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ミサイルマン
平山 夢明(著)
【光文社】
定価1680円(税込)
2007年6月
ISBN-9784334925574
>> Amazon.co.jp
>> 本やタウン
小松 むつみ
評価:★★★★☆
ゴクリと息をのむ残忍さ、バシッと膝を打つストーリーテリング。ゾクゾク、ワクワクしながら、怖いもの見たさと、展開への好奇心に押されてページをめくらずにはいられない。
7編からなる短編集だが、全編グロテスクな表現があり、その類が苦手な方にはおススメできないが、すべてがそのような場面の連続というわけではないので、多少の勇気があれば大丈夫だろう。こういう作品は、そのグロさばかりが取り上げられがちだが、確固たる世界観が感じられ、展開も巧い。
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神田 宏
評価:★★★★☆
破滅的な暴力が極限までレベルを上げるとき、そこには無機的な寂寥感の裏に辛辣な現代文明への嫌悪と批判が立ち上がる。それは、近未来における臓器代替器官として生きるクローンの悲哀として。肉体改造への狂気じみた執着へのイロニーとして。不老不死の人狼の悲劇として。オカルトじみた力の、<顕現>を通じて。死体嗜好者の破滅的な疾走の中に。病んだ文明を暴きたてる表現装置としての本書は、フィルムとしての隠喩が似つかわしい。高速度で明滅する無慈悲な暴力の炸裂の開放によってのみ印画されたポジとして間接的に表現され得る現在の病。そしてその像をさらに明瞭にするには、光度を上げるしかなかったかのように辛酸極める無慈悲な暴力は、やがて読者のリビドーの横溢をうながして止まない。毒を毒で制した感のある危険な書である。
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福井 雅子
評価:★★★☆☆
自転車泥棒がきっかけで行動を共にするようになったシゲとツヨシが、おもちゃを手にとって遊んでいるかのような気軽さで快楽殺人を繰り返す表題作をはじめ、凄惨で狂気に満ちた世界を冷徹な筆致で描いた衝撃的な作品7編を収録した短編集。
楽しみのために人を殺し、生皮を剥いだり、死体をいじくりまわして遊ぶという凄惨な行為を繰り返す主人公たち。そこには、いわゆる「狂気」から連想される血走った目や興奮状態などはなく、テレビのお笑い番組についてのたわいもない会話を交わしながらの、おもちゃのフィギュアか何かをいじくりまわすような楽しげな行為が描かれている。この行動のあまりの異常さに、戦慄するほどの恐怖を感じる。冷徹で凄惨な狂気を描きながらも、その向こうに「生きる哀しさ」のようなものを表現している……とも思えるのだが、哀しさを感じる心とここに描かれた行動は、果たして同じ一人の人間の中に共存しうるものなのか考えてしまう。ここまで壮絶な狂気を書くことで表現したかったものは一体何だろうか。とりあえず確実に言えることは、これほどの衝撃的な内容を下品にならずに文学作品としてまとめる文章力をもつ平山夢明が、ただものではないということである。
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小室 まどか
評価:★★★★☆
なんなのだ、このインパクト! 初読にしてすっかり参ってしまった。
SF風味のミステリともホラーともつかない独特の味を持つ短篇集。明らかにどこかがブチ切れた登場人物たちが形成する、予測のつかない世界。そこは未来なのか、われわれの暮らしている現在の日本なのか、どこか遠い国なのか――。いずれにしろ、突如酸鼻を極めるようなスプラッタが展開されたり、受け入れがたい現実が目前に提示されたりするのだが、不思議とそこで目を背けたいという気持ちよりも、先に進みたいという吸引力のほうが勝ってしまう。
これだけ凄惨な場面を描いているのに、怪奇小説にありがちなべっとりと貼り付くような後味の悪さがなく、むしろどこか可笑しささえ伴う清々しささえ覚えるのはなぜだろうか。これらの作品が、「人間の全存在を揺さぶる」とは帯の言葉だが、ある意味、生に対する人の根源的な渇望を抉り出すことに成功しているからかもしれない。
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磯部 智子
評価:★★★★☆
昨年のこのミス1位になり、噂は聞けど、いやむしろ聞けば聞くほど後退りしてしまった平山作品。新刊が課題になり観念して読んだら、これが、うげっというほど気色悪いが実に面白かった。大体この「病的に乾いた笑いと、裂けた糞袋……現代最狂のハードボイルド作家」という帯は、推薦文になっているのだろうか。7編の短編はどれが好きかと聞かれても答えようがなく、どの作品もガラスを爪で引っかいたような神経に障るものばかり。しかも描写は映像的で、目の前にまざまざとその光景が浮かんでくるから堪らない。と書いていて、あれっと思ったのが、登場人物たちに全く感傷的な属性を与えていないと言うこと、まさに読む映画のような小説であり、奈落に落ちていく途中で命綱をつけられていたことに気付く安定感がある。『テロルの創世』で、去年話題になったあの問題作を吹き飛ばし、『けだもの』では、人とオオカミの境界を笑い飛ばし、『枷』では猟奇殺人鬼と義理の娘の究極の親子愛をコントでみせ、表題作『ミサイルマン』ではスプラッターな兄弟仁義に泣かされる。エログロアレルギーで品性良好の士でも、この小説はきっと楽しめるはず……だと思う。
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林 あゆ美
評価:★★☆☆☆
「テロルの創世」「Necksucker Blues」「けだもの」「枷(コード)」「それでもおまえは俺のハニー」「或る海岸の接近」「ミサイルマン」の7作品が収録されている。
「それではおまえは俺のハニー」は見た目80歳のエミを、50を超える男が「おまえは俺のハニーだよ」と日々愛をふりまく物語。仕事も家もない俺は、ある時偶然エミと出会う。耳が聞こえないエミの家には、部屋の中にくまなく黒電話が並んでいた。なにはともあれ、俺とエミはぞっこんの仲になり、ほどなく、黒電話がやかましく鳴り始める。ガリリリリと鳴る電話のせいで俺はだんだん平常でいられなくなり……。電話とエミの秘密がみえてくると、ガリリリの音も違って聞こえてくる。他の作品にくらべて、せつなさ度ある話。しかし、いずれもなかなかにグロく、読み慣れるまでおえっとなったが、グロさだけでは終わってない吸引力も感じた。けど、「Necksucker Blues」は最後までダメだったなぁ。
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