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第71回:近藤 史恵さん (コンドウ・フミエ)

近藤 史恵さん 写真

歌舞伎役者、スゴ腕の整体師、キュートな清掃作業員…。ユニークなキャラクターが探偵役となる各シリーズをはじめ、さまざまなミステリ作品を発表している近藤史恵さん。謎ときだけでなく、背後にある人の心理を浮き彫りにさせ、深い読後感を与えるその作風は、どんな作品から影響を受けているのか? 幼稚園児の頃から自分で本を読んでいた筋金入りの読書家が、夢中になった本とは?

(プロフィール)
1969年大阪生まれ。大阪芸術大学文芸学科卒。1993年、『凍える島』で、第四回鮎川哲也賞を受賞しデビュー。複雑な女性心理を描く細やかな筆致に定評があり、『ねむりねずみ』『桜姫』『二人道成寺』など、歌舞伎を題材にしたシリーズで知られる。 他著に、『にわか大根』『ふたつめの月』『モップの魔女は呪文を知ってる』などがある。

【幼稚園児の頃から自分で読む】

――幼い頃の、読書の記憶といいますと。

近藤 : 幼稚園で、毎月童話の本が配られるので、それを楽しみにしていました。その本には子供でも読める簡単な部分と、大人が子供に読み聴かせるための、難しい部分があって。難しいほうを読んでいた記憶があります。土曜日には父親に図書館に連れていってもらい、借りられるだけ本を借りて持って帰る、というのを毎週繰り返していました。親も、本を読んでいたら静かなので、放っておいてくれて(笑)。

――自分でお話を空想したりすることは?

近藤 : お人形遊びでお話を作っていたと思います。ずーっと一人で喋りながら人形で遊んでいるので、親が気持ち悪がっていたらしい(笑)。

――小学生の頃に読んでいた本は。

Yの悲劇
『Yの悲劇』
エラリー・クイーン (著)
創元推理文庫
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少年探偵ブラウン (1)
『少年探偵ブラウン (1) 』
ドナルド=ソボル (著)
偕成社文庫
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近藤 : 幅広く読んでいたと思いますが、やっぱり江戸川乱歩の「少年探偵団」のシリーズや、子供向けのエラリイ・クイーンの『Yの悲劇』など、ミステリが好きでした。ルパンやホームズも読みましたよ。ドナルド・ソボルの『少年探偵ブラウン』は結構本格もので、謎解き編と回答編があって面白かったですね。

――エンターテインメント以外は?

近藤 : 違和感なく読みましたよ。小学校に入ると、最初に教科書を買いますよね。とりあえず、全部読むんです。国語も社会も、教科書なら何でも。といって、勉強はあまりできなかったんですけれど(笑)。わりと活字中毒だったんです。

――わりと、でなくて、かなり、です(笑)。高学年になるにつれ、読む本は変わりましたか。

近藤 : 5年生くらいから大人の本を読み始めました。アガサ・クリスティも好きでしたし、その頃から佐々木丸美さんに夢中になって。中学生になると、『幻影城』の作家さんを読み始めました。泡坂妻夫さんや、赤江瀑さんとか。…その頃からひずみはじめました(笑)。

湖底のまつり
『湖底のまつり』
泡坂妻夫 (著)
創元推理文庫
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乱れからくり
『乱れからくり』
泡坂妻夫 (著)
創元推理文庫
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赤江瀑名作選
『赤江瀑名作選』
赤江瀑 (著)
学研M文庫
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子供にしてあげたお話してあげなかったお話
『子供にしてあげたお話してあげなかったお話』
岸田今日子 (著)
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喰人鬼の噴水
『喰人鬼の噴水』
立原えりか作品集〈7〉
立原えりか (著)
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ねむりねずみ
『ねむりねずみ』
近藤史恵 (著)
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――中学生で泡坂、赤江は渋い! 好きだった作品は?

近藤 : 危険な感じが好きだったんです。幻想的で、ちょっと官能的で。泡坂さんなら『湖底のまつり』『乱れからくり』ですね。亜愛一郎シリーズのような、ちょっとコメディの入ったものも大好きでした。赤江さんは、『花曝れ首』が一番好き。二人の色子が男を取り合う話です。

――謎めいた幻想的なお話に惹かれる傾向が。

近藤 : はっきり覚えているのは、女優の岸田今日子さんが書いた童話集『子供にしてあげたお話してあげなかったお話』に衝撃的を受けたこと。官能的で、危険で、面白いなあ、と。……今思い出しました! 立原えりかさんの童話も好きでしたね。『喰人鬼の噴水』がすごく衝撃的で大好きで、大学生の時にそれを題材に詩みたいなものを書きました。立原えりかさんもちょっと暗いところがあるんですよね。…ああ、今、心の扉が開きました(笑)。

――『喰人鬼の噴水』はファンタジー作品ですが、暗い内容といえば、ホラー作品などは?

近藤 : わりとそっち方面の感性が鈍くって(笑)。怪談を聞いても怖くないんです。ホラー映画も鈍重に見ている感じで、怖くなくて…。あ、クライブ・バーカーは大好きです。今は手に入りにくいですが、「不滅の愛」とか「イマジカ」とか、悪趣味なのにロマンティックで痺れます。あと、古典怪談の『真景 累ケ淵』などは好きですね。落語を文章化したものも読んでいて、人情噺だけでなく怪談噺も読んでいました。

――ああ、近藤さんは『ねむりねずみ』など歌舞伎ミステリもお書きになっていて、古典芸能に興味をお持ちなんですよね。

近藤 : 歌舞伎を好きになったのは高校生の終わりか大学生になった頃。赤江瀑さんを読んでいたので、興味はあったんですが、中学生に高いチケットが買えるわけがなく、テレビで見ていました。歌舞伎って、ちょっと妖しかったりする。鶴屋南北の戯曲を読んで、なんてむちゃくちゃなんだって思いましたね。河竹黙阿弥も、人情ものだけれど、女装の盗賊が出てきたりするし。歌舞伎って、江戸時代は娯楽だったわけですから、伝統芸能だといっても高尚ではなく俗っぽい。文化を楽しむというよりも、お芝居を楽しんでいる感覚です。

【痛々しい話に惹かれる】

――高校時代はどんな本を。

近藤 : 赤江さんたちの流れで、中井英夫さんが好きになりました。『とらんぷ譚』を読み、そこから『虚無への供物』にいって、そこで本格ミステリと出会ったわけです。『虚無への供物』は本当にすごいなと思って、何回も読み返しました。そこから笠井潔さんの『バイバイ、エンジェル』などの矢吹駆シリーズに夢中になりました。連城三紀彦さんを読みはじめたのもそのあたり。好きなのは『戻り川心中』。連城さんの作品には、世界を反転させるほど強い思いを描いた話が多い。狂気が入っているくらいの思いが書かれた話がすごく好きなんです。笠井さんや連城さんは、今の自分の創作に密着していると思います。私の小説を読んで連城さんを連想した、と言われたことがあるのですが、やっぱりすごく影響を受けていると思う。表面に出てくるものは、違うかもしれませんが。

とらんぷ譚 中井英夫全集3
『とらんぷ譚 中井英夫全集3』
中井英夫 (著)
東京創元社
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虚無への供物(上)
『虚無への供物(上)』
中井英夫 (著)
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バイバイ、エンジェル ラルース家殺人事件
『バイバイ、エンジェル ラルース家殺人事件』
笠井潔 (著)
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戻り川心中
『戻り川心中』
連城 三紀彦 (著)
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日々の泡
『日々の泡』
ボリス・ヴィアン (著)
曾根元吉 (訳)
新潮社文庫
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うたかたの日々
『うたかたの日々』
ボリス・ヴィアン (著)
曾根元吉 (訳)
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――海外作品は。

近藤 : ボリス・ヴィアンですね。『日々の泡』とか『心臓抜き』とか。

――新潮社版は『日々の泡』で、早川書房版は『うたかたの日々』の。

近藤 : そう。ねずみの一人称が違うんですよ。新潮社版だと女言葉。女性の一人称になっている。早川は普通な言葉なんです。

――そこまで読み比べているとは…。

近藤 : ちょっと幻想的なラブストーリーでしたよね。思いが純粋すぎて痛々しい話が好きなんです。フランス文学はわりと好きでした。ミステリだと、セバスチャン・ジャプリゾも読んでいましたし。

――ご自身で文章を書いたりは?

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『凍える島』
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近藤 : 遊びで友達とリレー小説を書く、といったことは高校生の頃にやっていました。大学が大阪芸術大学で、創作の授業もありましたが、歌舞伎の研究を主にやっていたので…。本格的に書き始めたのは『凍える島』がはじめてなんです。

――デビュー作が、はじめて書いた作品ですか!

近藤 : そうなんです。大学では小説ではなく、現代短歌などをやっていました。中井英夫さんの流れから塚本邦雄さん、寺山修司さんにいって、現代短歌が好きになって。言葉の美しさ、きらびやかさに興味があって、そこから演劇に興味がいって…。歌舞伎も見つつ、小劇場にも足を運んでいました。

――中学生の頃はお金がなくてなかなか見られなかった歌舞伎を。

近藤 : 夜行バスで東京まで行っていましたね。今はその体力がありませんが(笑)。

【休憩時間に読書】

――卒業後は?

近藤 : 教授に「歌舞伎の研究を続けるか」と聞かれて「続けます」とは言っていました。最初は、呉服屋のようなところに就職して、着物を売りながら趣味で研究を続けていこうと考えていたんです。でも、就職してみたら………正直、すごくつまらなくて(笑)。拘束時間は長いしノルマのようなものはあるしで、嫌になってしまって。拘束時間が長い分、休憩が日に2回、2時間あって、その時にいつも本を読んでいました。そのあたりで新本格に出会いました。綾辻行人さんや法月綸太郎さん、我孫子武丸さんといった第一世代が出て、北村薫さん、山口雅也さんたちが東京創元社から出て…。むさぼるように読みました。そうしているうちに、自分も書きたいなと思いはじめました。仕事がつまらない腹いせに(笑)、気分転換にただ書きたい、という気持ちでした。作家になれるとは思っていなかった。いつかなれたらと思っていました。

――そして書いたのが、鮎川哲也賞を受賞したデビュー作『凍える島』だったんですね。

近藤 : はじめてちゃんと書いて、はじめて応募して、創元の編集長から最終選考に残ったと連絡を受けた時には本当にビックリしました。運がよかったなと思います。

――自分も書きたい、とまで思わせた新本格の魅力というのは。

近藤 : 私は最後に何かがひっくり返る瞬間が好きなんです。カタストロフ、みたいな。今まで見ていたものが、実は違うものだったという瞬間がたまらない。そういう意味では、どんでん返しに惹かれた、ということですよね。

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山口雅也 (著)
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『ジェゼベルの死』
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『銀河ヒッチハイク・ガイド』
ダグラス・アダムス (著)
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星を継ぐもの
『星を継ぐもの』
ジェイムズ・P・ホーガン (著)
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『天使はモップを持って』
近藤史恵 (著)
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――これは度肝を抜かれた、という作品は。

近藤 : 山口雅也さんの『生ける屍の死』、有栖川有栖さんの『双頭の悪魔』。すごく好きです。

――海外のミステリは…。

近藤 : 実はあまり読んでいなくて、デビューした時にこれはいけない、とディクスン・カーや、クロフツを読み始めました。編集者と話していて「それは読んでいないんです」と言うと「それはまずいです」と言われ(笑)、いろんな作家さんたちに会うと、みなさんミステリに詳しくて。それで読み始めたら、すごく面白かった。ただ、私はクレイグ・ライスのような軽妙でキャラクターが立っているものがすごく好きで。

――『大あたり殺人事件』とか『大はずれ殺人事件』とかの。

近藤 : トリッキーですけれど『ジェゼベルの死』などのクリスチアナ・ブランドも好きでした。

――ちなみに、ミステリー以外はどんなものを読まれていたのでしょうか。SFとか、いわゆる純文学系とか…。

近藤 : 読み手としては、何でも読むタイプだと思います。SFで今ぱっと思いついたのは、ダグラス・アダムズの『銀河ヒッチハイク・ガイド』、ジェームズ・P・ホーガンの『星を継ぐもの』とか。あと、ジョン・アーヴィングも大好きです。11月に新刊が出るそうなので楽しみです。

――デビュー後は、お仕事は辞めたんですか?

近藤 : 辞めて、どこか別のところで働きながら書こうと思っていたんですが、そのまま就職せずにバイトと作家生活に入りました。清掃作業などをやっていました。

――ああ! 近藤さんにはお洒落な清掃スタッフ、キリコが謎を解く『天使はモップを持って』のシリーズがありますよね。

近藤 : 掃除は楽しかったですね(笑)。結果がすぐ見えるし、充実感がある。後はパソコンの打ち込みもやりました。長く続いたのはその二つかな。そのうちにバイトをしなくても何とかなるようになりました。

【歌舞伎から自転車まで、幅広い趣味】

――普段の読書生活は。

近藤 : 読書スイッチが入ると、1日3冊くらい読むんですが、入らないと2週間くらい何も読まない。それこそ、グラン・ツールに入ると何も手につかない(笑)。映画も歌舞伎も好きですし…。

――映画もかなりご覧になるそうですが、好きな監督などは?

ピアニスト
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ファニーゲーム
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近藤 : 大作よりも、ヘンなのが好きですね。『ピアニスト』でカンヌ映画祭グランプリを取ったミヒャエル・ハネケとか。オーストリア出身で今はフランスなどで撮っている。今度英語版でリメイクされる『ファニーゲーム』は、善良な家族がひたすらいたぶられるだけの挑発的な映画なんです。あとは、フランソワ・オゾンとか。

――やっぱり、めちゃくちゃハッピー!…という作風のものではないんですね(笑)。

近藤 : ひねくれたものが好きなんです(笑)。

――映画に歌舞伎に執筆に…。その間に読まれる本は、どう選ばれているのですか。

近藤 : 最近は厳選して、量を読むより好きなものを何度も読み返しています。読んで面白かったものを英語やフランス語の原書で読んでみたり。原書と翻訳文では、表現がまったく違ったりするんです。その面白さがありますね。こんな風に訳すんだー、と思ったり。

――繰り返し読まれたのは?

近藤 : 『日々の泡』や、ダニエル・ペナックの『人喰い鬼のお愉しみ』などのバンジャマン・マロセーヌのシリーズは、好きなシーンだけ、どんな風に書かれているのか拾い読みしています。通しで読んだのは『異邦人』。あとは、チャンドラーの『長いお別れ』を読んだらすごく面白くて、その他の作品も読んでいます。テリー・レノックスは意外に萌えキャラだなと思ったりしながら(笑)。

――厳選されているということですが、どうやって選んでいるのですか。

近藤 : 本屋に言ってアンテナにぴぴっとひっかかったものを読みます。最近アンテナが発達したのか、そんなに外れはないですね。人に「読め」と言われて読んでつまらないと腹が立ちますが(笑)、自分で選んだものはじっくり読むせいか、つまらないと思わない。新潮社のクレストブックスあたりは、外れがないと思います。最近はイスラム圏内から亡命して書いている人をよく読んでいます。ヤスミナ・カドラの『テロル』『カブールの燕たち』、マーシカ・メヘラーンの『柘榴のスープ』、小説ではないけれどアーザル・ナフィーシーの『テヘランでロリータを読む』、あとはカリール・ジブランとかに興味があって。ちょっと今、翻訳もののモードが入っていますね。日本の作家だと、文体が肌に合わないと読みづらく感じる場合があるんですが、翻訳ものはもともとリズムがねじれているから読める。

テロル
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『カブールの燕たち』
ヤスミナ・カドラ (著)
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柘榴のスープ
『柘榴のスープ』
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テヘランでロリータを読む
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アーザル・ナフィーシー (著)
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――同世代の若手作家は読まないのですか。

近藤 : 読みますよ。舞城王太郎さんの大ファンです。伊坂幸太郎さんもうまいな、かなわないな、と思いますね。宇月原晴明さんのゴージャスな作風のファンで、デビューされた時から読んでいます。自分とは全然違う作風の人のほうが、読むには好きかもしれません。古川日出男さんのような、手が切れそうな鋭い感じのする人が、読み手としては好き。書き手としては、自分はぬるいほうだと思っているんですけれど。

【心の動きに興味が】

――歌舞伎ミステリから警察小説から、いろんな題材を取り入れていますよね。社会病理や心の病など、特に女性の微妙な心理をリアルに描いている。

近藤 : 社会病理みたいなものを描けたらな、とは思っています。人の気持ちの動きに興味があるんですよね。ミステリでも、トリックよりも、なんでそうなったのか、ホワイダニットが気になる。

――そうしたノンフィクションも読むのですか?

近藤 : 心にひっかかったものを解きほぐすために、資料として読みます。読書としては、基本的にはフィクションが好きですね。

サクリファイス
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――さて、新刊『サクリファイス』もホワイダニットを描いたもの。これは自転車のロードレースのプロチームが舞台。そもそも、自転車に興味を持ったきっかけは?

近藤 : 2、3年前。最初は自転車を買おうと思ったんです。ママチャリではなくいい自転車を買おうと思って調べてみたら奥が深く、モノとしても魅力的で、自転車自体が好きになったんです。レースも見たいし、勉強していたフランス語もいっぱい聞きたいし、ヨーロッパの風景も見たい、ということでツール・ド・フランスを見たら、予想外に面白くて。

――『サクリファイス』は、ロードレースという競技の複雑さが分かるところも面白かった。同じチームの人を勝たせるための捨て駒的な、アシスト役の選手がいるんですよね。主人公は、そのアシストに徹する選手で。

近藤 : 私も最初はビックリしたんですよ。走っている選手はみんな、個人個人で争っていると思っていたらそうではなくって。かなりロードレースにハマりまして、テレビを見て好きな選手を応援しているうちに、ふっとこの小説が頭に浮かんだんです。それで、人に書かれる前に書いちゃえ、という(笑)。ロードレースを描いた作品は他にもある。ただ、斎藤純さんの『銀輪の覇者』ではアシストはまた違った感じで描かれているし、漫画でも、安田剛士さんの『Over Drive』、曽田正人さんの『シャカリキ!』は、チームプレイというより個人勝負の面白さが描かれる。今回書いたのはアシスト役ですが、私はイケイケな主人公は書けないんです(笑)。内省的な人を書く方が好きです。基本的に文系だからでしょうね。

銀輪の覇者(上)
『銀輪の覇者(上)』
斎藤純 (著)
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Over Drive(1)
『Over Drive(1)』
安田剛士 (著)
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シャカリキ!(1)
『シャカリキ!(1)』
曽田正人 (著)
小学館文庫
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――複雑なルールのあるロードレースならではの事件が起きる。事件の真相が、もう、衝撃的でした!! タイトルの言葉が、胸に突き刺さりますね。今回、こうしてスポーツミステリを書かれて、またジャンルを広げましたね。

近藤 : 興味あることを書くのが、一番面白いと思うんです。無理して広げることなく、書きたいものを、書いていきたいと思います。

(2007年9月28日更新)

取材・文:瀧井朝世

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