作家の読書道 第123回:はらだみずきさん
少年の成長や周囲の大人たちの人生模様を丁寧に描いた「サッカーボーイズ」シリーズなどが人気のはらだみずきさん。さまざまな人の心の内の迷いやわだかまりを優しく溶かしていくような新作『ホームグラウンド』も、評判となっています。そんな著者は、どのような読書遍歴を辿ってきたのでしょうか。幼い頃の衝撃的な出来事や就職後の紆余曲折など意外な話も盛りだくさんです。
その3「学生時代は図書館でアルバイト」 (3/5)
- 『新装版 限りなく透明に近いブルー (講談社文庫)』
- 村上 龍
- 講談社
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- 『風の歌を聴け (講談社文庫)』
- 村上 春樹
- 講談社
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- 『一瞬の夏 (上) (新潮文庫)』
- 沢木 耕太郎
- 新潮社
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- 『ニングル』
- 倉本 聰
- 理論社
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――大学生時代はいかがでしたか。
はらだ:まずは村上龍さんや村上春樹さんとかですかね。龍さんは『限りなく透明に近いブルー』から読みはじめ、『海の向こうで戦争が始まる』『テニスボーイの憂鬱』などの初期の作品。春樹さんの『風の歌を聴け』は『群像』に掲載されたものを読んだと記憶しています。本を閉じたあと、部屋のなかをぐるぐる歩き回ったことを憶えてます。でも調べてみたら掲載誌は1979年6月号で、僕はまだ高校生なんですよ。その頃すでに『群像』を買っていたのか、あるいは兄のものだったのか、よく分からない。それに続き三部作となっている『1973年のピンボール』『羊をめぐる冒険』も夢中になって読みました。『風の歌を聴け』は出先で読みたい本が見つからなかったりすると買っては読んでいたので、文庫版は5冊以上持っているはずです。短編の『中国行きのスロウ・ボート』や『螢・納屋を焼く・その他の短編』も好きでした。大学時代は『群像』『すばる』、時には『早稲田文学』なんかも読んでいました。大江健三郎さんを読んだのもその頃ですね。僕は大江さんの比喩も村上さんの比喩も両方好きでした。おふたりの作品はほとんど読んでいます。大江さんの『日常生活の冒険』も何度か読み返しました。当時買った文庫を見ると、巻末の著者の文庫リストに線が引いてあります。きっと読んだものに線を引いていたんでしょうね。こういう痕跡も楽しめるから、読んで気に入った本はとっておかないと、と思いますね。同時に純文学系では中上健次を読み、中上さん以降の三田誠広さんや宮本輝さんを読み、さらには遡って柴田翔さんなども読みました。安部公房さん、丸山健二さんも読みましたね。あとは沢木耕太郎さん。『一瞬の夏』を最初に読んで、それから『敗れざる者たち』や『テロルの決算』、『深夜特急』など。ドラマだけでなく倉本總さんや山田太一さんの著書も好きで、大学4年の時に読んだ倉本さんの『ニングル』には本当に騙されました。小人が出てくる話なんですが、富良野には本当にニングルがいるんだと思い込んじゃいました(笑)。この間読み返して、さすがにもう騙されませんでしたけれど、さすがです。
――国内作品が多かったのですか。
はらだ:春樹さんの影響ですかね。アメリカ文学も読みました。ジョン・アーヴィングがすごく印象に残っています。スコット・フィッツジェラルド、レイモンド・カーヴァー、カート・ヴォネガット。コラムニストとしても有名だったピート・ハミルの『ニューヨーク・スケッチブック』やボブ・グリーンの『チーズバーガー』なども好きでした。レイモンド・チャンドラーやロバート・B・パーカーといった探偵シリーズや、エルモア・レナードも読みました。『夏服を着た女たち』のアーウィン・ショーは、『緑色の裸婦』『ビザンチウムの夜』『小さな土曜日』なども手に取りましたね。常盤新平さんの『アメリカの編集者たち』という本を読んだのは、出版の世界に興味を持っていたからかもしれません。大学時代がいちばん本を読んでいますかね。図書館でアルバイトもしていましたし。
――公立の図書館で、ですか。
はらだ:そうです。お袋がしょっちゅう図書館に行っていて、しまいにはそこでパートとして働きはじめたんです。長年勤めたので市民ナントカ賞もいただいたくらいで、その息子だということで紹介してもらえました。当時の地方の図書館はのんびりしたもので、朝9時から夕方5時まででしたし、僕は貸し出し係だったので、利用者がいない時はずっと本を読んでいられたんです。それで、大学卒業後は司書になろうと思ったんです。時間にも余裕がありそうで本も読めるし、小説を書きたいと思っていました。ところが就職の年に司書の募集はありませんと言われて。就職浪人して次の年を目指そうと思ったら翌年も採用はないと聞かされて、断念しました。それで商社に就職したんですが、その頃こういうものがあって...(と、文庫サイズの小冊子を2冊取り出す)
――わあ、講談社のミニPR誌『IN☆POCKET』。1983年10月号は創刊号なんですね。もう1冊は1985年10月号で特集が村上春樹さんと村上龍さんの対談。「作家ほど素敵な商売はない」というタイトル。特大号なんですね。
はらだ:当時、2年間くらい買い続けていて、まだ家に『IN☆POCKET』10冊以上とってあります。この特大号は若き日の村上春樹さんの写真もたくさん載っていて、ジョギングしている姿や経営していたジャズ喫茶「ピーター・キャット」の店内でのカットもありますね。しかもこれに『回転木馬のデッドヒート』に入る短編が載っている。宮本輝さんの『避暑地の猫』も連載していたし、これが特大号といっても180円で買えたなんておいしいですよね。村上春樹さんは対談の中で三浦哲郎の『忍ぶ川』のようなタイプの小説が好きで、きれいな恋愛小説を書きたいと語っています。それで1987年に『ノルウェイの森』が出る。当時僕は銀座に勤めていたんですが、クリスマスでもないのに書店の教文館の店頭に、あの赤と緑のクリスマスカラーが何面も平積みになっていたのをよく憶えています。
- 『ニューヨーク・スケッチブック (河出文庫)』
- ピート・ハミル
- 河出書房新社
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- 『チーズバーガーズ―Cheeseburgers 【講談社英語文庫】』
- ボブ・グリーン,Bob Greene
- 講談社インターナショナル
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- 『IN★POCKET 2012年 3月号』
- 講談社
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- 『忍ぶ川 (新潮文庫)』
- 三浦 哲郎
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