第159回:碧野圭さん

作家の読書道 第159回:碧野圭さん

ロングセラーとなっている『書店ガール』シリーズが原作のドラマ『戦う!書店ガール』がスタートしたばかりの碧野圭さん。幼稚園の頃から絵本より文字の本を好んで読んでいたという碧野さんが愛読してきた本とは? ライター、編集者としても活躍していた碧野さんが作家になったきっかけとは? 書店にまつわるエピソードももりだくさんの読書道となりました。

その4「編集者としての日々」 (4/6)

  • アニメージュ 2015年 05 月号 [雑誌]
  • 『アニメージュ 2015年 05 月号 [雑誌]』
    徳間書店
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  • 天空の城ラピュタ [DVD]
  • 『天空の城ラピュタ [DVD]』
    ウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社
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  • 魔女の宅急便 [DVD]
  • 『魔女の宅急便 [DVD]』
    ウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社
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  • 装甲騎兵ボトムズ DVD-BOXI
  • 『装甲騎兵ボトムズ DVD-BOXI』
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  • 新装版 ロードス島戦記    灰色の魔女 (角川スニーカー文庫)
  • 『新装版 ロードス島戦記 灰色の魔女 (角川スニーカー文庫)』
    水野 良
    角川書店
    691円(税込)
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  • 天地無用!魎皇鬼 千客万来編 愛のヘクサグラム (富士見ファンタジア文庫)
  • 『天地無用!魎皇鬼 千客万来編 愛のヘクサグラム (富士見ファンタジア文庫)』
    長谷川 菜穂子
    KADOKAWA / 富士見書房
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――ところで、アニメ雑誌でもお仕事をされていたんですね。

碧野:『アングル』が、ようやく記事を任されるようになった時に廃刊になったんです。その時に友達が「『アニメージュ』という雑誌から仕事を頼まれたけれど、全然分からないから断っちゃった」と言うから、「紹介して」と頼みました。私は大学時代に漫画研究部みたいなところにいたので、アニメが特に好きでもなかったけど抵抗もなかったんですよね。そこから『アニメージュ』で4年くらいライターをやらせてもらいました。スタジオジブリの作品としてはちょうど『天空の城ラピュタ』から『魔女の宅急便』が公開されるまでの『アニメージュ』ですね。鈴木敏夫編集長で。

――ああ、スタジオジブリの鈴木敏夫さんはかつて『アニメージュ』の編集長だったんですよね。

碧野:この雑誌で働こうと思った理由のひとつが鈴木さんの存在でした。面白そうなことをやっている人だなと思って。それに普通ライターは原稿を書くだけですけれど、『アニメージュ』の場合は企画を出したらその企画をまるまるやらせてもらえるんです。デザイン発注などのいろんな手配から、校正まで全部やらせてもらえるので、仕事をおぼえられると思いました。企画が通ればアニメージュ文庫もまるまる一冊やらせてもらえて、編集印税ももらえました。鈴木さんが考えた「ライターが喜んで働くようになるシステム」があったんですよね。私は最後のほうで『装甲騎兵ボトムズ』という作品のノベライズの編集をやりました。それで小説の編集って面白いなと思っていたら、ライター仲間で「富士見ファンタジア文庫っていうのに誘われたけれど断っちゃった」という人がいて(笑)。「じゃあ、そこを紹介してください」とお願いしました。実際に所属したのはドラゴンマガジン編集部で、いまで言うライトノベルの専門誌ですね。そこから10年間やったのかな。その間、ライトノベルという言葉は一切使っていないんですよ。私が会社員を辞める頃に出てきた言葉で、使いたくはなかった。そういう話をするとまた長くなるんですけれど。

――その頃はなんと言っていたんでしょう。レーベル名で呼ばれていたのでしょうか。

碧野:そうですね、「ヤングアダルト」とか「ファンタジー系」とか。ライトノベルという言葉を使いたくなかったのは、評論を作りたくなかったからです。私たちファンタジア、ドラゴンマガジンの編集者の共通認識として、SFが駄目になったのは「SFとは何か」とか評論ばかりやっていたから、読者が置き去りになってしまった、というのがあったんです。それで「こういうものだ」と定義づけしないで「私たちが面白いと思うものを作ろう」と。私は『ドラゴンマガジン』の創刊1年目くらいから入ったのですが、ジャンルがどんどん伸びていった時期ですね。同時期のスニーカー文庫の最大のヒット作『ロードス島戦記』の第1巻は累計99万部でしたから。私も初版10万部の本をいくつも抱えていましたよ。私は『ドラゴンマガジン』の担当だったので、小説の担当は少ない方だったんですが、それでも『風の大陸』と『天地無用!』と『機動警察パトレイバー』などを担当しました。それで、自分たちに関係する本を読むのに一生懸命で、息抜きはノンフィクションを読んでいたんです。だからその間に日本のエンターテインメントが進化していることにまったく気づいていなくて。

――日本のエンターテインメントといいますと。

碧野:進化していたのはエンターテインメント全般ですが、とくに新本格ミステリとかですね。知っていたら結構夢中になったと思うんです。でもまったく気づいていなくて、とにかく仕事と子育てでした。疲れた時は林真理子さんのエッセイなんかも読みましたね。30代はずっとそんな感じでした。40代になる頃に、ドラゴンマガジン編集部からザ・スニーカー編集部に移ったら、課長がミステリを立ち上げたいという人だったので、それで読みはじめたんです。岡嶋二人さんの『クラインの壺』を読んで「こんなに面白いミステリが日本にもあるんだ」と思い、その後宮部みゆきさんをほとんど読みました。課長は本社で赤川次郎さんの担当などをやっていた人なので、スニーカーでミステリ文庫を立ち上げようという動きがあって、米澤穂信さんを世に出したりして。

――え、米澤穂信さんですか。確かに『氷菓』で角川学園小説大賞のヤングミステリ&ホラー部門からデビューされていますけれど、碧野さんも関わっていたんですか。

碧野:編集部選考だったんで、私も選考委員の一人だったんですよ。内緒ですけれど......いえ、書いてもいいですけれど(笑)、米澤さんに嫌な顔されたらどうしよう。まあ、20人くらいで選考したなかの1人でした。そういえば、長谷敏司さんも私が在籍中にスニーカー大賞の金賞でデビューされた方です。こちらは選考委員の先生がいらっしゃるので、私は下読みしかしてませんけど(笑)。ほかにも、乙一さんの『GOTH』や谷川流さんの『涼宮ハルヒの憂鬱」の仕掛けを編集部みんなで考えたり、綾辻行人さんの作家本を作ったり。スニーカーに在籍したのは4年間と短かったけれど、面白いことがたくさんありましたね。

――そうだったんですか。でも辞めて小説を書くようになるんですよね。

碧野:仕事は面白かったんですけれども、昇格の問題などで、ちょっと。30歳くらいで特務社員という、契約社員的な身分で入って正社員と同じように働いて副編集長とかもやってきたんですが、でも「登用試験を受けて」と言われて受けて最終面接で落とされる、ということが何度も続いたんです。

――碧野さんの小説には男社会に対する苛立ちが感じられるものがありますが、あれはご自身の体験も反映されているのでしょうか。

碧野:まあ、そうですね。昇格については部署間の駆け引きとかいろいろありましたし、人事のエライ人の中に女性蔑視的な考えを持つ人がいたことも影響していたようです。だけど、何度も落とされると、ちょっと精神的にきちゃうところがありましたね。それでふてくされていた時期に異動があり、わりと時間ができた時に「なんか書いてみよう」とふと思って。最初はエッセイを書いて何か違うなと思い、次にノンフィクションを書いてこれも違うなと思い、「小説を書いてみようかな」と思って書いたら「なんかすごく楽しい」って。いろんな感情みたいなものが書ける、しかも主人公だけじゃなくて他の人のことも書けるというのが面白かったんです。で、一気に3週間で書きあげました。すごく粗かったんですけれど、書いたからには誰かに読んでチェックしてもらおうという編集者気質で、『アニメージュ』時代からのライターの友達に見せたんです。そうしたら彼女よりも先に彼女の旦那のほうが読んで、それが大森望という人だったわけです。

――え。書評や翻訳やアンソロジーの、あの大森望さんですか。

碧野:そうです。それで「面白いからどこかに売り込もうか」と言ってくださって、それがパルコ出版で引き受けてくださって、現在に至ります。

――へええ。じゃあ、はじめて書いた小説がデビュー作である『辞めない理由』だったんですね。

碧野:厳密に言うと、フリーのライター時代、20代後半くらいにショートショートは書いているんですよ。なんで書こうと思ったのかまったく憶えていないんですが、それが星新一のショートショートコンテストで佳作になって、本にも収録されています。そういうこともあって、なんとなく「いつか本が出せるんじゃないか」と思っていたところもあるんですよね。『辞めない理由』をパルコ出版から出していただいて、それが『本の雑誌』の上半期ベストテンの9位に選んでいただいたおかげで、2作目、3作目と依頼がきて。なんやかんやでよれよれと続いている状態です。

  • GOTH (角川コミックス・エース)
  • 『GOTH (角川コミックス・エース)』
    乙一,大岩 ケンヂ
    KADOKAWA / 角川書店
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  • 辞めない理由 (実業之日本社文庫)
  • 『辞めない理由 (実業之日本社文庫)』
    碧野 圭
    実業之日本社
    640円(税込)
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