作家の読書道 第179回:田丸雅智さん
ショートショートの書き手として、次々と作品集を発表、さらには一般参加者が作品を作る講座など、さまざまなイベントも精力的に開催している田丸雅智さん。幼い頃にハマったのはもちろん星新一さん、ではいちばん好きな作品は? 他にもハマった作家や作品や、さらにデビューに至るまでの苦労や現在の活動についてもおうかがいしました。
その5「好きな現代作家・自作について」 (5/5)
――さて、最近の読書はいかがですか。
田丸:北野勇作さんが好きで、新刊が出たらすぐ買います。最新刊が『カメリ』っていう、北野さん曰く「アメリ」をもじった完全なギャグなんですよ(笑)。アンドロイドじゃなくてダンゴロイドというやつが出てきたりして、もう意味が分からない。常識にとらわれていなくて、で、ノスタルジックなんですよね、北野さんは。ノスタルジックなのにSF的な未来技術も出てくる。光を突破する、高速突破技術の名前が「亀×アキレス・ドライブ」っていうんですよ。作中、急に「亀×アキレス・ドライブ航法を駆使した」って出てきて、その航法の詳細は一切語られない。もう、わけの分からないことを既成事実にしているんです。それが大好きです。
最近は町田康さん中毒になっています。もともと『夫婦茶碗』を読んで好きだなと思っていたんですけれど、又吉直樹さんが『告白』をいろんなところで薦められているので「これはそろそろ読んでおかないと」と思って読み始めたら、すごく面白くて。いつまでも読んでいたかったです。「終わらないでくれ」と思いました。パンク歌手というバックグラウンドも面白いし、どういうことを考えているのかすごく気になりました。それで、町田さんのエッセイと小説を刊行順に買って、いま読み進めています。『パンク侍、斬られて候』なんてむっちゃ面白いですね。江戸時代の話なのに現代用語が出てきて、暗殺者のところに依頼人がやってくるのに「君、アポ無し」って言う(笑)。あの時代にありえないけれど、僕はもうそれが大好きすぎて。
冲方丁さんも好きです。『天地明察』が面白くて、これは時代小説だけれどこの人はライトノベル出身だなと思い、俄然興味が湧いて。恥ずかしながら『マルドゥック・スクランブル』は有名なのに読んでいなかった、と思って読んだら「うわあっ」と痺れ、『マルドゥック ヴェロシティ』を読んでこの人すごすぎると思って。デビュー作の『黒い季節』を読んだら、エネルギーがものすごかった。そこからエッセイも含めてほとんど読みました。
――ところで、そもそも、田丸さんは星新一さんのショートショートがなぜそこまでお好きなのかなと。
田丸:刷り込みなんでしょうけれど、やっぱりショートショート作品のなかでもピンとくるのは星新一さんです。現実と空想の乖離の度合いがすごく自分の好きな感覚なんですよね。絵本的な、それこそ宮沢賢治の世界みたいな、現実との距離感、空想の度合いがよかった。あまり空想が飛びすぎていても好きじゃないし、現実に添いすぎていてもそこまで好きにならないんです。星さんの感じがちょうど僕の好みにマッチしていたんだと思います。
――いちばん好きな星作品は。
田丸:「壁の穴」という、ショートショートとはいえないくらい、ちょっと長い作品です。一応ファン投票をしたら50位くらいには入る作品みたいです。でもこれは、明快なオチもなくて、たぶん、世間の人が抱いている「ザ・星新一」ではないんです。いわゆるどんでん返し系ではない。でも、ラストが分かっていても、何度も読み返したくなるような、本棚に残しておきたくなるような作品です。
ただ、僕が好きだと言うので期待して読んでみたら結末がショートショートのイメージと違った、と文句を言われることもあります(笑)。でもその時は「あなた、どんでん返しというのは星新一のほんの一部ですよ。実はかなりの量、明快なオチありきではない作品もあるんですよ」と言いたい。
――自分は星新一を継承しているという感じはありますか。
田丸:継承というとおこがましすぎます。でも、星新一が基盤になっていると言えると思います。無意識に刷り込まれている。土台が星新一なんです。本当に直接影響を受けたのは江坂遊さんですね。ショートショートの中に色合いを盛り込んだり、人情味を溶かし込んだりしようとするところとか。表層的な影響は江坂さんで、深層的なところは星新一さんといえるかもしれません。
――デビュー後、次々と作品集を刊行されていますが、毎回テーマがありますよね。『ショートショート列車』は全国47都道府県をテーマにした47作品、『E高生の奇妙な日常』だと高校がらみの話を集めたもの、『家族スクランブル』は家族がテーマ...。こうしたテーマやコンセプトは版元側からの提案ですか? 個人的にはショートショートはいろんなテイストのものをランダムに読みたいので、あまりテーマを括られると飽きるんです。でも『E高生の奇妙な日常』にバーを舞台にしたものが入っていたりと、バリエーションを工夫されているなあ、と。
田丸:バーという舞台は星新一さんの作品にも多いですが、好きなんです。「海酒」という作品で初めてバーのことを書いたときは、そういう店に行ったことはまだありませんでしたけれど。ちなみに、拙著『ショートショート診療所』というのは、もろに星新一さんを意識しています。星さんの作品には病院が舞台のものも多いので。
出版社側からテーマを提案されることは多いです。僕は別にこだわりはないのでプラスにとらえることにして、与えられたテーマから自分にはない引き出しを見つけることにしています。たとえば『ショートショート・マルシェ』では「食」というテーマを提案されたんですが、僕はまったくグルメではないので最初はどうしようかと思いました。でも、挑戦してみるといろいろ発想が広がって楽しかったです。
――今後について告知事項を教えてください。
田丸:47都道府県をモチーフにした47作品が収録された『ショートショート列車』が発売中です。また、今月、『じいちゃんの鉄工所』という単行本が出ました。海のほとりの鉄工所で「じいちゃん」が不思議な発明品を生み出すという、児童書です。実際の僕の祖父母をモチーフにしているので、思い入れの強い本になりました。連載でいうと双葉社のWEBマガジン「カラフル」で俳句からショートショートを書くという企画をやっていたり、「オール讀物」では太田忠司さんと競作の連載もはじまりました。後者は太田さんとお互い全10枚の絵を選んで、その絵にインスパイアされた作品を書くという企画です。隔月連載です。ぜひチェックしてみていただければ、うれしいです。
(了)