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WEB本の雑誌今月の新刊採点【単行本班】2007年8月の課題図書ランキング

ゴーレム100
ゴーレム100
アルフレッド・ベスター(著)
【国書刊行会】 
定価2625円(税込)
2007年6月
ISBN-9784336047373
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  川畑 詩子
 
評価:★★★☆☆
 SFはうといので、その背景や位置付けは分からないものの、とにかくどんどん加速するストーリーが面白かった。しゃれや言葉遊びがちりばめられて、会話も軽妙でポップ。方々に楽譜やバーコード、絵が出てくる試みも実験的で楽しめた。
 はじめは陰惨なホラーの雰囲気。それが無意識の世界に潜っていき、人間の精神を問うスピリチュアルな展開に。ヒロインのグレッチェンは頭脳明晰かつチャーミング。彼氏をリードしながら協力し合って、得体のしれない魔物に立ち向かう……。が、しかしそんな我らがグレッチェンに与えられた驚きの運命! 最初はこれ、実験や妄想部分?と思っていたけど、なんかもう全て了解、OK、OKな気分に。グレッチェンの疾走に伴走いたしました。

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  神田 宏
 
評価:★★★★☆
 読後、あまりの奇怪さに唖然となる。こりゃバロウズだわ。と彼のジャンキー作家を思い出す(山形浩生氏の解説にも指摘がある)。未来の北米大陸には巨大なスラム街「ガフ」が広がる。そこで暇をもてあそぶ8人の「レディ」が好奇心から降霊術を執り行うと彼女たちの深層に眠る無意識が集合体として怪物「ゴーレム100」を産み出す。その怪物の奇怪な殺人事件に巻き込まれる香水調合師=化学者の日系人ブレイズ・シマと彼の身辺を調査する精神工学者グレッチェン・ナンと「ガフ」の警察官のインドゥニによる「ゴーレム100」の正体を暴く追跡が始まるが……「ゴーレム100」は人々の集合的無意識の特に性的衝動と深く繋がっていて、放射性のドラッグを自らに打ち、その真相に迫るシマとナンであったが、広がるインナー世界に自らの意識も変容が加わっていって……といったところがストリーの概要であるのだが、そのインナー世界の描写が意味不明の文字の羅列や絵文字、逆さ文字、グラフィック、インクのしみ、さらにはロールシャッハテストの文様まで現れ、それが過剰にちりばめられた性的単語のスラング(ガフ風)と饗宴をページ上で繰り広げる。まさにLSDで幻覚めいた光の明滅の上を意識が深層へとむかってらせん状に下降するうちに巨大な集合的無意識の中で主体が溶解するかのような、あのバロウズを彷彿とさせるトリップワールドなのである。やがてその変容は「ゴーレム101」として再君臨をはたすのだが。この言語とグラフィックの暴走の饗宴=狂宴を奇書、怪書と呼ばすにはいられない。しかし、紙媒体に印字された本作品のアナログめいた予言はもはや高速度で消費される情報の嵐の中で個を越えた集合の意識を模索するかのような現在のネット上の意識の変容を見るにつれまだ、良心的に思えてしまうのだ。そういった意味では1980年刊行の本書はデジタルな世界での人々のあり方を予言する未来の書でもあったのだ。

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  磯部 智子
 
評価:★★★★★
 読み出した途端に目が覚めた。本を持ち歩きところ構わず読んだ。短編集『願い星、叶い星』で、面白いんだか面白くないんだかと言う微妙な感想を抱いたが、これはもう絶対面白いと断言したい。ストーリーを追うと陳腐になってしまうが、ざっと書くと、22世紀の巨大都市「ガフ」で、想像を絶する凄惨な(というかカツオブシムシに貪り食われるような理解不能な)連続殺人事件がおこる。どうやら犯人は「蜜蜂レディ」と呼ばれる8人の富裕層の女たちが呼び出した悪魔ゴーレム100らしい。それに立ち向かうはインド人敏腕警察官インドゥニ、科学者シマ、美貌の黒人精神工学者グレッチェン。個性豊かな(豊か過ぎる)彼らが意識を超えた未知の領域まで戦いの場を広げていくが……解釈無用、ジャンル特定不可能なこの作品には、空いた口が塞がる暇もなく、このバカバカしい小説を読めて幸福だとひたすら感謝するばかり。いかなる状況にも笑いを潜ませ、戯画化して見せる翻訳文の巧さにも悶絶死、原文もこんなに面白いのだろうか。山形浩生氏の完全無欠過ぎて解り辛い解説や、虎の尾を踏むことも恐れぬ訳者あとがきも、ベスターが憑依したかのようなセンス炸裂で最後まで最高に楽しい本だった。

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  林 あゆ美
 
評価:★★★★★
 SFに明るくない自分が果たしてこんな大著を読めるのだろうかと、ひるみながら読んだ。しかし、予想に反してページを繰るごとにおもしろく、ぐわっと一気読み。翻訳された言葉の豊饒さを堪能し、反芻し、書かれていることをまるごと楽しめた。
 22世紀の巨大都市で、新種の悪魔ゴーレム100が召還される。このゴーレムは8人の蜂蜜レディたちによってつくりあげられた――。
 ページを繰っていると突然イラストや楽譜が挿入される。文章だけでなく視覚的にも驚きに満ち満ちている本書。ただの言葉遊びを楽しむだけでなく、もつれあったような言葉をほどけさす快楽がある。西暦2280年の過剰で饒舌な言葉は思わず声に出して読んでしまう。「おっと! 乳柔礼! 目オッ杯入らんかったらしい。聞いと計、あんたが冷凍保存の棺桶(かんおケ)ホケホん中で縮凍まってた間になにが運とあったか、女男&おれがおし入れちゃろう。」こうして、入力するだけでも大変な言葉の数々を、しかしながら日本語ですらすらと読ませてくれる。偉業をなしえた翻訳者の方に深く感謝! とにもかくにもおもしろかった。

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