『十二歳』

  • 十二歳
  • 椰月美智子 (著)
  • 講談社文庫
  • 税込500円
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評価:星4つ

 大人でもなく、まるっきりの子どもでもない(と自分では思っている)12歳、小学校6年生の女の子が主人公。水泳もピアノも絵もポートボール(懐かしい!)も少しかじってある程度できるようになると興味を失ってやめてしまう、器用貧乏な私。「私もなにかになれるのかな?」なんて、12歳でその悩みは早すぎるだろ!!そういう思春期の悩みは受験が始まる中学生や趣味や夢での挫折を味わう高校生になってからじゃないの?と違和感だらけ。
ところが、絵が上手なクラスメイトの女の子の、課題で描いた絵を見て気づいてしまう。ただ絵が好きな私とこんなにすごい絵が描けるこの子とは決定的に違うんだ…。
最後のほうは文字通り教科書的で、お利口な自分探しになってしまっていてあまり好みではなかったのだが、このエピソードにとてもはっとさせられ、ここが読めただけでも、本当に読んでよかったと思う。
あさのあつこ、森絵都、佐藤多佳子…と児童文学出身で好きな作家は多い。ぜひ一般向けの物語も書いてほしいと思う。

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『荒蝦夷』

  • 荒蝦夷
  • 熊谷達也 (著)
  • 集英社文庫
  • 税込700円
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評価:星3つ

 荻原規子著「薄紅天女」が大好きな私。同じく8世紀の東北地方、蝦夷の地が舞台。アテルイとモレと坂上田村麻呂…と登場人物一覧でその名前を聞いただけで胸がどきどき。普段歴史小説は読まないけど、どんなロマンが待っているんでしょう……
と、その期待は見事に裏切られました。
物語は阿弖流為の父である呰麻呂を中心に回る。カリスマ性と頭脳、力を持って民をぐいぐい引っ張っていく……のかと思いきや、各章ごとに時に卑劣に、時に残虐に、周囲の人間や他部族の人たちを掻き回していく。なにより「蝦夷の英雄」として感情移入をしようとする自分を裏切られる。
呰麻呂の片腕、敵対する人物、傍観を決め込む人物と章ごとに様々に視点が変わったせいでもある。
だけどかっこよくて誰にでも慕われていて正義の味方だけが英雄ではないよな、と実感。同じ作者が書いた阿弖流為が主人公だという『まほろばの疾風』も読んでみたい。

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『リボルバー』

  • リボルバー
  • 佐藤正午 (著)
  • 光文社文庫
  • 税込560円
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評価:星2つ

 実弾入りの拳銃を手にし、復讐に向かう少年。復讐に向かった先は札幌…。拳銃の持ち主だった警官と少年の同級生も札幌へ向かい、さらに謎の博打打ちも永井&蜂矢ペアもライラックの花を買いに札幌へ。3組の九州から札幌への旅の物語。別の作家さんなら少年の描写をなくして、他の二組から少年の足跡をたどるミステリーになるだろうなと、少し物足りない。
北海道出身なので、地下鉄の札幌駅の描写や狸小路と大通り公園の距離感の違いなどついつい粗探しをしてしまった。さらに札幌についてからの少年の心理描写が、一番大事なところなのにあっさりしていて残念に思う。
国鉄、新幹線盛岡駅、青函連絡船……など時代を感じさせるなあ、と読みながら思っていたら、単行本は1985年刊ということ。物語は電車、飛行機、新幹線の中で偶然に隣り合った人たちが会話をすることで進んでいく。隣り合った人たちが会話をすることに違和感を覚えるのは、現実とフィクションの差なのか、23年の時代の差なのか、読み終わったあとに考えてしまった。

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『箆棒な人々』

  • 箆棒な人々
  • 竹熊健太郎 (著)
  • 河出文庫
  • 税込893円
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評価:星4つ

 ほとんど初めて知る人たちばかりだったが(知っていたのは昨年の森進一騒動でテレビによくでていた川内康範さんのみ)、大変面白かった。
歴史の表舞台には名を残さない人たちの自由奔放な活動。特に最初の一人康芳夫さんの、世間をあっといわせるような出来事の数々!どこからそんなことを思いつき実行していくのか。大きなことをやるには、常識もお金もその後の自分も考えずに行くしかないのか、としばらく自分の小ささを実感した。
彼ら4人の様々な戦争体験が興味深かったが、ご本人の魅力ももちろん、話を引き出し展開させまとめ上げた著者竹熊健太郎さんの力もすごい。

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『はい、泳げません』

  • はい、泳げません
  • 高橋秀実(著)
  • 新潮文庫
  • 税込420円
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評価:星2つ

 はい、私も泳げません。
元競泳選手桂先生の指導方法がユニークで、私もこれなら泳げるようになるかもと思ってしまう。
湯船に浸かって本を読みながら、高橋さんと一緒に、「手は水をおさえるだけです」と念じながら水をおさえてみる。さすがに息継ぎの練習まではせず、半身浴をしながら読み続ける。練習中に疑問に思ったことは本や他のほうほうで徹底的に調べる高橋さん。日本泳法については初めて知ることが多く勉強になる。
お風呂で読むのに最適文庫ランキング第一位。
ただし練習に一緒に参加している人たちやエピソードが少し単調で読みづらかった。

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『文章読本さん江』

  • 文章読本さん江
  • 斎藤美奈子(著)
  • ちくま文庫
  • 税込819円
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評価:星5つ

 様々な文章読本を取り上げ、分類し、時代ごとの変遷を考察し、その独特の発展や矛盾を痛快に斬る!ユーモアと皮肉を交えた文章は面白く、取り上げる本を読んだことがなくてもわかりやすい。
特に学校の国語・作文教育のアンチテーゼとして、社会では役に立たない作文しか書いてこなかった大人のニーズを満たすために文章読本が生まれたという第3章は、興奮。先生が喜ぶ読書感想文や「先生あのね」的な作文を書き続け、図書館司書講座で絵本教育を学んだ私、まさに当てはまります!社会に出たら全く役に立ちませんでした、先生。
学校の国語の先生や子ども教育に関わる人たちにぜひお勧めしたい一冊。

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余湖明日香

余湖明日香(よご あすか)

1983年、北海道生まれ、松本市在住。
2007年10月、書店員から、コーヒーを飲みながら本が読める本屋のバリスタに。
2008年5月、横浜から松本へ。
北村薫、角田光代、山本文緒、中島京子、中島たい子など日常生活と気持ちの変化の描写がすてきな作家が好き。
ジョージ朝倉、くらもちふさこ、おかざき真理など少女漫画も愛しています。
最近小説の中にコーヒーやコーヒー屋が出てくるとついつい気になってしまいます。

好きな本屋は大阪のSTANDARD BOOKSTORE。ヴィレッジヴァンガードルミネ横浜店。
松本市に転勤のため引っ越してきましたが、すてきな本屋とカフェがないのが悩み。
自転車に乗って色々探索中ですが、よい本屋情報求む!

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