『子どもたちは夜と遊ぶ(上・下)』

子どもたちは夜と遊ぶ(上・下)
  1. デカルトの密室
  2. どちらでもいい
  3. ちなつのハワイ
  4. 凍える海 極寒を24ヶ月間生き抜いた男たち
  5. DRAGONBUSTER 01
  6. 昭和電車少年
  7. 子どもたちは夜と遊ぶ(上・下)
岩崎智子

評価:星4つ

四年間のアメリカ留学が副賞である、学部生対象の論文コンクール。最優秀賞は、秀才肌の狐塚か、天才肌の浅葱か、どちらかと思われた。遊び人タイプの恭司。結果が気になる月子。ところが選ばれたのは「i(アイ)」という謎の人物。そして二年後、就職を控えた彼等の周辺で、連続殺人事件が起こる。犯人は一部上巻で明示されているので、「いつ事実が判明するのか?」「残りの犯人は誰?」という二つの謎が、物語を引っ張る。但し、似たような設定の漫画や映画があるので、ミステリファンなら、犯人の正体については見当がつくかも。でも、そちらの謎が解けてしまっても、今度は彼等の恋愛の行方にハラハラ。自分よりも広い肩幅と、大きな手を持ち、いつも自信満々の発言ばかりしている男。「この人には、助けなんか要らないんじゃない?」と思っていた彼の背中が、不意に、世界で一番弱くて小さく見える。そして、その背中を自分の小さな手で守ることが、この世で一番大事に思える。そんな経験をした女性なら、登場人物の独白「ああ、この人はこんなに弱くてかっこ悪いんだ。(中略)そばにいたいと思ってしまった。(下巻p347)」に共感できるのでは?

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佐々木康彦

評価:星4つ

 殺人の内容や、序盤から正体が明らかな「θ(シータ)」のトラウマ、その他諸々に目新しさや驚きはないものの、見せ方がうまいので、そういったことがマイナス要素になっていません。それに、人物と人間関係の描写がとても素晴らしく、特に月子と紫乃の関係は非常に深い。我の強いもの同士なのに、紫乃の前では自分を殺す月子。この関係性の裏にある月子の真意にはとても納得出来るものがありました。
 また、大ネタの「i(アイ)」の正体については主要な登場人物に均等にそして順番に嫌疑の粉をふりかけていて、フーダニットについての楽しみも失うことなく最後まで読むことが出来ましたが、最後の方はバタバタしちゃった感もあり、もっと掘り下げて欲しい部分とかもありましたので、そこは本当に個人的ですが、残念でした。上下巻千ページ以上ありますが、非常に読みやすい文章で、分量の多さを感じずに読めました。

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島村真理

評価:星5つ

 登場人物たちは、完全には大人になりきれないところにいる子どもたち。そして、何らかの傷を負った子どもたちがあふれています。痛々しく重い内容も、上下巻の分厚さももろともせず、一気読み。それは、特に前半で力を入れている人物の肉付けのおかげでしょう。過剰に派手なギャル姿の月子、秀才で人もいい狐塚、クールで天才肌の浅葱、遊び人の恭司、それぞれが魅力的で、個性的でみんな好きにさせてくれます。
 日常の中で空回りする恋心。きっかけはささいな勘違いなのに、やがて病魔のように静かに進行して悲劇になる。誰もが孤独なのに、自分だけだと思い込んでしまう悲しさ。せつなくて泣くしかありません。一方通行の想いを残虐な殺人ゲームと絡めて深刻にして、辻村深月という作家はほんとに残酷なことをする。
 でも、これは魂をゆさぶる話です。誰にでも、倒れても立ちあがれる強さがあると信じたいと思います。大好きな彼らに幸せが訪れるように。すばらしい作家のすばらしい作品に出会えましたと思いました。たくさんの人に読んでもらいたい本です。

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福井雅子

評価:星5つ

 最初のうち、いとも簡単に人が殺されてゆく衝撃的なだけの薄っぺらい話だったらいやだなあと思い、身構えて読んでいたが、途中からはぐんぐん引き込まれて一気に読んでしまった。確かに現実離れした話だし、登場人物の誰にも共感できない。かといってファンタジーのような感動もない。でも、ありえない話をきちんとひとつの世界として成立させるだけの構成力や文章力はすばらしいし、どこか読者をひきつける魅力のある作品だと思う。登場人物に全面的に共感はできないのだが、それぞれの感情の断片には「わかるなあ」と思わせるものがあり、読み進むうちに物語の行方から目が離せなくなった。
 怖い話ではあるが、人間、心のどこかが壊れてしまったときには想像もつかない形でその影響が現れるのかもしれない、などと考えさせられ、昨今実際に起きている凶悪犯罪が頭をよぎった。読み終えてみれば、予想以上に深みのある作品であった。

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余湖明日香

評価:星3つ

「すごく面白いんだけど、登場人物の存在や発言に納得がいかない伊坂幸太郎作品を読んでいるよう。」変な例えだけれどもし友人にこの本を貸すならこう説明するだろう。
かっこよくて頭のよい登場人物たちが、無記名の論文コンクールから始まった不可解な連続殺人事件に巻き込まれ、それぞれの孤独を抱えながらも気持ちを通わせていく。
伏線が丁寧で、下巻では驚く仕掛けも用意しぐいぐい引っ張る。
だが、登場人物がゲームや漫画の中の人物のように感じてしまうのだ。あまりにも自分の周りの大学生や教授と様子が違っているからかもしれない。もちろんこれは小説だから、かっこいい人も秀才も天才も美少女も遊び人も登場していいのかもしれないのだけれど…。物語が面白いだけに、その違和感が余計印象に残ってしまった。

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