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メジャーリーグ、メキシコへ行く
【東京創元社】
マーク ワインガードナー (著)
定価2520円(税込)
ISBN-4488016448
>> Amazon.co.jp
>> 本やタウン
清水 裕美子
評価:★★
オレ様な男はお好きですか? それも肉体派の。
翻訳調の一人称。オレ様が語るオレ物語とカタカナの名前に抵抗がなければ、メジャーリーグの1つの歴史として、野球人の語る人生物語として楽しめる。
1946年の頃メジャーリーグのある時代、メキシカンリーグにお金で引き抜かれた有名選手が次々と登場した。それぞれの地元で野球の天才として育った男達がアメリカ国内でチャンスを掴み損ね、新天地でチャンスを掴み(掴んだように思い)メキシコの乾いた球場で珍プレーを繰り広げる。銃と葉巻と酒がアクセント。
丸太のような腕を持ち、かわい子ちゃんが好きな彼らの語るエピソードは可笑しい。自信と強気をベースに持ちながら、ライバルをひがみ「どうして俺ばっかり……」とだらしない。
私達の世代以降の野球少年達が「タッちゃん、甲子園に連れてって」と言われたい妄想に生きるように、メジャーリーグの中でもメキシカンリーグ物語が伝説になるといいのに。
読後感:細かいデータも本当らしいので、スポーツバーのウンチクに活用できそう。
島田 美里
評価:★★★
かつて、アメリカに黒人メジャーリーガーはいなかったそうだ。そのことを思えば、近ごろ日本人選手が、盛んにメジャーのグラウンドに立っているのは、人類が月面に立ったのと同じくらいの奇跡なのかもしれない。
メキシコの資産家によるアメリカ人選手の引き抜きがあった頃の話である。1946年当時は、アメリカよりメキシコ野球界の方が、選手の身分が保証されていたらしい。ちなみに、この作品は野球の歴史書ではない。事実をもとにしたフィクションだから、ピンポンが意外に上手いベーブ・ルースに出逢えたりして、コントを見ている気分も味わえる。語り手が章ごとに変わるが、一番読ませたのは、フリーエージェント制導入のきっかけとなったダニー・ガルデラ。キーマンが放つオーラは、やっぱり人を惹きつける力がある。
日本人にとって、昔のメジャー、そしてメキシコリーグは、月ほど遠い世界。例えば、王貞治と長嶋茂雄はどちらが先に引退したか答えられるように、肝心な史実を知っていれば、真実と脚色の絶妙なコンビネーションを満喫できたのだろう。ちょっとくやしい。
松本 かおり
評価:★★★
元野球選手たちが、1946年の「黄金のシーズン」当時を語るメキシカン・ホットな野球小説。金にモノを言わせた大胆不敵な引き抜き工作、華麗なプレー、給料問題、人種差別、チームメイトとの関係など、当時の球界事情がてんこもり。野球ファンならば<お国は違えど、野球は同じ>で楽しめる点もあると思う。が、関心ゼロの人は退屈する可能性あり。ま、スポーツには好みがあるので仕方あるまい。(ちなみに私は虎党ダ)
選手たちは、自分の野球人生を振り返ってどう感じるのか? 「何もかも思いどおりってわけにはいかなかったが、けっこういいこともあったってことさ。というより、すばらしいじゃないか。楽しんだだろ。一流のゲームでプレーして、いいやつらと会って、世界を見て。少年たちが描くような夢を、おれたちはなんとか実現してみせたんだ」。達成感あふれるこの台詞は、とてもいい。日本のプロ選手たちも、同じ心境なら最高だ。
延命 ゆり子
評価:★
★
★
★
「メキシコにメジャーリーグを作りたい」
これは壮大なる野望を抱いた男の一代記だ。その男の名はホルへ・パスケル。大金持ちのいかれた男。白のダブルスーツ、エナメルの靴、真珠とダイヤをちりばめた拳銃というコッテコテのスタイルで登場。案の定の男の豪快さに胸がときめく。
妻を寝取った男を決闘の上に殺す。金に物を言わせてメジャーリーグから黒人たちを引き抜く。いつものセリフは「いくらもらってるんだ? その倍払おう」。野球のためなら政治も動かす。アメリカ人選手の兵役を免除しメキシコに来させるために払った対価は8万人のメキシコ人労働者であった。ガビーン。
やることはハチャメチャ。しかしホルヘの愛人が語るインタビューが胸を打つ。アメリカ海軍の爆撃を受けて滅茶苦茶になった町にたたずみながらヤンキースの帽子をかぶっている7歳のホルヘ。アメリカ文化を愛しながらアメリカ政府を軽蔑する少年。いつの間にかこの強欲な男に魅きこまれてしまう自分がいた。
細野 淳
評価:★★★★
メキシコで野球。今となっては想像もつかないけれど、かつては一流の選手達が集まる、メキシカンリーグというものがあったらしい。それも、かなり盛り上がっていたようなのだ。
物語の中心となる時代は1946年前後。その時期、メキシカンリーグを経営する大金持ちの人物が、アメリカから選手を次々とスカウトしたのだ。その時代に、その場所で、記者として取材活動をしていた、フランク・ブリンガー・Jrという人物の視点から描かれた、ルポ形式の小説。小説と言っても、出てくる人物や出来事は皆本当であるとのこと。
メキシカンリーグへ渡ったある選手が、後に当時を回想して、ふと漏らした言葉が特に印象的だった。「何もかも思いどおりにってわけにはいかなかったが、けっこういいこともあったてことさ。」……いやいや、そんな風に思える体験ができる機会って、実はほとんどないですよ。男なら、誰だって一度はそんな体験、してみたいものなのではないのでしょうか?