作家の読書道 第108回:乾ルカさん
今年は単行本を3冊も上梓し、『あの日にかえりたい』が直木賞の候補にもなった乾ルカさん。グロテスクな描写がありながらも、ユーモアや哀しみを潜ませて、最後にはぐっと心に迫る着地点を描き出すその筆力の源はどこに…。と思ったら、敬愛する漫画があったりゲーマーだったりと、意外な面がたっぷり。大好きな作品についてとともに、作家デビューするまでの道のりも語ってくださいました。
その4「『メグル』の舞台はかつての職場」 (4/6)
- 『メグル』
- 乾 ルカ
- 東京創元社
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- 『利己的な遺伝子 <増補新装版>』
- リチャード・ドーキンス
- 紀伊國屋書店
- 3,024円(税込)
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- 『新興宗教オモイデ教 (角川文庫)』
- 大槻 ケンヂ
- 角川書店
- 473円(税込)
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- 『白いメリ-さん (講談社文庫)』
- 中島 らも
- 講談社
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――卒業してからはいかがでしたか。
乾:学校推薦で銀行に入りましたが、体調を崩してわりとすぐ辞めたんです。その後、官公庁の職員になりました。最初に姉のコネがあったので放送大学の立ち上げの前のセンターに半年いたんですが、それが北大の中にあったんです。次の年度から北大の臨時職員を2年やって、そこから放送大学に戻って3年勤めて、どこも任期満了となって辞めました。
――あ、乾さんの『メグル』は北大を思わせる大学が出てきますが、それはその体験があったからでしょうか。
乾:もう取り壊されてないと聞きましたが、当時は本当に『メグル』に出てくるような薄汚れた学生部の施設が大学事務局の裏にあったんです。放送大学は小さな図書室が併設されていて、そこの本を読みました。こだわりはなく、あるものを乱読していました。リチャード・ドーキンスの『利己的な遺伝子』や『毒舌辞典』とか...。毒舌というか、皮肉がたくさん載っている本。ウディ・アレンの「神様が存在する証を見せてくれたら。例えば自分の銀行口座に大金を振り込んでくれたら」といったような意味の言葉が載っていたりして。
――『七瀬ふたたび』のように、何度も繰り返して読みたくなるような本との出合いはありませんでしたか。
乾:最後に放送大学にいたときの同僚だった方から大槻ケンヂさんの『リンウッド・テラスの心霊フィルム』という詩集と『新興宗教オモイデ教』という小説を借りて。『新興宗教オモイデ教』も超能力ものなんです。オモイデ教というところで修行した者は人の心を狂わせる「メグマ波」を操れるようになる。主人公はその才能があるといわれて「メグマ波」使いになるんですが、その矢先対抗する人たちが現れて闘うことになる。主人公の仲間の一人、それこそ中間くんという名前の人と、彼と昔仲良かったけれど行方不明になっていて、今は対立関係となったゾンという人、2人の関係がすごく好きで、これは何回も読み直しています。いつも手元においてあるんです。大槻さんはそれを読んで好きになって、「筋肉少女帯」も買いました。1分半で終わる曲もあって使い勝手がいいので、気の置けない人とカラオケに行くと歌ったりもします。といっても、カラオケに行かなくなって久しいですけれど。
――乾さんがカラオケで「筋肉少女帯」をっ!
乾:ちょっとジャイアンですけれど(笑)。大槻さんは『くるぐる使い』やエッセイなども読みました。退職して半年くらい無職の時代があったんですが、図書館に行って借りていました。中島らもさんも好きですね。放送大学にいた頃に朝日新聞に中島らもさんの「明るい悩み相談室」という連載が載っていたんです。この人面白い会話をするなと思って、そこから入って小説もエッセイも、図書館にある限りは全部読んだと思います。『白いメリーさん』がすごく好きでした。白いメリーさん、というおばあさんがいるという都市伝説を追っているライターの父親とその娘さんの話です。最後は切ないんです。らもさんってせつないものでなくても、落語も書かれている方だけあって味のあるものが多くてどれも好きでした。あとは、放送大学に勤めていた頃の末期に島田荘司さんの『占星術殺人事件』を読んだんです。読者への挑戦があるんですが、私は挑戦を受けて、分かるまで先を読みませんでした。読み終わったときはなんていう傑作を読んだんだろう、これを読んでいない人は人生損をしていると思いました。そこから島田先生の御手洗シリーズを『アトポス』くらいまで追いかけて、新本格では有栖川有栖さんの「学生アリス」と「作家アリス」の両方のシリーズを読んだりしていました。