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勝手に目利き
単行本班
文庫本班
ネクロポリス(上下)
ネクロポリス(上・下)
【朝日新聞社】
恩田陸 (著)
定価1890円(税込)
ISBN-4022500603
ISBN-4022500611
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  島田 美里
  評価:★★★★

  霊的な伝統や風習に対して、畏敬の念を持たない人が多くなると、きっと味気ない世の中になってしまうのだろう。秋の彼岸にお墓参りに行けなかったことを、少し後ろめたく思ってしまった。
 舞台は、英国と日本の文化が融合する「V.ファー」という幻想的な国。聖地「アナザー・ヒル」で行われる「ヒガン」では、「お客さん」と呼ばれる死者が会いに来てくれるという。ミステリーともファンタジー小説とも言い切れない、スピリチュアル小説と呼びたくなるような世界観が、読者の魂をぐいっと引き込む。物語の中心をなす筋のひとつに、連続殺人事件があるが、ヒガンに参加している人同士のおしゃべりは、そのまま謎の検証になっている。それにしても彼らの会話は熱い。百物語を語り合うシーンでは、人知の及ばぬ現象に対する、人々の果てしない探求心を思い知らされた。
 事件が解明に向かうとともに、ヒガンの構造がはっきり見えてくる。涙が溢れ出すような強いカタルシスを感じることはなかったが、今は亡き愛する家族とどこかでつながっていたいという気持ちが静かに浮上してきた。余韻に浸りながら春の彼岸を待ちたい。

  佐久間 素子
  評価:★★★★

 何でもありの、B級恩田陸全開。ホラーともファンタジーともミステリともいいがたいのに、そういった側面もすべてもっていて、でも一番近いのは、ひょっとしてマジックリアリズム?!などと惑わされる。私、けっこう笑いながら読みました。
 舞台はアナザー・ヒル。ヒガンである十一月の間には死者が訪れる特別な場所。この地にはこの地のルールがある。島に入るには許可証がいる。生者は死者が訪ねてきやすいように行動しなければならない。死者は嘘をつかない等々。この作り上げられた制約が魅力的。そして、事件は起き、謎は生まれ、登場人物はわあわあ議論する。ページをめくるのももどかしい興奮と、ふとあびせられる冷水のような静けさを、交互に与えるのは、まさに著者の得意とするところだろう。もっとも、これだけ人を盛り上げておいて、ぷしゅーと収束しちゃうのが不満といえば不満。それにしても、皆何かというと飲んでばかりで(以下、『凸凹デイズ』評に同)。

  延命 ゆり子
  評価:★

 ファンタジー&ミステリー&ゴシックホラーの交錯。謎が謎を呼ぶアナザーワールド。たたみ掛けるようなミステリーの連続にブリティッシュテイストをぶちまけて……やってきました! いつもの恩田ワールドのわくわく感!
 舞台は日本とイギリスが混じりあった不思議な国V.ファー。この国では実体となった死者と再会できるヒガンという行事があった。しかし今回のヒガンは初めからおかしなことが起きる。血塗れジャックによる殺人、境界線上の鳥居に吊るされていた死体、次々に夫が死んでいく黒婦人、死んだ双子の兄を異常に恐れる青年……。
 いわば謎のてんこ盛り状態。こういっちゃあ何だけど途中で思ったよ。これ絶対終わらねえ〜!(結末に納得できない作品が今までにいくつかあったものだから)そんな予感に貫かれながらも、ラストはどうにかこうにか軟着陸した感あり。それよりこれだけ魅力的な設定のアナザーワールドを垣間見せてくれた作者へ、感謝の意を表明したい。

  新冨 麻衣子
  評価:★★★★★

 英国と日本の文化が入り交じった不思議な島国・V.フォー。そこに、死者と交われるとされる場所アナザー・ヒルがある。それがこの物語の舞台だ。国外の人間からは単なるヨタ話と見られているが、V.フォーの人々は当たり前のことのようにヒガン(日本の言葉からとられた)の時期にはアナザー・ヒルに向かう。
 そのヒガンに初めて参加する、主人公のジュンイチロウ・イトウ。半信半疑だったが、現実に「お客さん」(←ヒガンに現れる死者)を見て混乱するうえに、例年のヒガンにない謎の殺人事件に次々と関わってしまう……。
 フワフワとした世界観のなかで起こるスリリングな事件、その奇妙なギャップがたまらない!  こんなに分厚い(上下巻で約800ページ!!)のに一気読みしちゃいましたよ。ラストに向かって盛り上がっていくスリリングさ、という点ではこれまでの作品の中でも一番かも。未読の人はぜひ年末年始にどうぞ!

  細野 淳
  評価:★★★★★

 ともかく小説の世界観に圧倒されてしまう。舞台は日本とイギリスの文化が絶妙に交じり合っているファーイースト・ヴイクトリアン・アイランドなるところ。ヒガンという期間中は、そこの聖地アナザー・ヒルなる場所へ、住民は繰り出す。ヒガンと言っても、十一月に二週間ほど行われる行事であり、目的も先祖のお墓参りではなく、死者に出会うため。アナザー・ヒルは死者が実在として、生きている人間たちと再会することのできる場なのだ。
 そんな神秘的な場所の描写を読んでいるだけでも楽しいが、謎めいた殺人事件がそこで次々と起こる。そして、やがて知られてくる、アナザー・ヒルの実態……。
 二巻に渡る長編小説であり、やや冗長なところもあるが、どっぷりと小説の世界に漬かりながら、グイグイと引き込まれるようにして読んでしまう。まるで、遠い異国で壮大な冒険をしているような気になりながら……。読了後は、そんな冒険を終えた気がして、思わず感傷的になってしまった。