第159回:碧野圭さん

作家の読書道 第159回:碧野圭さん

ロングセラーとなっている『書店ガール』シリーズが原作のドラマ『戦う!書店ガール』がスタートしたばかりの碧野圭さん。幼稚園の頃から絵本より文字の本を好んで読んでいたという碧野さんが愛読してきた本とは? ライター、編集者としても活躍していた碧野さんが作家になったきっかけとは? 書店にまつわるエピソードももりだくさんの読書道となりました。

その5「作家になってから」 (5/6)

  • 銀盤のトレース age15 転機 (実業之日本社文庫)
  • 『銀盤のトレース age15 転機 (実業之日本社文庫)』
    碧野 圭
    実業之日本社
    648円(税込)
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  • 情事の終わり (実業之日本社文庫)
  • 『情事の終わり (実業之日本社文庫)』
    碧野 圭
    実業之日本社
    648円(税込)
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  • あなたがパラダイス (朝日文庫)
  • 『あなたがパラダイス (朝日文庫)』
    平 安寿子
    朝日新聞出版
    17,978円(税込)
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――編集者はいつ辞めたんですか。

碧野:『辞めない理由』の出版が決まった時に辞めたのかな。特務社員という立場でしたが、副業禁止なのによそから本が出るのはまずいだろう、と。出すか出さないかと言ったら出してほしいというのがありましたから、もう辞めちゃおうと思いました。

――作家になってから読書生活も変わりましたか。

碧野:気づいたら日本のエンターテインメントが華やかになっていたので、それをちゃんと読んでみようと思って。『王様のブランチ』の本のコーナーを録画して見たりして、売れ筋の本を知るようにしていました。本屋大賞の本とかも。素敵な賞だと思いましたね。小川洋子さんの『博士の愛した数式』は「本屋大賞」という帯だけで買っちゃいました。いまの日本のエンターテインメントはほんとに面白いですね。バラエティに富んでるし、文章的にも洗練されているものも多い。純文学にしても素晴らしいものもたくさんあるし。いま学生だったら、私でも海外文学を読まなかったと思う。日本のものでいろんな面白さが味わえるんだから、わざわざ翻訳ものを読む必要がない、と思ったんじゃないかな。でも最近は書き手として読むから「これは自分には書けない、悔しい」とか「これはこういう風にした方がいいんじゃないか」とか思ったり。客観的に楽しめないのが残念です。

―― 一日のなかで執筆時間は決まっていますか。

碧野:朝4時に起きて12時くらいに終わるのが理想ですが、まあ、9時10時に始めて、午後2時くらいに力尽きるという感じです。4時間も集中していると疲れてしまうので。執筆期間中は資料以外の本は読めないですね。

――じゃあ、この人の新刊が出たら必ず読む、みたいな人は今はなかなかいない...?

碧野:宮下奈都さんと中田永一さんのはわりと読んでいます。数少ない作家の友人なので。。あとは宮部みゆきさんとか小川洋子さんは出たら比較的読むかな。村上春樹さんも、結局ほとんど読んでいるかも。あ、でも、最近読書がダレているのでいかんと思って(笑)、河出書房新社の「日本文学全集」は読もうと思っています。頭がエンタメで軽い読書に慣れているので、ちょっとリハビリをしたいんですよね。

――碧野さんの小説は毎回テーマや主人公の職業が違いますよね。『辞めない理由』のように出版社で働く女性の話があったり、『書店ガール』シリーズのような書店員の話、『銀盤のトレース』のフィギュアスケートの話、『半熟AD』のようなテレビ局のADだった男の子の話とか。

碧野:最初『辞めない理由』が売れたので、次も働く女性のものがいいかなと思って『書店ガール』の親本となる『ブックストア・ウォーズ』を書いて、三作目は「恋愛ものを書いたらどうですか」と編集者から言われて、恋愛もので仕事ものの『情事の終わり』を書き、その次が『半熟AD』で、あれは「男性を主人公に」ということと「取材しないで書きましょう」というのが出されたお題だったんです。で、その時はネット社会の悪い面が出てきた時期だったんです。誰かを悪者を探しては叩くみたいな風潮がある時期だったので。スケートの話は、あの、ジュリーのファンたちの話を書いた作品があったじゃないですか。

――平安寿子さんの『あなたがパラダイス』ですか。

碧野:そうそう。平さんの本を読んだ後で、ああいう風に趣味を小説に反映できるといいよねって話になって、フィギュアスケートの話を書いてみたいと言ったら、たまたたま実業之日本社の担当編集が懇意にしているライターさんが、スケートの本を出していたんです。その人に協力していただくことになって、とんとん拍子に決まりました。スケートはそこそこ好きだったから取材しながらより詳しく知りたいな、という気持ちもありましたね。シニアは浅田真央さんと高橋大輔さんで盛り上がっていていろんな情報が出ていたから、リアルなドラマに敵わない。それでちょっと手前の、あまり知られていないジュニアの話にしようとなって、編集部の尽力で全日本選手権や世界ジュニアや、世界選手権を観に行かせてもらえたんです。もちろんお金は自腹ですけれど。その時、2009年の世界ジュニアで日本代表だったのが羽生結弦君や今井遥ちゃんたちでした。当時は日本のマスコミなんて私たちをいれて4人しか来ていなかったですね。日本人が少なかったから、なんとなく日本人に話しかけたら選手のお母さんで、いろいろとお話ししたりして。中京大のリンクを見せてもらいにいったり、取材自体がすごく楽しかったですね。好きなことを題材にするという楽しいやり方を見つけたと思いました。それで、売れてほしいと思って、この『銀盤のトレース』のために全国130軒の書店行脚をしました。

――全国の書店をまわって、そのレポートをブログにあげていましたよね。

碧野:出版社から「販促のためになにかやりましょう」と言われたのですが「作家ができることは営業くらいですかね」と言って。営業自体は『辞めない理由』の時に50軒回っているんですね。で、「50軒じゃなくて100軒まわってそれをブログに書くくらいのことをしなくちゃ」となりました。もともと大学生の頃は美容院で「こういう髪型にしてください」と言えないくらい人見知りの強い人間でしたし、100軒の営業に編集者がつきあう時間がないのは分かっていたので、それは辛いな、と。でもライターモードになって取材に行くつもりだと平気だし、相手も話したことが小説家のブログに書かれることは喜んでもらえることではないかと思ったんです。数え間違えて100軒以上アポをとってしまって、その後追加もあったので結局130軒くらい行くことになりました。

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