第110回:蜂谷涼さん

作家の読書道 第110回:蜂谷涼さん

小説の執筆はもちろん、地元の北海道は小樽を中心にテレビやラジオでも活躍中の蜂谷涼さん。08年に『てけれっつのぱ』が舞台化され文化庁芸術祭賞演劇部門の大賞を受賞するなど、その作品にも注目が集まる気鋭の読書道は、お父さんの意外な教育方針のお話から始まります。

その4「切り口さまざまな『源氏物語』」 (4/5)

いよよ華やぐ〈上〉 (新潮文庫)
『いよよ華やぐ〈上〉 (新潮文庫)』
瀬戸内 寂聴
新潮社
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花衣ぬぐやまつわる…―わが愛の杉田久女〈上〉 (集英社文庫)
『花衣ぬぐやまつわる…―わが愛の杉田久女〈上〉 (集英社文庫)』
田辺 聖子
集英社
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女人源氏物語〈第1巻〉 (集英社文庫)
『女人源氏物語〈第1巻〉 (集英社文庫)』
瀬戸内 寂聴
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瘋癲老人日記 (中公文庫)
『瘋癲老人日記 (中公文庫)』
谷崎 潤一郎
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ノラや (中公文庫)
『ノラや (中公文庫)』
内田 百けん
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雷桜 (角川文庫)
『雷桜 (角川文庫)』
宇江佐 真理
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――その後はどのような本を読まれているのでしょう。

蜂谷:女性の俳人を書いた小説もよく読みます。瀬戸内寂聴さんが鈴木真砂女さんを書いた『いよよ華やぐ』は大好きですね。実はこのあいだ鈴木真砂女さんのお嬢さんにお会いする機会もありました。鈴木真砂女さんは「夏帯や 運切りひらき切りひらき」「羅(うすもの)や人悲します恋をして」という句がすごく心に残っています。恋に生きた方ですけれど、読んだ時は私もこういう女になりたい!って思いました。他には田辺聖子さんが杉田久女を書いた『花衣ぬぐやまつわる...わが愛の杉田久女』も大好きです。本を読むといつも自分が主人公になりきっていますね。スカーレット・オハラもそうだったし。あとは瀬戸内寂聴さんの『女人源氏物語』もずっと読んでいます。『源氏物語』は橋本治さんの『窯変 源氏物語』も谷崎潤一郎訳のものも読んでいますね。そこから谷崎の『瘋癲老人日記』を読んでこれってギャグだなって思い、柔らかいおっちゃんの本を読み比べてみようと内田百閒の『ノラや』を読んだりと、ずるずる流れて読む本が広がっていく感じです。そういえば、高校生くらいの時から大好きな方で、世界的なガラス工芸家の淺原千代治さんという方がいるんです。小樽にも工房があるんです。ガラスというと器を思い浮かべるけれど、その方はオブジェも創作していて。ガラスで風を表現したりするんですよ。作品を見て「あ、潮風の匂いがする!」って感じるんです。その人にめぐり合っていなかったら私は表現する仕事をしていなかったかも。その淺原さんがこの25年ほど『源氏物語』をテーマに作品を作られているんです。見ると明石なら明石ってちゃんと分かる。文学作品を造形で表す人って他にいないんじゃないかって思います。30年来憧れの人だったのですが、自分がもの書きになってたまたま同じ小樽の観光大使になったので、集まりなどでお会いする機会ができて。私の密かな「野望」は、いつか私の小説をテーマに作品を作っていだたくこと。私がそれくらいになるまで、長生きしていただかないと。

――テレビやラジオ出演、講演活動もなさっているとか。どういう内容をお話されているのですか。

蜂谷:ラジオでは、ついこの間の例で言えば、1月に文庫化される『へび女房』の著者校正を読んでいたら、自分で「こんなこと書いたのか」ってしみじみ読んでウルッとしてしまったと話して大笑いされました。講演は新作についてだったり、故郷を書くことだったり、『てけれっつのぱ』が舞台化されて、トルコでも上演されたので、そのことについてだったり。みなさんが退屈しないように気は使いますね。質問して手をあげてもらうなど何か動作を入れたり、あと自分が壇上で動くと目が追うからこちらに気持ちを集中してもらえるようです。ハイヒールをはくとカツカツという音がするので、それも効果があるとか。

――作家というとこもって執筆活動というイメージもありますが、蜂谷さんの場合は精力的に動き回っているような印象が。

蜂谷:家にこもって1週間くらいうちの犬としか話さないこともしょっちゅう。集中している時はそうなるし、全然寂しいとも思わない。でも一人でも、声は出していますね。というのも、書いては音読するようにしているんです。浅田次郎さんもそうなさっているらしいんですが、声に出すと文体が確認できるんです。音声だけで単語が分かるかどうかも分かりますね。前後の文脈がきちっとしていると文字が浮かぶものだし、なるべくそういう文体を書きたいなと思っています。

――朗読の録音助手の経験があるから余計に分かるのかもしれませんね。

蜂谷:そうかもしれません。目で読む人にも、耳で聞く人にも、頭の中で映像が浮かんでほしいなって思います。

――読書生活はいかがですか。

蜂谷:寝る前に必ず読みます。読まないと寝られない。枕元に本を積みっぱなしにしてあるので、地震がきたら頭直撃ですね。昔は読書記録もつけていたんですが、最近はそれすら面倒になってしまって。だから読んでいるのに買ってしまって同じ文庫を3冊くらい持っていたりするんです。

――最近読んで気になっているものはありますか。

蜂谷:函館出身の佐藤泰志さんの『海炭市叙景』。芥川賞の候補にもなったけれど、最期は自殺してしまった作家の方です。函館で会議があって駆り出された時に、この作品の映画化実行委員会委員長の方にお会いする機会があって。そこで初めて佐藤さんの存在を知ったんです。それと最近になって読み返したのは宇江佐真理さんの『雷桜』。映画化されたので読み返したんです。この作品には思い出があるんです。まだまだ駆け出しの頃、文藝春秋の有名な編集者の方に作品を読んでいただいて、菊地寛先生の銅像の前で説教されたんですよ。「今日は何の日か知ってるか。宇江佐さんの『雷桜』が直木賞をとるか取らないかっていう、選考会の日なんだよ。こんなところで説教されていないで、君もそっち側にいきなさい」と言われて、帰りに買って読んだんです。はあ、こんな素晴らしい作品、私にはムリ、と思いました。今年映画化されると知って、やっぱり原作と比べたいのでまた読み返したんです。

――そういえば、海外小説はあまり読まないのですか。

蜂谷:読みますよ。一時はパトリシア・コーンウェルのケイ・スカーペッタシリーズが大好きでした。外伝が出るとストーリーを確認するために読み返したりして。

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