第119回:小路幸也さん

作家の読書道 第119回:小路幸也さん

東京・下町の大家族を描いて人気の『東京バンドワゴン』シリーズをはじめ、驚くべきスピードで新作を次々と発表している小路幸也さん。実は20代の前半まではミュージシャン志望、小説を書き始めたのは30歳の時だとか。そこからデビューまでにはひと苦労あって…。そんな小路さんの小説の原点はミステリ。音楽や映画のお話も交えながら、読書遍歴や小説の創作についてうかがいました。

その6「人気の『東京バンドワゴン』シリーズ&新作について」 (6/6)

シー・ラブズ・ユー (2) (東京バンドワゴン)
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小路 幸也
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スタンド・バイ・ミー  (3) (東京バンドワゴン)
『スタンド・バイ・ミー (3) (東京バンドワゴン)』
小路 幸也
集英社
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マイ・ブルー・ヘブン  (4) (東京バンドワゴン)
『マイ・ブルー・ヘブン (4) (東京バンドワゴン)』
小路 幸也
集英社
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オール・マイ・ラビング (5) (東京バンドワゴン)
『オール・マイ・ラビング (5) (東京バンドワゴン)』
小路 幸也
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オブ・ラ・ディ オブ・ラ・ダ (6) (東京バンドワゴン)
『オブ・ラ・ディ オブ・ラ・ダ (6) (東京バンドワゴン)』
小路 幸也
集英社
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探偵ザンティピーの仏心 (幻冬舎文庫)
『探偵ザンティピーの仏心 (幻冬舎文庫)』
小路 幸也
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東京ピーターパン
『東京ピーターパン』
小路 幸也
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――人気の『東京バンドワゴン』のシリーズはホームドラマにしようと思ったとおっしゃっていましたが、それはどのように決まったのですか。

小路:担当編集者と明るいものを書こうという話になって、それならホームドラマだな、ホームドラマといえば東京の下町だな、頑固爺と格好いい息子や娘が出てくるだろうな、じゃあ舞台は古本屋でいいじゃん、と設定が決まっていって(笑)。

――四世代に渡る大家族なので登場人物がものすごく多いですよね。ただ視点人物が亡くなったおばあさんというのがユニーク。その柔らかく優しい口調も読みやすい。

小路:おばあちゃん目線にすることはすぐ決まったんですが、一人で結構な人数の行動を追うのは大変。それで自由に動き回れるように、ごめん、おばあちゃん、死んで幽霊になってくれ、って。そうすればどこにでも自由に行ってカメラアイになれますから。

――長男の我南人は伝説のロッカー。この我南人という名前は、小路さんのお父さんが小路さんにつけようとした名前だそうですね。

小路:三人目の子供でようやく男が産まれて親父が大喜びしたらしいんですが、自分が南に住みたかったこともあって、名前を我南人にしようとしたんです。小説では「がなと」と読みますが、親父がつけようとした読みは「がなんと」。お袋は大反対したんですが親父は譲らず、なのに市役所に届け出をする直前にひよって、幸也になりました(笑)。うちの親父は僕に輪をかけていい加減で、姉弟の名前が直美、美幸、幸也。漢字しりとりになっているんです。小さい頃「直美幸也」って言われたら3人ともが呼ばれているという意味でした(笑)。で、そういうわけで我南人という名前をさんざん聞かされていたので、『東京バンドワゴン』で頑固爺ちゃんのほかにもう一人中心人物がほしいなと思った時に、伝説のロックスターの爺さんがいたらいいじゃん、じゃあその人の名前を我南人にしよう、と思ったんです。ロッド・スチュアート風の金髪の爺さんです。

――我南人さんの「LOVEだねえ」はもはや決め台詞となっていますね。

小路:あれは忌野清志郎さんの「愛し合ってるかーい」のイメージがあったのか、するっと出てきた台詞なんです。今は毎回1回は使わないと読者が納得してくれない。「~だねぇ」という口調は、井上陽水さんのイメージだったんです。(声真似で)「お元気ですか~」という感じで、(再び声真似で)「LOVEだねぇ~」(笑)。

――(笑)。最初はシリーズにする予定ではなかったそうですが、もう6作出ていますね。これはライフワークとなりそう。

小路:続けられるものなら続けたいと思っています。小路家のライフラインとなっていますので(笑)。毎年4月に出すのが恒例となっています。だいたい11月に入ると書き始めて、12月24日に担当編集者にクリスマスプレゼントとして原稿を渡します。たまに遅れてお年玉になっちゃいますけれど。

――さて、新刊のこともおうかがいしたく。探偵ザンティピーの第二弾、『探偵ザンティピーの仏心』が刊行されたばかりですね。マンハッタンの探偵で語学堪能なんですが、『男はつらいよ』が大好きでそれで語学を学んだために、日本語が寅さん口調。笑えます。

小路:おちゃらけていますよねえ。なんでこんな設定にしたんだと怒られそう。幻冬舎から書き下ろしを出すはずが6、7経ってしまって。それはテーマが重くてなかなか書けそうにないので、代わりに軽いミステリを文庫書き下ろしで書くことにしたんです。それなら探偵ものにしようと考えているうちに、ニューヨークの探偵が寅さん口調だったら面白いだろうなと思って。

――北海道の温泉旅館に嫁いだ妹に頼まれて、来日して事件に遭遇するのが第一弾『探偵ザンティピーの休暇』。第二弾はある人物のボディガードとして北海道にやってくるのだけど、いきなり襲撃されますよね。その土地に絡んだ謎を余所者であるザンティピーが解決していくところも面白い。

小路:そうそう、マンハッタンの探偵ものなのに、書いてみたら"湯けむり探偵"ものになっちゃいました(笑)。でも、そういうものも好きなんです。

――今月下旬に発売になる『東京ピーターパン』は、音楽を志して挫折を経験している人たちが次々と登場して、最後には奇跡的な出来事がありますね。

小路:これも角川書店さんと6、7年前に話したアイデアが書けなくて申し訳なくて、「まったく違う話でもいい?」と訊いたらOKをくださったので書いたもの。"ろくでなし"の物語です。基本、ミュージシャンって"ろくでなし"ですから。少なくとも僕のまわりにいた連中はそうでした。ピーターパンシンドロームじゃないけれど、音楽の夢を捨てられないままでいる奴らが偶然に出会って......という話。音楽が大好きな作家が書いた、愛すべき"ろくでなし"なミュージシャンたちへのオマージュです。

――来月、11月に刊行になる『花咲小路四丁目の聖人』はイギリスで〈最後の泥棒紳士"セイント"〉という伝説の元怪盗である英国老紳士が登場。日本の商店街の危機を救うために大ワザを披露します。

小路:これは映画っぽい、楽しい話にしました。先ほど話したように、レスリー・チャータリスの小説に出てくる義賊、怪盗セイントが大好きだったのでそのオマージュですね。セイントは理想とする探偵というか、ヒーローの一人。エラリー・クイーンも明智小五郎もアルバート・サムスンも理想なんですが、そういう人たちを全部一緒にして、最高の探偵像をいつか作り上げたいですね。

――来月からはまた『東京バンドワゴン』シリーズの執筆に入るわけですね。シリーズ最新刊が出る前にも、ほかの小説の刊行予定があるとか。

小路:1月に実業之日本社から『coffee blues』という本が出ます。これは以前出した『モーニング』と同じ主人公の若い頃を書いた、80年代の話。2月には新潮社から『荻窪 小助川医院』という、連載をまとめたものが出る予定です。そして4月に『東京バンドワゴン』シリーズの最新刊が出る予定です。

(了)