第163回:仁木英之さん

作家の読書道 第163回:仁木英之さん

美少女仙人と駄目青年の冒険を描く『僕僕先生』のシリーズで人気を博し、古代ファンタジーから現代小説まで幅広く執筆活動を広げている仁木英之さん。中国の歴史に詳しいのはなぜ? 次々とエンターテインメント作品を発表している、その源泉は? 人生の転換点のお話をまじえつつ、読書遍歴についておうかがいしました。

その5「最新刊は意外にも警察小説」 (5/5)

  • 黄泉坂案内人 (角川文庫)
  • 『黄泉坂案内人 (角川文庫)』
    仁木 英之
    KADOKAWA/角川書店
    648円(税込)
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――その『ちょうかい 未犯調査室』は現代ものの警察小説です。仁木さんといえば唐の時代を舞台にした『僕僕先生』シリーズや『千里伝』シリーズ、『夕陽の梨』を改題した『朱温』に始まる五代史シリーズ、江戸時代が舞台の『くるすの残光』シリーズや『大坂将星伝』といった戦国小説など時代ものやファンタジーのイメージが強いですが、これまでにも現代小説もお書きになっていますね。

仁木:そうですね。『黄泉坂案内人』や『撲撲少年』は現代ものですね。KADOKAWAさんは現代ものを書かせてくれるんです。祥伝社さんやったら『くるすの残光』で時代、伝奇もの。講談社さんやったら『千里伝』の古代ファンタジーという風になっています。

――そして小学館から出た新作『ちょうかい 未犯調査室』は現代もの、しかも警察小説だったので驚きました。これは二部作になるそうですね。

仁木:編集の方から警察ものの企画をいただいた時は、僕も耳を疑ったというか。今まで書いていないものを、と意図だったそうです。実際警察ものがお上手な方は他にいっぱいいらっしゃるなかで、あえて僕に書かせるのはリスクを伴うことなのに、そこに挑戦してくれるのは燃えたというか、嬉しかったですね。
それに、ある種タガの外れたものというか、「仁木さんらしいもの」を書いてもええって言うてくれてはったんで、「じゃあ」ということで。

――たしかに普通の警察小説ではないです。これから起こる犯罪を未然に防ぐことが目的のチームの話ですよね。この設定のきっかけは何でしょう。

仁木:僕、塾をやっている時にフリースクールもやっていて、一人自殺しているんです。それで、何か取り返しのつかないことが起こる前に止められたらええなというのはずっと頭の中にありました。それで、まずは分かりやすいところで、法律で決まっているような犯罪を止めるシステムがあったらええんちゃうか、と。

――これから犯罪が起きる場所を調べる「繭」という不思議な装置が登場するので、最初はSFかと思いました。チームの面々もギリギリで懲戒免職を回避しているような、危うげな事情のある人ばかりですよね。それが「ちょうかい」の意味でもある。

仁木:組織からしたら、こういう活動ってめちゃくちゃリスキーなことやと思うから、メンバーは自分たちへの忠誠は高いけれど、わりと始末しやすい人たちを選ぶだろうなと考えました。メインキャラクターの通島や魚住さんという刑事のコンビはそういう造形にしています。

――通島さんはまともな刑事に思えますが、実は奥さんが殺された過去があって、そこに謎がありますよね。他の人たちもみんな訳ありっぽい。

仁木:罪を止める人たちが罪を背負っているというわけです。それに、今の日本でいちばん重い罪は人を殺すことだと思うんですけれど、彼らのように亡くなるはずだった命を逆向きに生かそうとすることも、大きな罪になりうるんじゃないかという部分も考えたくて。スティーヴン・キングの『ペット・セメタリー』や、昔の短篇の「猿の手」なんかがありますよね。ああした根源的にある恐怖とか、罪の意識についても考えていました。

――キャラの立った人たちの賑やかな話かなと思うとシリアスな部分もあるし、何か壮大な話になっていきそうな予感もあります。

仁木:2巻は人情喜劇ものになります。次の冬には出す予定です。

――人情喜劇(笑)。ほかに、近いうちの刊行予定はありますか。

仁木:8月末に『僕僕先生』の第9巻が出ます。『くるすの残光』の完結編も、来年の冬か春に出る予定です。

(了)