WEB本の雑誌>今月の新刊採点>【文庫本班】2008年11月 >『チェンジリング・シー』 パトリシア・マキリップ (著)
評価:
ペリウィンクルは、15歳の少女。父親を海の事故で失って以来、母が惚けたようになっているため、海が大嫌い。そんな彼女の前に、海に恋い焦がれる王子・キールが現れる。「海が好き」Vs「海が嫌い」、「王子様」Vs「貧しい庶民の娘」。全く異なる境遇で育ち、海への思いだって全く逆なのに、反発しつつ二人は惹かれ合う。うわ〜、恋愛小説の王道をいきますね。先の展開が目に見えるようです。海が嫌いといいつつも、海辺の小さな家に住み、海辺の宿屋で働いている。そんなペリウィンクルの複雑な心境が、ふってわいた海竜騒動でどんどん揺さぶられていく。そこにもう一人の王子そっくりの少年やら、年の割に悟ったような魔法使いが現れて、とってもテンポよく話が進んでいきます。「ファンタジー界の女王」「幻想の紡ぎ手」などという紹介文から、「難しい用語や、入り組んだ人間関係が出てくるのか?」と構えていたら、とっても読み易くて安心。イラストも可愛いし、マキリップを読んだことのないライトノベル読者にもウケるでしょう。
評価:
中世の雰囲気と魔法、王子と庶民の娘との恋、王子の出生に隠された秘密、設定としてはかなりオーソドックスなファンタジー小説。わかりやすいので童話のような印象ですが、主人公の母親との関係や恋愛などには今っぽいものを感じました。
本作では海が主な舞台になっていて、突如出現した海竜をめぐっての騒動なんかも起こるのですが、全てはひとつの主題「チェンジリング」に繋がっています。このシンプルさは読者にとって物足りないとなるのか、読みやすいとなるのか人それぞれですが、やはり少年少女向けの読みものですね。
内容とは関係ありませんが、本作の少女漫画的挿絵は、満員電車で読書することの多い私にとってはちょっと恥ずかしかったです。小学館ルルル文庫は少女向けライトノベルですので仕方がないのですが、オッサンにはちと辛いものがありました。
評価:
女の子が好きなお話。庶民の女の子と王子様の出会い、心を通わせるうちに、やがて自分の思ってもみなかった力で王子を救うというもの。そこで、王子と結ばれるというのが王道です。そのままど真ん中というベタな印象の本。おかげで、久しぶりに乙女チックな気分になりました。
夢見がちな要素がつまったファンタジー小説だったので、ティーン向けのライトノベルかと思ったら、作者のマキリップはファンタジーの書き手として定評のある方のようで、「妖女サイベルの呼び声」や「影のオンブリア」などが有名だそう。表紙や挿入されているかわいいイラストのイメージに引きずられるので、できればなしがよかったと思わないでもない。
主人公のペリが家族の不幸を乗り越えていくこと、海に心を奪われた王子キールの真実を探るのが醍醐味でしょう。夜明けや夜更けの海辺のシーンもロマンチックでした。個人的には、魅力的な男性の登場というのも楽しめたところ。淡い恋の予感を感じさせる可愛らしいお話です。
評価:
漁師の娘ペリと海に心を奪われている王子キールが出会い、やがて海の底の国と王子にまつわるの過去の秘密が明らかになっていく、という幻想ファンタジー小説。
ファンタジーは大好きだからワクワクしながら手に取ったのだが……馴染めなかったというのが正直な感想である。幻想ファンタジーなのだから、現実離れした設定や展開はアリなのだ。そうではなく、登場人物の感情の流れや行動がいまひとつ理解できない。「は?」「なんで?」ととまどうことが多く、感情移入できないのだ。マキリップの空想する世界に、自分が全然入って行けていない感じだ。その理由のひとつは、細部をくわしく描写せずにイメージを喚起させるようなマキリップ独特の表現方法に慣れていないせいかもしれない。「〜だから〜は〜した」というような直接的な表現はあまりなく、色やイメージを語る言葉がふんだんに使われるのだが、慣れていないせいか頭の中でうまくイメージが作れなかった。また、翻訳がやや読みづらく、それも入り込めない理由のひとつだったかもしれない。一度読んでみたいと思っていた作家だっただけに、あまり楽しめなくて残念に思った。
評価:
小中学生の時はティーンズハート、コバルト、ホワイトハートなどなど読み漁っていたけど、高校大学でそれらとは完全にお別れ。ところが今年になって「携帯小説」というものを読み始めた。様々なランキングサイトというものがあって、細かくジャンルで分かれた中で簡単な内容とアクセス数による人気ランキングがわかるようになっている。夜中などに無性にファンタジーが読みたい!!という気分になるとアクセスしてみる。馬鹿にして読まず嫌いをしていたけれどたまに面白いものを見つけることもある。ただでお手軽に読める携帯小説が出てきて、ライトノベルの新しいレーベルに需要はあるのかしら…と思っていたけれど、このルルル文庫、毎月海外のファンタジーを翻訳して出しているよう。
海で父親をなくし、海をうらむ主人公ペリは、魔法を使う老婆が昔住んでいた家に1人で住む。そこで海に憧れ、自分の居場所に思い悩む王子と出会う。
海の中のもうひとつの国、神秘的な王子、現実に向き合えない主人公など、惹かれる部分は多いのだけれど、噛み合っているのかいないのかよくわからない会話や淡々と静かに起きる事件がどうにももどかしい。お手軽な携帯小説になれすぎたせい?
そういえばライトノベルって最初は絵のかわいさで買っていたように思う。この作品は、絵柄はとても上手で、作品の静かで幻想的な雰囲気と合っているのだけれど、動きがなくみんな同じような表情で残念。
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