第119回:小路幸也さん

作家の読書道 第119回:小路幸也さん

東京・下町の大家族を描いて人気の『東京バンドワゴン』シリーズをはじめ、驚くべきスピードで新作を次々と発表している小路幸也さん。実は20代の前半まではミュージシャン志望、小説を書き始めたのは30歳の時だとか。そこからデビューまでにはひと苦労あって…。そんな小路さんの小説の原点はミステリ。音楽や映画のお話も交えながら、読書遍歴や小説の創作についてうかがいました。

その4「小説を書き始める」 (4/6)

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――小説家を志したのはいつ頃ですか。

小路:男って30歳になると考えるんですねえ(笑)。28歳で結婚して子供が1歳半になっていたんですが、このまま広告業界にいてもオレのものがないじゃん、って思うようになりました。ずっとソングライティングをしていた人間ですから、自分の作品を作り出したい気持ちがあるわけです。広告で作ったものはチームとしての作品。そうじゃなくて僕だけのものを作らないとダメなんじゃないかと思いはじめ、じゃあ何ができるのかって考えて、小説を書くしかない、と。30歳の誕生日に「オレは小説家になるぞー!」と決心したんです。

――そこから応募をはじめて。

小路:作家になるには新人賞に出すしかないと思い、仕事の合間をぬって書き始めて応募しました。最初に応募した小説すばる新人賞が2次か3次に残って、翌年は最終選考に残り、これはいけるかと思ったらあっさり落ちて。小説すばる新人賞は最終に残ると担当編集者がつくんです。その編集者から「来年もぜひ応募してください」と言われて翌年応募してまた最終に残って落ちて、「また応募してくださいね」と言われてその次の年も応募して最終に残って、三度目の正直だと思ったらまた落ちちゃって。心が折れそうなくらいガックリきましたね。37歳になっていましたし。そんな時にゲーム会社にいる友達が「ゲームのシナリオがあるんだけれど読んでくれないか」と声をかけてきたんです。ノベルゲームというもので、たくさんの選択肢を選びながら読み進めていくゲームです。読んでみたらこれがまたひどかった。しかもそれが村上龍さんの『5分後の世界』が原作だったんです。「これは村上龍さんが嘆くだろう」と言ったら「じゃあお前書いてよ」と言われて。これが単行本15冊分くらいの量があるんです。「書くとしたら会社辞めなきゃいけない」と言ったら「じゃあ辞めてよ」。もう37歳だし、小説ではデビューできないし、子供が2人いて家のローンもある。でもここで何か決断しなきゃオレはずっと会社で鬱々としながら過ごすことになる、と思い、会社を辞ようと決めました。もう、ドッキンドッキンでしたけれどね。そこから2年間はゲームのシナリオを書いていました。シナリオを書きあげたら契約終了ですから、その後はフリーとなって専門学校でゲームシナリオの講師などをしていました。それで、集英社の編集者に「もう1回応募していい?」と連絡したら「歓迎だけれども選考委員も変わっていないし、うちからは難しいかもしれない、もうちょっと変わったところに応募してみたら? メフィストはどう?」と言われたんです。「小路さんの書くものはミステリっぽいし、不思議な設定も入っているし、合っているんじゃないか」って。ちょうどメフィストがブイブイいわせていた頃ですね。書いて応募したのが42歳。そこでいきなり受賞しました。

――いやあ、応募先を変えてよかったですね。

小路:受賞した『空を見上げる古い歌を口ずさむ』は兄弟の話で、昭和40年代くらいを振り返るストーリーですが、たまたま読んでくれたのが唐木さんという僕と同年代の編集者だったんです。しかも弟がいるそうなんですね。何もかも分かる! と思ってくれたようです。唐木さんが読んでくれたから受賞できたようなものです。

――これはホラーテイストの作品でもありますが、メフィストを意識して書かれたものなんでしょうか。

小路:原型は何かのホラー大賞に応募しようかな、と考えていた話なんです。これを応募したらどうかなと考えていた時に、親父の死というものがありまして。親父と一緒に過ごした、自分が生まれた町のことを書いてみようと思ってパルプ町を舞台にして、話が出来上がっていきました。もともとは不思議な出来事について考えていた時に「周囲の人がのっぺらぼうに見えてしまう少年がいたら怖いだろうなあ」と思いついたことからスタートしたストーリー。それでようやくデビューしたわけですが、作家を目指してから13年かかりました。

――作家を目指していた時期に読んでいたのはどんな本ですか。

小路:ありとあらゆるものを読んでいました。宮部さんも京極さんも大好きでしたし。影響を受けた作家はいるかというと、具体的にを挙げるのは難しいですね。心の師として挙げるのはアーウィン・ショーやデイモン・ラニアン、矢作俊彦さんやエラリー・クイーンですが、書くことに影響は与えられていないと思います。例えば矢作さんみたいなハードボイルドを書こうとしたら、物真似になってしまう。僕、物真似は得意なので(笑)、矢作さん風に書こうと思ったらその通りに書いちゃうと思うんです。強いていえば、映画やテレビドラマには影響を受けていると思います。会話のリズムとか、場面の切り替えとか。『東京バンドワゴン』のシリーズはホームドラマにすると決めて書いたものですから、場面の切り替えが15分になっているんです。僕の小説には、自分が今まで見てきたすべての映像の影響があるんじゃないかな、と今思いつきました(笑)。

――ではちなみに、とりわけ好きな映画って何ですか。

小路:『小さな恋のメロディ』、『スティング』、『フォロー・ミー』。これらは何度も観ています。『小さな恋のメロディ』は子役の二人、トレイシー・ハイドとマーク・レスターも可愛いし、マークの親友役のジャック・ワイルドもよかった。家庭環境があまりよくないやんちゃな男の子。相棒にしてみたら二人が恋に落ちるのは面白くないんですが、最後には祝福するところがいいんです。二人がトロッコを漕いでいくラストシーンも忘れられないですよね。『スティング』はあのどんでん返しに驚いて、これが物語の力だなと思いました。観客を騙してもいいんだな、とも思いましたね。『フォロー・ミー』は小学生の頃に観た映画です。はじめて観た海外作品だと思う。ロンドンの町や公園を美しい女性が歩き回り、飄々とした探偵が後を追っていく。なんだろうこの美しさは、と、すべてにやられてしまいました。探偵が着ていた白いコートに憧れて「ああいうのを買ってくれ」と親に頼んだら「ダメだ!」って言われて泣いた憶えがあります(笑)。この映画にオマージュを捧げたのが『東京公園』なんですよ。最近は年をとったから、年を感じさせる人が主役のものに弱いですね。『レスラー』は主人公とミッキー・ローク自身が重なって泣けるし、イーストウッドの『グラン・トリノ』も、イーストウッドが演じる老人が泣けますよね。あとジェフ・ブリッジスの『クレイジー・ハート』。落ちぶれたカントリー・ミュージシャンが復活する話で......これも泣けますよねえ。

――そういえば、漫画もよくお読みになっていたんですよね。

小路:姉の影響で少女漫画をよく読みましたし、今でも好きでコミックスは買っています。小さい頃は右手に『なかよし』、左手に『別冊マーガレット』、脇に『少女フレンド』という状態。特に『りぼん』が大人気な頃で、田渕由美子さんや陸奥A子さんたちがいました。他には大島弓子さんやくらもちふさこさんも未だに読んでいます。それとやっぱり萩尾望都さん。『ポーの一族』は僕のバイブルです。愛蔵版やら何やら、いろんな版を全部持っています。あの続編を書きたいんですよ、僕。今『別冊文藝春秋』に連載中の「蜂蜜秘密」はそのへんの香りがプンプンしているので、『ポーの一族』が大好きだった30~40代の方には分かると思います。

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