作家の読書道 第110回:蜂谷涼さん
小説の執筆はもちろん、地元の北海道は小樽を中心にテレビやラジオでも活躍中の蜂谷涼さん。08年に『てけれっつのぱ』が舞台化され文化庁芸術祭賞演劇部門の大賞を受賞するなど、その作品にも注目が集まる気鋭の読書道は、お父さんの意外な教育方針のお話から始まります。
その2「いきなり壮大な時代大長編に夢中に」 (2/5)
- 『徳川家康(1) (山岡荘八歴史文庫)』
- 山岡 荘八
- 講談社
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- 『流星―お市の方〈上〉 (文春文庫)』
- 永井 路子
- 文藝春秋
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- 『苺をつぶしながら』
- 田辺 聖子
- 講談社
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- 『おさん (新潮文庫)』
- 山本 周五郎
- 新潮社
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――読書の楽しさを知るのはいつのことだったのでしょう。
蜂谷:高校3年生の夏くらいには部活も引退して時間ができたんです。札幌まで夏期講習に通うようになると電車での移動時間がヒマだったので、山岡荘八の『徳川家康』を読み始めたんですね。それが面白くて。読書が面白いと思ったのはそれがはじめてじゃなかったかな。同じ頃に『風と共に去りぬ』の映画を観て、この原作を読んでみたいと思って、父が若い頃に読んでいた文学全集の旧かなづかいの本を読みました。レット・バトラーのような人と結婚したいわって思っていました(笑)。
――いきなり大・大・大長編の『徳川家康』とは。日本史が好きだったのですか。
蜂谷:電車に乗っている時間が長いので、延々と読んでいられるものを選んだんだと思います。日本史は好きどころか、赤点だったんです。歴史というよりも政治経済の切り口で読みました。選択科目ではなかったのに、政経の先生と徳川幕府ってこうでしたね、と話していました。ほかにも永井路子の『流星 お市の方』や、藤原道長を書いた『この世をば』、日野富子を書いた『銀の館』あたりを読んだのですが、歴史をこういう解釈できるんだなと面白く思いました。
――その後時代小説を執筆するようになるのは、このあたりがきっかけでしょうか。
蜂谷:その頃はもの書きになる気はさらさらなくて、ただ読んで楽しいなあと思っていただけですね。歴史もの以外にもいろいろ読んでいたと思います。田辺聖子さんは『お目にかかれて満足です』や『苺をつぶしながら』がすごく好きでした。関西弁を上手に取り入れて息をするように読ませるところが新鮮で。田辺さんの本はすごくたくさん持っています。
――その頃はもう、お父さんは何も言ってこなくなっていたのですか。
蜂谷:高校生ぐらいになると絶対に負けないぞ、という勢いで全身で闘いましたから、この人には何を言っても無駄だと親も諦めてくれました。そこまでは長い道のりでした。
――その後の読書生活はどのように変化していったのでしょうか。
蜂谷:高3は受験もあるし、大学に行くと、デートしたり他に面白いことが出てくるので、あまり本を読みませんでした。社会人になってからですね、読むことが楽しくなってきたのは。
――きっかけがあったのですか。
蜂谷:大学が夜間だったので、昼間は働いていたんです。正社員の時もあれば、季節労働者のような時もありました。その時に経験した、いちばん読書に近い仕事というと、盲人の方のための朗読のテープの録音助手。小説も新聞記事もなんでも朗読するのですが、ボランティアの人に朗読してもらって、契約をしている方々に渡すという機関だったんです。ボランティアの方たちもご自分たちの都合に合わせていらっしゃるので、すごくヒマな時間ができたりする。その時に使っていない本を読んでいました。あとは医師会の血液の検査センターで助手をしていたこともあって、そこも時間帯でヒマになることがあるので、みんな本を読んでいたんです。本の貸し借りもしていました。その時に読んだ山本周五郎『五瓣の椿』が面白くて、そこからいろいろ山本周五郎を読みました。実は昨日も『おさん』を読み返したばかりで、やっぱりこれはベスト・オブ・山本周五郎だ、なんて思っていたところです。