作家の読書道 第123回:はらだみずきさん
少年の成長や周囲の大人たちの人生模様を丁寧に描いた「サッカーボーイズ」シリーズなどが人気のはらだみずきさん。さまざまな人の心の内の迷いやわだかまりを優しく溶かしていくような新作『ホームグラウンド』も、評判となっています。そんな著者は、どのような読書遍歴を辿ってきたのでしょうか。幼い頃の衝撃的な出来事や就職後の紆余曲折など意外な話も盛りだくさんです。
その2「読書傾向を決めたある事件」 (2/5)
- 『友情 (新潮文庫)』
- 武者小路 実篤
- 新潮社
- 391円(税込)
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- 『愛と死 (新潮文庫)』
- 武者小路 実篤
- 新潮社
- 432円(税込)
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- 『坊っちゃん (新潮文庫)』
- 夏目 漱石
- 新潮社
- 309円(税込)
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- 『和解 (新潮文庫)』
- 志賀 直哉
- 新潮社
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――はらださんはサッカー小説でデビューしていますが、幼い頃はサッカーはやっていなかったんですか。
はらだ:野球をやっていました。小学校5、6年の時の先生が、運動が好きでいろいろやらせてくれてラグビーまでやったんですが、実際に自分がサッカーを意識したのは、小学6年生の正月の高校サッカー。地元の高校が出場したので試合を見ていて、これは自分もやるしかない、と思いました。地元にサッカーチームはなかったので中学の部活で入ろうと思ったんですが、当時は不良の集まるクラブという傾向が強かったんですよね。サッカー部に入部したいと先生に話したら「サ、サッカー部...!?」という反応をされてしまって、僕も引いてしまったんです。それでサッカー部に入らず、中学3年間を棒に振ってしまいました。でもやりたいという気持ちはあったので、高校受験が終わると同時に走りこんだりしてトレーニングを開始。一緒に走ってくれる友達もいましたね。高校では本当に柄のよくないチームに入ってしまったというか(笑)。大学では体育会系は無理だとあきらめたんですが、その後社会人になってから草サッカーをはじめました。
――高校での読書生活は。
はらだ:なぜか分からないけれど近代文学というか、そのあたりに走りました。最初に読んだのは武者小路実篤の『友情』『棘まで美し』『愛と死』ですかね。そこから夏目漱石の『坊ちゃん』や『三四郎』、志賀直哉の『和解』『暗夜行路』、島崎藤村、谷崎潤一郎などを読み、なぜか高橋和巳や田山花袋などにも手を伸ばしました。そしてドストエフスキーの『罪と罰』なども。その頃、東北出身の現代国語の先生が、まだ若かったんですけど、枯れた咳をする文人みたいな人で、授業中に甲高い声で文学の話をするんです。誰も聴いてなかったと思いますが、僕は好きで聴いていました。大学で評論を学んでいたようで、その先生の口から亀井勝一郎とか小林秀雄という名前を聴いて興味を持ちました。亀井の『愛の無常について』や小林秀雄訳ということでランボオの詩集『地獄の季節』も読みました。古典の勉強のつもりだったのか、円地文子の『源氏物語』なども。ただ、当時は芥川龍之介や太宰治、川端康成の本は読まなかった。今思えば、自殺した作家の本は避けていたのかもしれません。
――何か理由があるんですか。
はらだ:中学生の夏休みに、近所の子と一緒に、森にカブトムシやクワガタを獲りにいったんですよね。その時に自殺した人を見つけてしまったんです。ちょうどカブトムシがよく取れるいい木があって、近づいていったら人がいる。待っていたけれどなかなかどいてくれないので、さらに近づいて声をかけてみたら......という感じで。急いで森から出て近所のおばさんに言っても「前にもマネキンが吊してあったのよ」って、なかなか信じてくれない。結局消防車が来てもう一度その場所に案内しなくちゃならなくなって。そういう経験をたまたましたんです。その後もなぜだか気になって、何度かその場所へ足を向けました。大学生になってから行ってみたら、森が跡形もなくなっていました。
――それは衝撃的な体験でしたね。
はらだ:アラン・シリトーの『長距離走者の孤独』のなかの「土曜の午後」という短編に、似たような状況の短編があるのは印象に残っています。少年が自殺しようとする男を見つけて手伝っちゃう話です。その時は死ねなかったんですが、当時自殺は犯罪とされていたので男が警察につかまってしまう。結局、男は自殺をやり遂げるんですけどね。でも、主人公の男の子は自分は首をくくることはないと考える。〈あの何とかいう男が電燈からぶら下がった図を思い出せば思い出すほど、首つりなんて今だってこれからだって、あまりイカすとは思えないからだ〉という。これはすごく印象的でした。僕にとってもあの経験はネガティブなものではなくなった。今だったら子供が自殺した人を見たとなったら心のケアを......となりそうですが、まったくそんなことはない時代でしたね。親も全然心配していなくて「新聞にも載ってないわねー」って感じで。消防隊員の人が「今夜は眠れねえぞ」と騒いでいたから、見間違いではないんですが。
――実際に心に負担はあったんでしょうねえ。本は通学の電車の中などで読んでいたのですか。
はらだ:多くの場合、家で深夜まで読んでよく遅刻してました。高校は自転車通学だったんです。受験の時に先生に「高校はどこにする?」と訊かれて「自転車で行けるところにしてください」って言ったんです(笑)。自転車が好きで房総一周は何回かしているし、中学の卒業旅行では千葉から富士五湖までいきました。
- 『暗夜行路 (新潮文庫)』
- 志賀 直哉
- 新潮社
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- 『罪と罰〈上〉 (岩波文庫)』
- ドストエフスキー
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- 『地獄の季節 (岩波文庫)』
- ランボオ
- 岩波書店
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- 『長距離走者の孤独 (新潮文庫)』
- アラン シリトー
- 新潮社
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