作家の読書道 第163回:仁木英之さん
美少女仙人と駄目青年の冒険を描く『僕僕先生』のシリーズで人気を博し、古代ファンタジーから現代小説まで幅広く執筆活動を広げている仁木英之さん。中国の歴史に詳しいのはなぜ? 次々とエンターテインメント作品を発表している、その源泉は? 人生の転換点のお話をまじえつつ、読書遍歴についておうかがいしました。
その4「知人作家たちに刺激を受ける」 (4/5)
――デビュー後の読書生活はいかがですか。
仁木:小説を読むのが楽しい時期と辛い時期が、定期的に交互にやってきますね。本屋さんに行くと文芸書がいっぱい並んでいて、こちらを押しつぶくらい面白い本がたくさん並んでいるものですから...。
――よく読む作家の方はいますか。
仁木:面識ができた人の本を読むようになったんです。恒川光太郎さんの『夜市』を読んだ時は、すごく衝撃を受けました。恒川さんは、文字で空気というか気配みたいなものを作らはるのがすごい。同じ小説を書いていてもここまで違うんやっていうのが、すごく楽しくて。長谷敏司さんというSF作家の方とも知遇を得たのですが、あの方の書いている本や、考え方もすごく好きです。SFの方やから、めちゃくちゃ緻密なんですね。僕はただ面白いものを書いて楽しんでもらえたらいいや、くらいにしか思っていなかったんですが、長谷さんはSFを背負っていくんだという使命感があって、すごく深く考えている。リスペクトしますね。長谷さんの小説で挙げるとしたら『あなたのための物語』でしょうか。一人の女性が死んでいく様を、一冊かけて書きはるんですよ。「こんなことができるんや」っていう小説。同じような衝撃は、大島真寿美さんの『ピエタ』を読んだ時にも思いました。
――18世紀のベネツィアの慈善院が舞台の作品ですよね、『ピエタ』。
仁木:あれも「こんな風にできるんや」と思いました。大島さんの本は大好きですね。宮下奈都さんの本も好きです。『田舎の紳士服店のモデルの妻』を読んだ時、僕ちょっと心を病み気味だったんですが、あれですごく救われました。ご本人は別に人を救おうと思って書いたわけじゃないと思うんですけれど、でもそれが物語の力なんでしょうね。
――そういえば、その後、長野は離れたんですよね?
仁木:5年くらい前に奈良に移り住みました。両親が持っていた家が空いたので、もったいないので自分たち家族が越したんです。とにかく静かなところなので書きやすくなりましたし、読みやすくなりました。
――1日のサイクルってどんな感じですか。
仁木:だいたい朝の5時に起きて、朝ご飯まで仕事して、ご飯を食べて、昼ご飯まで仕事して、理想はそこで仕事を止めることなんですけれど、やることが溜まっている時はそのまま夜まで仕事をします。夕方になったら走りに行って、ちょっとは運動するようにしています。週に1回格闘技のジムに行って、週に1回はピアノのお稽古に行っています。
――へえ。ピアノはいつから始めたのですか。
仁木:一昨年くらいから始めました、もうすぐ生まれてはじめての発表会があって、「どんなときも」を弾く予定です。ピアノは小さい頃にほんの一瞬親にやらされて、泣きわめいて嫌がって辞めたんです。でも大人になって「やっぱり楽器やりたいな」と。小説を書くことと楽器をやることは、自分の中では使う部分が全然違うようで、ピアノを弾くと気分が切り替わって、ラクになるんです。
――読書はどんな時に。
仁木:精神的に調子がよければ、執筆の合間の休憩の時にいただいた本を読みますね。福田和代さんの本を読んで「こんなんよう思いつくな」と思ったり、田中芳樹事務所にいた小前亮さんという、中国の歴史ものを書いている作家さんの本を読んで「またネタ被ってるわ」って言ったりしながら(笑)。資料も読みますね。あまり読書という気分ではないのですが、新刊の『ちょうかい』を書くために読んだ『防衛技術ジャーナル』という専門誌はものすごく面白かったです。「こんな技術があるんや」って。