作家の読書道 第108回:乾ルカさん
今年は単行本を3冊も上梓し、『あの日にかえりたい』が直木賞の候補にもなった乾ルカさん。グロテスクな描写がありながらも、ユーモアや哀しみを潜ませて、最後にはぐっと心に迫る着地点を描き出すその筆力の源はどこに…。と思ったら、敬愛する漫画があったりゲーマーだったりと、意外な面がたっぷり。大好きな作品についてとともに、作家デビューするまでの道のりも語ってくださいました。
その2「切磋琢磨系の話が好き?」 (2/6)
- 『ガラスの仮面 45 ふたりの阿古夜 4 (花とゆめCOMICS)』
- 美内 すずえ
- 白泉社
- 463円(税込)
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- 『なかよし 2010年 11月号 [雑誌]』
- 講談社
- 470円(税込)
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- 『りぼん 2010年 11月号 [雑誌]』
- 集英社
- 450円(税込)
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- 『なんて素敵にジャパネスク (コバルト文庫)』
- 氷室 冴子
- 集英社
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- 『北斗の拳―完全版 (1) (BIG COMICS SPECIAL)』
- 武論尊,原 哲夫
- 小学館
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――筒井さんのほかには、どんなものを読んでいたのでしょう。
乾:中高生になると、漫画とコバルト系の少女小説を読むようになりました。『ガラスの仮面』を当時の全巻持っている友達がいて、毎日4巻ずつ借りて授業中に読んでいました。最近45巻が出て話題になっていますが、私もインターネットで「『ガラスの仮面』検定」をやってみたら結構難しくて71点でした。全巻手元にないと高得点は無理ですね。
――手元になくて71点はすごいと思います。
乾:あてずっぽうで選んで合っていた部分もありましたので。漫画は、私の世代では『なかよし』『りぼん』から『別冊マーガレット』か『LaLa』か『花とゆめ』にいく、という系譜がありました。あと同級生のお兄さんが漫画家で、『ヤングマガジン』に連載されていたんです。すぎむらしんいちさんという方です。それで高校時代は青年誌も読んでいました。
――コバルト系では何を読んでいたのでしょう。
乾:氷室冴子さん。『なぎさボーイ』、『多恵子ガール』、『なんて素敵にジャパネスク』、『クララ白書』......。氷室さんは北海道出身の方なので身近に感じたということもあって、友達同士で貸し借りしていました。
――その頃は推理ものには興味はなくなっていたんでしょうか。
乾:たまにエラリー・クイーンが編纂したアンソロジーは読んでいました。その流れでエラリー・クイーンも何冊か読んだりもしましたね。でもやはり小説よりも漫画が多かったと思います。
――高校2年生のときは読書クラブに入っていたということですが、それは本が好きだったからですか、それともラクそうだったからですか。
乾:完全に後者です(笑)。部活でソフトボール部に入っていたので必修では運動はしないと決めていて、ほかに百人一首クラブも選んでいたんですが、毎年それでも何だから読書にしようか、と友人と話して決めた感じで。感想文も「面白かった」「とても面白かった」「すごく面白かった」と、バリエーションがなくてえらい怒られました。
――じゃあその頃はまだ、小説を書こうとは思っていなかったんですか。
乾:その頃は漫画家になりたかったんです。1回応募したことがあるんです。漫研でもなかったのでどうしたらいいか分からなかったんですが、ちゃんとした紙を買ってきて、適当に描いて投稿したんです。それが20歳の頃ですね。
――どんな内容だったんですか。
乾:スポ根もの。恥ずかしいですね......(笑)。落選して漫画家は諦めました。
――『ガラスの仮面』とかスポ根ものとか、意外と主人公が切磋琢磨する話がお好きだったのでしょうか。たとえば恋愛がテーマのものなどは、あまり...?
乾:当時少女漫画で恋愛を主眼としたものもありましたが、まったく面白いと思わなかったんです。毎回毎回主人公が泣く漫画があって、「泣けば解決すると思ってるのか!」とイライラして、落書きするほど嫌いでした(笑)。そうなると自然と『少年ジャンプ』などのほうに興味がいくんです。当時流行っていたのは『キャプテン翼』。『ジョジョの奇妙な冒険』も連載が始まった頃ですね。ああ、『北斗の拳』がすごく好きで。高3のときに倫理を選択したら、先生も好きだったみたいで「『北斗の拳』は倫理の教科書だ」って言っていました。でも高校時代読んだものでいちばん印象深いのは、やっぱり授業中にむさぼり読んだ『ガラスの仮面』ですね。
――どこにそこまで魅力を感じたのでしょう。
乾:亜弓さん、のひと言に尽きると思います。20巻くらいで亜弓さんが高校を卒業して大学に進学するんですが、ずっと芸能活動をしていたから卒業式に出られずに、理事長室で卒業証書を受け取るという、亜弓さんの1日の話があるんです。学校を休みがちだったのに成績もトップで何でもできたので、理事長に褒められるんですね。「あなたは何でもできるのね、天才かしら、がり勉かしら」というようなこと言われる。理事長さんは彼女はサラブレッドで何でもできる天才だと思ってそう言うんです。でも亜弓さんは伏し目がちに微笑んで「きっとがり勉のほうですわ」と言う。それを読んだときに、私はもう亜弓さんについていく!と思いました。亜弓さんの台詞のなかでいちばん好きですね。
――確かに格好いいですね!
乾:名言だと思います(笑)。