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ヤスケンの海
【幻冬舎文庫】
村松友視
定価 600円(税込)
2005/4
ISBN-4344406486
>> Amazon.co.jp
>> 本やタウン
浅井 博美
評価:C
恥ずかしながらわたしは「ヤスケン」という名編集者を知らなかった。奇妙な風貌や、型破りで豪傑な生き方、大江健三郎氏とのケンカの顛末など、興味深く読める部分もたくさんあった。しかし、著者の村松氏がヤスケン氏を愛するあまりに、私たち読者は彼ら2人の世界を覗かせていただいている、という気持ちしか抱けず、いつも蚊帳の外に追いやられてしまった。村松氏の「ヤスケンはこういう奴だ」という色が下地に塗り固められていることによって、ヤスケン氏のことがよく見えない。ヤスケン氏の著書が数多く引用されているが、それも逆効果で、こんなに多く引用するのなら、ヤスケン氏の著書をそのまま読んだ方が、よっぽどヤスケン氏について理解できるのではないかと感じた。物語調にしてヤスケン氏の人生にどっぷりとつからせてくれるか、冷静なヤスケン氏評であれば良かったのではないだろうか。そのどちらも盛り込もうとした中途半端さが、読者からヤスケン氏を遠く離してしまったように思えてならない。
北嶋 美由紀
評価:B
天才編集者・安原氏(通称ヤスケン)の文学への熱き想いについやした半生記を作者との交流を中心に書かれている。「海」は交流のきっかけとなった中央公論社の文芸誌「海」であろう。
およそ純文学とは遠い世界にいる私が、天才の文学論を批評できるわけもなく、まして実在した人物を批判すべきでもなく、ただただハア〜すごい!と思って読んだ。天才、策士、強引、直情怪行……作者の形容するヤスケンの人となりと、表紙カバーのイラスト(作者が最後の年賀状に描いたヤスケンの似顔絵と思われる)から想像するに、かなりユニークで手ごわい逸材であったろうし、決して長くない人生を完全に燃焼し尽し、かつ家族に悲しみを残さない彼は本当にすごい存在だ。知的レベルが高く、感受性の鋭かった彼にとってつらい子供時代が変人格形成の源だったのだろうか。最後まで編集者たらんとする彼の気迫、闘病日記は壮絶でありながらも何事にも「有難い」と言える謙虚さと正直さがジ〜ンときてしまう。
歯に衣着せぬというより、毒舌に近い論評には舌を巻き、特に「大江健三郎事件」はおもしろく読ませてもらった。
久保田 泉
評価:A+
知る人ぞ知る名編集者にして、自称天才スーパーエディターの安原顯、通称“ヤスケン”氏は、心から本を愛し、ジャズを愛し、家族を愛し、何よりも愛する作家と優れた本や雑誌を産み出すことを愛した人だった。この本は、かつてヤスケン氏と中央公論社の海編集部で机を並べた旧友の村松氏が、氏の知る限りのヤスケン論とも言うべき濃く熱い編集者人生を綴っている。ヤスケン氏のファンだった私は再読だが、人間ヤスケン氏の魅力を痛感した。惜しまれながら、死ぬまで生きてんだ!と言って63歳でガンで亡くなったヤスケン氏。村松氏も追悼の気持ちだけでなく、純粋にヤスケン氏の人を魅了する人間としての才能を自分なりに、冷静に温かく分析したかったのだろう。妻のまゆみさん曰く、単純、寂しがりや、ロマンチスト、小心、わがまま、甘ったれ。だけど駄作と思えば大作家の作品でもクズと言い、その発言を裏打ちする熱狂的な読者として、また妥協なき編集者として最後まで生き貫いたヤスケン氏の人生を、多くの人に読んで知って欲しいと切に願う。
林 あゆ美
評価:C
スーパー・エディター安原顯を、一緒に働き長い時間を共にし、現在は作家である村松友視氏が綴る。
オンライン書店bk1のサイトにて、安原氏の編集長日記をリアルタイムで読んでいた私には、本書の後半かなり重なったが一人の編集者人生をあらためて読めるのは収穫だった。安原氏、通称ヤスケンはbk1で「ヤスケンサイト」オープン時、自己紹介でこう書いている。「重度の活字中毒患者で、新刊だけでも月に100冊以上読み、書評は日に1冊は必ず書いている」 月に100冊、1日1冊の書評! 読んで読んで書いて書いて、編集者なるべくしてのヤスケンだったのだとあらためて感じ入る。
村松氏がヤスケンとの出会いや事件を没後4か月にして書ききった中で、奄美大島事件が心に残る。友のためにしたためた一通の手紙。しみじみした。大きい組織の中で、個人が存分にその才を活かすのは難しい。目に見えないしがらみを解きほぐそうとした手紙には友情が厚く流れていて心うたれた。しかし、心うたれながらも少し引いてしまったのは、ヤスケンの存在そのものは、私個人にとっては他人以上のつながりを感じなかったからか。
手島 洋
評価:A
伝説の雑誌編集者、安原顯の物語。自分が面白いと思う作品、作家に入れ込み、数々の問題、事件を起こしながらも、自分のやりたいことをやりつづけた男。その強烈な人生が雑誌「海」時代の同僚だった作者の手によって書かれているため、社内での安原の微妙な立場、当時の文芸雑誌や文学周辺の状況が実によくわかる。性格や編集に対するスタンスがまったく異なるもの同士がなぜ信頼をおきあっていたのかよく分かった。
しかし、大江健三郎事件、過去の生い立ち、余命一ヶ月を宣告されてからの壮絶な最期、といった部分にスポットを当てすぎているのはちょっと残念だった。彼の編集者としての手腕や仕事ぶり、知られざる一面などをもっともっと知りたかった。癌になってからの日記にページをこれだけ費やすと、結局、自由奔放に生きた善人という印象が残りかねないし、そんなことは彼自身が一番望まないことではないだろうか。
それにしても話の中に登場してくる作家たちの顔ぶれはすごい。『戦後「翻訳」風雲録』を読んでいるように楽しんでしまった。こんな人たちと本気でやりあうパワーはとんでもないものだ、とつくづく思う。
山田 絵理
評価:A
ヤスケンとは安原顯氏のこと。中央公論社の編集者だった人で、『マリ・クレール』の副編集長時代、作家吉本ばななを世に見出している(これが私にとって重要)。
本書は「スーパー・エディター」だったヤスケンの人となりを描いたもの。ぶっ飛んだエピソードや名言(!)、ヤスケンの著書からの引用や幼少期の話まで盛りだくさん。そしてそこに面白みを添えているのが、同僚だったという著者の絶妙なつっこみである。
私のようにヤスケンのことを知らなかったとしても、読むとたちまちその強烈な個性に魅了されてしまうだろう。理想の「文学」「編集者」「読者」を執拗に追い求めるあまり、会社や上司と対立したり、あの大江健三郎氏を怒らせてしまったりと、起こしたもめごとは数多し。まさに自分の思いを貫こうとする人生だ。だって末期がんに冒され医者にホスピスを進められても、「死ぬまで生きてえんだ、コノヤロー」と言って断ったというのだから!
こんなに激しく生きていた人にはなかなかお目にかかれない。このまま知らないでいたら、大損だったと思う。
吉田 崇
評価:C
世の中の事に疎い僕は、だからスーパエディター「ヤスケン」を知らないし、毎度ながらの不勉強、著者の村松友視も初めて読む。そう言う訳で書評することに幾分困難をおぼえながら、まるっきりのフィクションとして本書を読み終えた。
実在した人についてどうこう言うのって、何だかとても気が引けて、まして、まったく見知らぬ人で、けれどもその知人だとか縁戚関係の人は存命な訳で、ははは、でもまぁ、小説の様にして読んだと一応断り書きもした所で、一体何が「スーパー」の所以なのかが判らなかった。大手出版社の文芸雑誌のエディター、あいにく僕にはそう言う知り合いがいないので、逆にイメージ的には「ヤスケン」的なキャラクターの人たちばっかりがいるのがそういう場所なのだと思っていた。だから案外、そうでもなさそうだとちょっと幻滅。大江健三郎の事もちょっと嫌いになった。
うーん、こういう作品は、ちょっとずるだと思う。
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