作家の読書道 第88回:小川糸さん
昨年デビュー作『食堂かたつむり』が大ベストセラーとなり、大注目された小川糸さん。なんとも穏やかな雰囲気を持つ小川さん、幼い頃から書くことが大好きで、お料理が好きで、作詞家としても活動して…ということから連想するイメージとはまた異なり、作家になるまでの道のりはかなり波瀾万丈だった様子。その時々に読んでいた本と合わせて、その来し方もじっくりと聞かせていただきました。
その5「作家を目指してコツコツと書く」 (5/6)
――そして小説を書き始めて、応募をするように。
小川 : ある小説誌に応募してささやかな賞をいただいて、三編短編を書いたんですけれど、その先がどうしても続けられなくなってしまって。それからは本当に辛かったですね。
――その短編は、今書かれているものとはまた違いますか。
小川 : 違うと思います。ものの見方が違うように思いますね。自分のことなので、具体的には分からないけれど。その後も書き続けてはいました。文学賞に応募したり、出版社に持ち込んだりしていました。
――その頃、作詞家・春嵐として音楽制作チームFairlifeに参加して活動もスタートされましたよね。これはどういう経緯で。
小川 : 2000年に入ってからだと思うのですが、知り合いに声をかけていただきました。物語を書きたいという気持ちは強かったけれど、作詞をやることは悪いことではないので、私としては寄り道という感じで。小説とはまた別のものだと思って参加しました。なので名前も変えたんです。
――春嵐というペンネームはどのように考えたものですか。
小川 : 漢字をバラバラにしていくと、三、人、日、山、風になりますよね。三は物事の基本に数字のような気がしたし、人がいて太陽があって、山というか緑があって、風が吹いている。それがあれば必要最低限なものはそろうなと思って。
- 『ちょうちょ』
- 小川 糸
- 講談社
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――なるほどー! その後、作詞だけでなく絵本『ちょうちょ』も出されましたよね。絵はコイヌマユキさん。こちらは...。
小川 : 作詞として活動している時に、コイヌマユキさんにCDジャケットのイラストをお願いしていたんです。もともとコイヌマさんの絵が好きだったこともあり、一緒に作品を作りましょうという話になったんです。
――ではまた、作家を目指しての活動とはちょっと違うお仕事だったんですね。絵本や童話はお好きですか。
小川 : そういえば大人になってから、童話を読むのが好きになりました。まるきりの子供向けとはいえない内容のもの。荒井良二さんの『きょうというひ』や、昔からあるフィンランドの『オンネリとアンネリのおうち』という童話とか。『年をとったワニの話』は、人に読ませると「怖い」と言われてしまうんですけれど。どれも真実味が入っているというか、童話なんだけれど深い部分がある。そういうものが好きですね。
――それらの作品はどこで見つけるのですか。
小川 : 雑誌の本のコーナーとか、あとは本屋さんで。ほかには普通に生活していく中で、料理本や生活に役立つ実用書などもよく読みました。
――『食堂かたつむり』も新作『喋々喃々』も、読むとこの著者は本当にお料理が好きなんだろうなって思います。数ある料理本の中から、どういうものを選ばれるのですか。
小川 : たくさんの料理本を見ていると、料理には作り手その人の性格や生き方、ものの考え方、価値観が出てくるなと感じます。そういう見方からいうと、以前からよく読んでいるのは高山なおみさん、今すごく興味があるのは村瀬明道尼さん。生きることにすごく真摯に向き合っているような料理人が好きなんです。