補選出などを歓迎したようですが、わたしは純文学をエンタテインメントより低く見ている(読者のニーズから考えて、純文学よりエンタテインメントの方がずっと偉いと思う)ので、なんだか純文学畑が、才能ある我らの舞城先生をスポイルしているような気がして、くやしいのです。
 舞城さんが文体や手法において優れているのは、今更純文学の人たちに教えてもらわなくたって、みーんな知っていますから。その上で、エンタテインメントらしい、読者サービスや構成までばっちりだったから、超お得だったのに。こんなふうに発想の奇抜さと文体の特異さだけで誉められちゃって、それで良しとするのはやめてもらいたいのです。舞城さんには、もっともっと高いところを目指してもらいたいのです。

 
  寺岡 理帆
  評価:A
   初めて読んだ舞城王太郎作品。暴力描写がキツイとの噂でドキドキしていたのだけれど、それよりも慣れるまで戸惑ったのがその文体。とめどもなく溢れて出る文章、しかも時系列すら無視。けれどその独特のうねりに身を任せてみると、これが結構気持ちよかった。全然見えなかった3Dの絵がやっと見えてきた感じ?(笑)
 収録された作品は家族愛に関するものが多い。独特の文体や置いていかれそうな展開や過激な描写にともすると目を奪われそうになるけれど、書いてある中身はかなりまっとう。愛を感じるのよね、これが…。わたしは最後に収録された「スクールアタック・シンドローム」が一番好きなんだけれど、かなりむちゃくちゃな話なのになぜか読み終わると心がほっこりするのだ…。
 とにかく怖くて手を出せずにいた作家だったけれど、読んでみると意外にも好みかもしれない。やっぱり読まず嫌いはダメなんだなあ…。

 
  福山 亜希
  評価:B
   派手で可愛らしい表紙とポジティブな題名から、底抜けに明るいエンターテインメント小説を想像していたのだが、読み始めると目を背けたくなるような暴力シーンがどの短編にも必ず出てきて困惑してしまった。ストーリーの展開が早いので、こちらの読むテンポも加速度的に早くなるのだが、必ずしもその展開は理解できるものではなかったし、また、作者から何か強烈なメッセージが送られてきていることは感じるのだが、果たしてそれが何なのか、完全に理解して受け止めることが出来なかったのは残念だった。
ただし、だからといって、暴力シーンがこの物語の全てではないのだ。字面だけを追えば、馴染み難い独特な世界観と暴力シーンによって物語が支えられているようなのだが、読んでいて暗い気持ちにはならない。奇抜な物語の底流には何かまっとうで正しいパワーが溢れているようで、どうにかしてそれを読み取りたい想いにかられるのだ。この作品では作者のパワーが有り余り過ぎて、物語を少し複雑にしてしまったのかもしれない。作者の他の作品も読んでみたいと思った。