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WEB本の雑誌今月の新刊採点ランキング課題図書

インド式マリッジブルー
インド式マリッジブルー
【東京創元社】
バリ・ライ
定価 1,995円(税込)
2005/5
ISBN-448801643X
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  安藤 梢
  評価:B
   17歳で親の決めた相手と結婚させられる。そんなこと今の日本では考えられないことである。しかしインドではあるのだ。これは、イギリスに暮らすインド人一家の話。主人公のマニーの家では、インドの伝統と一族の名誉のために個人の自由は全くと言っていいほどない。黒人や白人と付き合うのはもってのほかだし、見つかるとすぐ殴られる。児童虐待じゃないか、と言ったところで誰も聞いてはくれない。自分の知らなかった国の、抑圧された生き方に驚くばかりである。人種差別や、インドのカースト制度の問題にも自然と目が向けられており、軽くて読みやすい文体のわりに書かれている内容は重い。17歳でここまで縛られてしまうのは可哀想というほかない。最後、自分の生き方を貫く決意をするマニーだが、家族に対して言葉で気持ちをぶつけてほしかったような気がする。まあ、それができれれば最初からしていたか……。

 
  磯部 智子
  評価:B
   インド版みにくいアヒルの子…もし自分を親と「違う」と感じても、白鳥の親など何処にもいなくて本当の親はやっぱりアヒルだったら。17歳で親が決めた相手と結婚?パンジャブ人社会では当たり前の事だと両親(インド系イギリス人)はいうが、ぼくはイギリス生まれ、兄2人は親の言う事を聞いて結婚してしまったが、ぼくはそんなことを受け入れる事なんて出来ない。家の中では孤立無援さてどうする?そんな日々を作家は軽快でユーモラスに描いていく。選択肢の乏しい人生を送ってきた親は、別の可能性に目をむけ選び取るということを知らない。すると当然子の価値観とは対立する。民族の違いにかかわらず立場を取り替えつつ起こる問題であり、わが身を省みずにやにや笑ってばかりもいられない。マニー(ぼく)が暫く置き去りにされたインド・パンジャブ地方での生活は、牧歌的な情景と共に、インドの持つ根深い問題もチラリと垣間見え興味深いものだった。

 
  小嶋 新一
  評価:A
   誰しも若い頃にはあったはず。街をぶらぶらして、友達とタバコ吸って、女の子を見かけるだけでドキドキして。何でそんなことが面白かったんだろう、って今になって振り返ったら思えるんだけど。この小説を読んでいたら、そんな甘酸っぱい時期を思い出してしまって、懐かしくなってしまった。
 インドからイギリスに渡ってきた移民家族。結婚は親同士が決めるというしきたりから逃れようともがく少年。厳格な父親とその言いなりの兄達との攻防。毎日楽しいのは、友達と街をぶらつくこと。ガールフレンドができたらできたで、どうしたらこの娘と結婚できるだろうと悩む。
 物語の中途で、舞台は一転してインドへ。家族で出かけた故郷に、少年はお仕置きの意味で、一人おいてけぼりを食らう。「刺激のある都会=イギリス」と「何にもなくって退屈極まりないド田舎=インドのパンジャブ」との対比が、ストーリーに緩急をつけていて、読ませてくれる。退屈で退屈ですっかりめげていた中、自由奔放に生きる一族の異端児ジャグおじさんとの出会いに彼は救われ、立ち直る。そこから一途にクライマックスへ。物語にスピード感が加わる。

 
  三枝 貴代
  評価:A
   原題は『(アン)アレンジド・マリッジ』。
 マニーは普通のイギリスの男の子。将来はサッカー選手になって、ミュージシャンになって、小説家になりたい。学校の成績も悪くない。なのに父さんはいつもマニーをなぐるんだ。ちゃんとしたパンジャブ男になれと言って。そう、マニーはインド人移民2世なのだ。親友は黒人、憧れている女の子は白人。父さんは白人も黒人も黄色人も嫌っている。ある日マニーの結婚を勝手に決めちゃった。相手は顔も見たことのない女の子!?
 気持ちの良い青春小説です。描かれている世界はけっこうきついものなのに、マニーの明るく強いキャラクターに引っ張られて、楽しく読めます。マニーはけっして良い子ではないし、やけにならないわけでもありません。が、その堕落が、彼の純粋さを際だたせているようにも思えます。英国で搾取されているインド人が母国では小作人を搾取しているといった現実などもしっかりと描かれていて、物語はけっして子供だましではありません。
 要は、子供にとって一番の理解者は家族とは限らない、まわりの別の大人かもしれないというお話ですが、特殊環境にいる少年の話でありながら、今家族関係に悩んでいる日本の子供にとっても充分感情移入できる良作です。

 
  寺岡 理帆
  評価:B
   非常に軽快な文章でかなり複雑なインド系イギリス人家庭の状況を描いている。読んでいてさまざまな箇所でかなりのカルチャーショックを受けた。13歳の頃から父親に17での結婚を仄めかされ、イギリスに住みながらパンジャブ人としての振る舞いを強要されるマニー。友人が黒人だと言っては殴られ、イギリスにかぶれていると言っては殴られ、よきパンジャブ人となるのが義務とされる彼は確かに極端だが、両親からの期待に反発するティーンエイジャーの気持は世界共通だ。反発しながらもきっぱりと縁を切るだけの力も勇気もないところも同じ。よく考えるとほとんど虐待と言っていい両親の教育方針のもとで暮らすマニーの生活は、下手すると凄惨きわまりないはずだけれど、彼の持ち前の明るさと軽快さがこの本を明るいものにしている。
 マニーの最後の選択は正しかったのか。その答えは本人が出すしかないけれど、彼ならきっと正解にするんだろうな。

 
  福山 亜希
  評価:B
   イギリス在住のインド人一家の話。パンジャブ人としての誇りを持って、決して白人文化に染まってはならないという家族の指針に、一人染まることの出来ない末っ子マンジート。厳格な父親の号令のもと、足並みを揃える家族の中で彼は反発し、親の言いなりになっている兄弟との仲も最低の状況だ。マンジートは、彼らがゴラと呼んで軽蔑する白人の彼女を持ち、黒人の親友とつるみ、他の兄弟全てが従ってきた親の決めた結婚にも、公然と叛旗をひるがえす。イギリス生まれ、イギリス育ちのマンジートは、パンジャブ人の価値観に染まることなんて出来やしないのだ。マンジートの反抗に手を焼き始めた一家は、彼を強制的にインドに連れて帰って、彼にお灸をすえる。初めて触れる祖国の地、祖国の文化。全てが目新しいものだったけど、マンジートの目には、やっぱり全ての伝統が、可笑しく見えてしまうのだ。そして、決められた結婚を破棄するために、彼は画策を始める。ポップでスピード感のある展開に目が離せないけれど、考えさせられるラストは、ただ楽しいだけの一冊ではなかった。

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