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勝手に目利き
単行本班
文庫本班
東京バンドワゴン
「東京バンドワゴン」
【集英社】
小路幸也(著)
定価1890円(税込)
2006年4月
ISBN-4087753611
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清水 裕美子
  評価:★★★

 <文化文明に関する些事諸問題なら、如何なる事でも万事解決>そんな墨文字の家訓や<本は収まるところに収まる>なんて、ハートわしづかみな言葉があちこちに貼られた日本家屋の古本屋。それが<東京バンドワゴン>。明治創業の古本屋の屋号なのです。近頃隣に小さなカフェも併設。1年を通じ季節ごとに小さな事件が家庭内やご近所に起こり、人情話的な解決がもたらされます。例えば春には古本屋の一番下の棚に朝あらわれて夕方消える百科事典の謎。これが解けると「父帰る」になるのです。淡い恋やなさぬ仲、四世代の家族に加えご近所さんも入り乱れて最後は大円団。
 この本は、古きよきテレビドラマに捧げられたそうですが、キャラの立った中年金髪ロッカーにはにかみ屋の求婚者など「この役はあの役者さんに!」と一人演出まで楽しめてしまいます。女性大好き神主さんが「俺だって若い頃は峰ちゃんとかよ、真子ちゃんとかよ……」そんな小さなつぶやきも前フリになっていたり。お見事!
 読後感:家族揃って泣き笑いできるドラマ

  島田 美里
  評価:★★★★

 下町の老舗で、大家族がドタバタ騒ぎ。懐かしい雰囲気の物語だなあと思いながら読んでいると、昔見ていたテレビドラマの映像が甦ってきた。著者が巻末で、「たくさんの涙と笑いを届けてくれたテレビドラマへ」と記しているが、たぶん、「時間ですよ」や「ムー」のことじゃないだろうか?
 舞台は、風呂屋でも足袋屋でもなく、古本屋。店主である頑固じいさんの勘一に、彼のひとり息子の我南人、それから孫に曾孫と、4世帯の大家族がにぎやかに暮らす。べらんめえ口調の勘一も渋いけれど、ロックンローラーの我南人はもっとイカしてる。ご近所さんの親子関係を修復させるために、屋上で愛を熱唱するという、どうしようもない熱さがいい。我南人の口癖は「LOVE」だが、何だか内田裕也に似ている気がして仕方なかった。LOVEの後に、シェケナベイベーと言ったとしても全く違和感がない。
 古本にまつわるちょっとした事件を解決する物語だけれど、欲をいえば、全員にもっと大暴れしてもらって、エネルギーに満ちていた70年代の空気を、もう少し思い出させてほしかった気もする。

  松本 かおり
  評価:★★

 まず文体でコケてしまった。全4編、進行役を努めるのが、堀田サチなる婆さま。天国から堀田家のすったもんだを見守りながら、読者に状況説明・背景解説をしてくれるのだが、その口調がいかにも婆さま語りの<です・ます調>ときた。これがどうにも私は苦手。なにやら独特の臭みとクドさを感じて、背中がむずがゆくなってくる。
 サチ婆さま、隙なくきっちり仕切るからして、数多い登場人物は会話の応酬に徹するのみ。内面に深く踏み込むこともなく、サーッと読み流せる軽さだけが残る。「少しおかしな風情が気になります」「疑問を感じているようです」「何か言いたげな様子ですね」。完全に婆さま頼み。もう少し想像の余地を作ってもらって、感情移入したい。
 通読して、ハタと気がついた。徹頭徹尾人畜無害な庶民生活物語。これはNHK<朝ドラ>の世界ではないか?! あれも絶妙なタイミングで語りが入るしなあ……。

  佐久間 素子
  評価:★★★

 東京下町で古本屋を営む大家族の人情ホームドラマ、ちょいミステリ風味、といったところ。事件は起きても、悪人は出てこない。予定調和だとわかっていても、気もちよくほのぼのさせてもらえるので、たっぷり癒されてください。
 主役である堀田家の家族構成は、4世代8人に、猫4匹、なのかな。この本の語り手のサチは既に死亡しているが、家族の一員といえば一員だし、そもそも、この家族の境界は曖昧で、どんどん広がっていくのだ。家族志望だと転がりこむ娘もいれば、捨て犬もいつのまにか家族になっているといった具合。家族と家族以外との壁だって、あってないようなものだし。それぞれが自分の気もちに忠実に生きているから、事件は起きる。でも、誰かと誰かがうまくいかなければ、違う誰かが間に入って助けてくれる。誰もがお互いを大切に思っていて、不器用でもちゃんと愛情を伝えられるような人間関係が機能している。お話の上の理想でしょなんて、斜に構えた気もちは不要。たまには性善説に傾いてみるのも悪くないってことだ。

  延命 ゆり子
  評価:★★★★

 「あの頃、たくさんの涙と笑いをお茶の間に届けてくれたテレビドラマへ」
 最後にこうある通り、これはひと昔前のテレビドラマへのオマージュなのだろう。だから毎回お約束のように家族全員のやかましい朝食の風景が出てきたり、おじいちゃんがかなりの一徹ぶりだったり、8人も家族がいていがみ合っている人は皆無、それぞれが相手を思いやって、悪い人が一人も出てこない……なんて、現代では本当にあり得ない人情味に溢れた光景が繰り返し出てくるのだろう。毎回家族の誰かの過去が明らかになり、四方丸く収まるエンディングも寺内貫太郎一家を彷彿とさせるではないか。そのあまりの現実感のなさやフィクションぽさ。それだけに作者の思いが伝わってくる気がする。……残したいんだよね、このぬくもりを。人間関係のありがたみを。人生にはどうやってもLOVEが必要だってことを。素直に、家族っていいよね!そう思えるほんわかストーリーでした。
 それにしてもフラフラと遊んでいるように見える60歳の伝説のロッカー、我南人。内田裕也しか頭に浮かばないのが困りました。

  新冨 麻衣子
  評価:★★★★

 舞台は東京の下町、夢の(?)四世代同居の古本屋と隣のカフェ。家族は大じいちゃんこと堀田勘一含めクセのある面々総勢八名。さらにご近所さんたちも登場して、そりゃもう、あちこちで大騒動。読んでる側としても、ジンとしたりハラハラしたりホッとしたりで忙しいったらありゃしない。  そしてこの小説の上手いところは、勘一の死んだ妻・サチを視点にしているところ。幽霊だから、家族の身に起きる様々な事件を見逃すことはありません。そして何より心配性で優しいサチを視点にすることによって、この物語は何倍もあったかくなってると思う。  一番好きなのはこの堀田家の食事のシーン。加わりたい! ホント、食事の時の会話の応酬は、ページから飛び出しちゃうような勢いがあって、読んでてすごい楽しかった。 普通にオススメできる作品なんだけど、本を読む気力もない疲れた人にこそ特にオススメしたい作品だなと思った。元気の出る小説ですよ。この人の他の作品も読んでみたい。

  細野 淳
  評価:★★★★

 明治から今の世の中までの人間模様、そのかっこいい所を集めたような作品。特に中心的な位置を占めるのが、堀田家の最年長者で、下町の古本屋「東京バンドワゴン」の家主をしている堀田勘一と、伝説のロックンロールスターである勘一の長男、我南人の二人。その下にさらに二世代の家族が同居する。賑やかな家族で、なんだか保守的なのか斬新的なのか分からない感じだが、そんなところが魅力の一つ。そして、その家族を見守る、今は無き勘一の妻チサが物語の語り部。幽霊となっていても、どこか品に溢れていて、昔の優しいお婆ちゃん、みたいな存在だ。
 そんな家族に持ち込まれるちょっとした事件。でも、暗い雰囲気が漂う出来事でも、この家族の持ち前の明るさ、気風のよさなのか、最後は良い方向に向かう。そして、そのたびごとに新たな交友関係が生まれ、また家族同士の絆も深まる……。登場人物が皆、とても粋な生き方をしている小説だ。