作家の読書道 第110回:蜂谷涼さん
小説の執筆はもちろん、地元の北海道は小樽を中心にテレビやラジオでも活躍中の蜂谷涼さん。08年に『てけれっつのぱ』が舞台化され文化庁芸術祭賞演劇部門の大賞を受賞するなど、その作品にも注目が集まる気鋭の読書道は、お父さんの意外な教育方針のお話から始まります。
その5「新作について」 (5/5)
- 『舞灯籠―京都上七軒幕末手控え』
- 蜂谷 涼
- 新潮社
- 1,620円(税込)
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――小説の題材はいつもどこから見つけてくるのでしょう。
蜂谷:別の小説を書いているうちにちょろちょろと次に書きたいことが出てくるんです。安政の大地震のことを書いていると、ああこの頃に天然痘が流行ったんだなと思ったり、江戸の頃は女性の職業が少なかったなと考えているとじゃあ江戸時代に女ガラス職人がいたら面白いだろう、とか。執筆の時に横に紙を置いていろいろ書きとめておくんです。その山が少しずつできていくわけです。
――最新作の『舞灯籠 京都上七軒幕末手控え』はどういう経緯だったのでしょうか。
蜂谷:私を応援してくださる方で、大きい病院の院長先生がいらっしゃって、「涼ちゃん、時代物を書くなら芸者遊びくらいしておかないと」と言って、京都に遊びに行かせてくださったんです。もともといろんな芸術家の人を応援している方なんですけれど。その先生から、6、7年前に京都の梅嘉ちゃんという芸者さんを紹介していただきました。性格はちゃきちゃきしていて、すごくきれいな妓(こ)なんですよ。こういう人が幕末に生きていたら面白いだろうなと考えていたんです。ある時、天満宮に新選組の「誠」という字が刻まれた古い絵馬があるって写メールを送ってくれたんです。現代の人が書いたにしては古いので、新選組の誰かを思う人が書いたのか、と考えているうちに話が固まっていきました。新選組の話が好きな人は知っているけれど一般的には有名ではない相楽総三を出したりして。今回は連作ですが、いいなと思った登場人物を次の章で中心人物として出すというのは好きな書き方。お風呂に2時間入っていたら話は出てきますね。
――お風呂で、ですか。
蜂谷:すごくよく入るんです。朝起きて入って今日書くところを考えて、朝ごはんを食べてランニングをしてまた入ったり。午後も、原稿に行き詰ったら入ったりします。そうするとシーンが見えてくるので、それをどう文章にするかを考える。
――今回もそうですが、いろんな時代に生きた女性たちの姿を生き生き書かれるという印象があります。女性を書きたいというお気持ちは強いのですか。
蜂谷:男性も書きたいんですよ。実は永倉新八のひ孫が仕事でお世話になっている局のディレクターなんです。永倉のことも書きたいけれど、結局は寝返って松前藩に戻ったじゃないか、という気持ちがどこかにあるみたいで、どうにもうまく書けなくて。
――この人が書きたい、という男性は他にもいますか。
蜂谷:会津藩の最期の主席家老の梶原平馬は切腹も許されなかった人なんですけれど、本妻さんと別れて京都時代に知り合った女性と一緒になるんですよね。函館でしばらく過ごした後に北海道東部に移住するんですが、奥様が塾をやって彼を食べさせる。この奥さんが道東の女性教育の礎と言われている人で、立派な石碑も残っているけれど、平馬は石ころのような墓しか残っていないんですよ。彼には思い入れが強いので、今回名前を変えて出しました。あとは箱館戦争の時の柳川熊吉。官軍という言葉は嫌いなんですが、官軍から旧幕府軍の遺体を埋葬するなと御触れが出されても彼は人の道に外れることはできないと言って、大八車をひっぱって遺体を回収して埋葬するんですよね。侠客の親分なので、子分たちもついていく。その場面を想像すると涙が出てくる。箱館山の碧血碑を建立した人でもあります。その人をからめていつか書きたいなって思います。もう少し大人になったら(笑)。
- 『へび女房』
- 蜂谷 涼
- 文藝春秋
- 1,491円(税込)
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――楽しみです。今後の刊行・執筆予定を教えてください。
蜂谷:1月に『へび女房』が文庫になります。あとは『小説新潮』で種痘の話の連載が始まります。『オール讀物』で書いてきた江戸ものが、次の掲載で最終話になる予定なので刊行できるといいなと思っています。あとは書き下ろしで女ガラス職人の話を書きたいですね。どうしても淺原千代治さんにつながる何かを書いて「野望」を達成したくて仕方ないんです(笑)。
(了)