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WEB本の雑誌今月の新刊採点ランキング課題図書

紐と十字架

紐と十字架
【ハヤカワ・ミステリ文庫】
イアン・ランキン
定価 735円(税込)
2005/4
ISBN-4151755012

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  浅井 博美
  評価:E
   残念ながらわたしにはリーバス刑事の格好良さがこれっぽっちもわからなかった。このリーバスオヤジってば、少女連続殺人事件という一大事が起こっているにも関わらず、捜査している様子も見えず、謎の人物から怪しげなメッセージが送られてきたりして、明らかに事件と関係もありそうなのに、面倒くさがって調べないし、かと思うと別れた妻子のことを思い出してウジウジしたり、陸軍に所属していたときの恐怖体験がトラウマになっているらしくたまに奇行に走ったり、急に女体を欲してしまってバーだかパブだかにワンナイトラブの相手を調達しに行ったりと、とんだ無能刑事なのである。こんな男でも暗く、もったいぶった文章で描けば「孤高の一匹狼」と言われるのだから不思議だ。わたしは本書の文体がそもそも駄目だった。自己満足で粘着質で読んでいていらいらしてくる。クライマックスにさしかかり、わたしのいらいらも最高潮に達した。少女が何人も殺されているにも関わらず重い腰を上げようとしなかったぼんくらが、テメーの娘が拉致されたとなると半狂乱で駆けずり始めたのだ。こんなオヤジのどこが格好良い刑事なのだ?加えて事件の謎解きも陳腐極まりない。憤死覚悟で読んでいただきたいオチだ。

  北嶋 美由紀
  評価:C
   原題のもつ深い意味合いは出ていないが、「紐と十字架」は、主人公の刑事リーバスの元に送られてくる不可解な手紙を示唆する。推理小説の常套で言えば、この種のメッセージは、犯人もしくは犯人に非常に近い人間の手によるものであり、要するに最初から、この連続少女誘拐殺人事件にリーバス自身が大きく関わってくることが予想でき、小出しにされる過去の暗い記憶の描写とのからみで犯人像もぼんやり見えてくる。
 リーバス警部シリーズの第一作目で、約20年前に書かれた本書では、リーバスはまだ部長刑事であり、妻と別れたばかりで、12歳の娘に会うのを喜びとし、刑事としての大した功績もない、ただの疲れたオジサンである。この事件でも大活躍やひらめきを見せるわけではなく、リーバスの話だけでは地味な内容で終わってしまうのだ。しかし、準主役とも言える新聞記者の存在があり、彼が執拗に追うもう一つの事件が用意されている。リーバスの催眠術師(!)の弟と麻薬がからむ事件だ。さらにこの記者とリーバスは上司警部ジルとの恋愛でも三角関係となり、おまけに元妻とウマの合わない上司のばか息子との恋愛もあって、地味な内容に花を添えている。

  久保田 泉
  評価:B-
   良く出来たミステリーで、登場人物の配置、キャラクターの設定、話の長さも程よく、謎解きに幻滅することもないのだが、全体を覆うなんともいえな陰鬱さに、好悪が分かれるかとも思う。
 舞台はエジンバラ。主人公の刑事ジョン・リーバスは41歳。妻とは離婚し、時折会う12歳の娘のサミーの成長に戸惑う父親でもある。ジョンは警察に入る前、空挺部隊に所属し特別訓練まで受けたが、辞めている。その理由に、ジョンの孤独の謎を解く鍵がある。その頃、エジンバラで連続少女誘拐殺人が起こり、捜査は難航した。事件と平行して、ジョンに不可解な手紙と品物が連続して送りつけられる。事件の謎とジョンの謎が交錯し、物語は謎解きのクライマックスを迎える。リーバスの弟で催眠術師のマイケル、ジョンと付き合う広報担当警官のジル、新聞記者のジムなど脇を固める人物も個性的でいい。 

  林 あゆ美
  評価:B
   リーバス警部シリーズ第1作。日本では、刊行年順ではなく邦訳されているが、この作品がシリーズのはじまり。作者によると、1作ずつ完結しているので、どの順番から読んでも大丈夫とのこと。
 物語は、連続少女誘拐殺人事件からはじまる。捜査は難航し犯人が浮かばない。そんな中、リーバス刑事に不可解な手紙と紐が届く。意味をはかりかねるリーバスだが、事件はとうとう娘サミーにまで及び、催眠術師の弟マイケルの力を借り、過去の記憶を引き出さざるをえなくなる。
 過去の記憶、陸軍特殊空挺部隊時代(SAS)の体験はすさまじい。戦いをするために鍛えること、それはこんな事までするのかと、気持ちが悪くなった。しかし、その体験故の事件真相にふみこんでいく過程は、スリリングでページを繰るのをやめられない。ぜひ、シリーズ未邦訳が順に刊行されることを願う。

  手島 洋
  評価:B
   リーバスという一匹狼の刑事が連続少女誘拐事件に巻き込まれていくストーリー。強烈な過去を持ち、それゆえ自分の過去を忘れてしまっている、という主人公。後半で明らかにされる過去は確かに非常に強烈。その部分が凄すぎて、現実の事件にそれほどのインパクトがなかったのも事実だが。冒頭の犯人の様子やリーバスに送られてくる不可解な手紙といった前半からの振りに比べて、後半の事件の解決がちょっとあっけない気がしてしまう。
 記憶から抹消した、ひどすぎる過去を経験したことで自分の人生だけでなく、家族や愛するものたちの人生まで破壊してしまう主人公の悲しみが、彼の普段の生活ぶりや慎重ですぐ疑心暗鬼になる考え方に見事に表現されている。事件解決のために自分の過去と向かい合おうとする葛藤の描き方も巧みだ。
 豊かな生活をしながらも影の部分を持っている弟、リーバスの恋人となる広報担当の警部ジルなど、他の登場人物もひとくせある人物ばかり。その後のシリーズも読んでみたくなる。

  山田 絵理
  評価:A
   歴史ある都市エジンバラで起きた連続少女誘拐殺人事件。時期を前後して、刑事リーバスのもとに結んだ紐が同封された差出人不明の手紙が届き始める。
 事件の謎が明らかになるにつれて、主人公の過去がだんだんと姿を現してくる。かつて陸軍にいたリーバスは、特殊部隊に入隊するための過酷な訓練を受けた。だが終了後ノイローゼに陥ってしまう。彼は今までその心の傷を奥深く閉じ込めて生きてきたのだ。だがそれはふとした瞬間によみがえる。例えば好意を抱いた女性とのセックスの最中に。はらはらと涙を流すリーバスの姿に、いたたまれない気持ちになった。
 心に傷を負い、結婚に失敗し、神にどう祈るべきなのかもわからないリーバス。その寂しそうな姿がたまらない。好きな女性とデートした後、「生きているのは良いことだ、時々だけどそう思う」という言葉に隠された孤独の影。誰かに「大丈夫だよ」と言ってもらいたいのだ、という言葉が心に残った。

  吉田 崇
  評価:D
   現代イギリス・ミステリの最高峰、リーバス警部シリーズ待望の第1作、という事なのですが、ごめんなさい、評価は低いです。本当はちょっとおまけしてCでも良いかなとも思ったのですが、心を鬼にしてこの評価、その代わり同シリーズの新しい奴は出来るだけ読む様にいたします。
 この作品、1987年が初出らしく、つまり、設定に古さを感じてしまったのだ。というか、「新しくない」というか、「どこかで聞いた様な」だとか、「また、これか」とか。今ではすっかり定番なこの主人公の設定自体、多分当時はそんなに古びてはいなかったんでしょうが、敵(犯人)の設定もセオリー通り、キャラ設定を消化しているうちにページがなくなった様な気がして、だから多分、シリーズが進むうちにキャラが立って面白くなるんだろうなという気がします。
 本作品は、デパ地下の試食品みたいなもの。本当においしいかどうかは、シリーズ他作品を読んで判断すべきでしょう。

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