WEB本の雑誌>今月の新刊採点>【文庫本班】2008年2月>『リボルバー』 佐藤正午 (著)
評価:
動植物園で、二人組の男性・蜂矢と永井が「俺達はなぜモテないのか」を話し合っている。女子高生・直子が、そんな彼等の視界を通り過ぎて間もなく、警察のサイレンが聞こえてくる。直子の友人・吉川は、偶然リボルバーを手に入れ、自分の前歯を折った男を殺そうと考える。男二人のグダ話と、銃を持つ高校生。シリアスな状況とコミカルな状況が、あっさりと交錯する。そして冒頭の四人と、銃を奪われた警官・清水は、やがて同じ目的地・札幌を目指す。ならば、彼等は再び出会って、吉川の抱える心の闇を解き放つのか?そんな「いわゆるお定まり」の予想展開を、著者はあっさりした文章で、あっさりとはずしてゆく。クライマックスとエンディングも、やはりあっさりしている。「正常な人間なら、人ごみのなかで拳銃は撃てない」と清水は言う。しかし現実では、病院やプールで銃撃事件が起こっている。作品のセオリーが通用しない現実が既にあるため、あっさりした印象を持ったのかもしれない。
評価:
本筋とは直接関係ありませんが、物語に微妙に関係してくる永井新と蜂矢圭介というコンビが好い味を出しています。本筋だけを追っていけばシリアスになりがちなところをこのコンビに視点が移るとホっとするのです。
これは作中清水が言う「現実の境界線」を表しているのでしょうか。このコンビもちょっとしたキッカケで「現実ばなれした側」に立つことになるんだという事を主人公の行動と微妙に関わらせることで表現しているのかもしれません。現実の世界でも事件の被害者や加害者は特別な人間ばかりとは限らないのです。
少し細かいことを言うと、登場人物の呼び方が「蜂矢」「蜂矢圭介」「男」「年上の方」などとコロコロ変わるのが気になりました。ある場面では「佐伯直子」と書きながら、二行後では佐伯直子のことを「女」と書いていたりして、ぼ〜っと読んでいると違う人のことかなと思ってしまう。そこが少し読みにくいと感じました。
評価:
リズム感がいい。復讐を心深くに抱く17歳の少年、拳銃を奪われ職を失った警官、そして、遊び暮らしているらしい2人の男。作者は彼らを「少年」と呼び「男」と言い、「青年」と表現し、あいまいにはぐらかしながら、4人の男たちの日常を交錯させ旅立たせる。その手際の良さに驚いた。
そして、深刻でない2人の男(新青年と蜂矢)の何気ない会話。そんな気ないのに(たぶん)漫才の掛け合いのようになっている。少々多めに配置された小気味のいい会話たちは、また、20年以上前の時代背景の違和感(大学の共通一次、血液型占い、携帯のない生活、ETのポスター、青函連絡船、ペンギン柄のビール!)を消し去り、読者を引き込む。北上する怒りと正義が迎える結末はぜひ読んで確認ください。
評価:
実にハードボイルドらしいハードボイルド。あえてハードボイルドの王道を狙って書いたからなのか、若かった佐藤正午の気負いによるものか、硬さが前面に出た文章でありストーリーである。それがかえって新鮮で、20年以上の時間経過を感じさせる「味」となっているのだが、最近の佐藤正午の成熟した表現力を知っている読者にはやはりちょっと物足りないか。
怒りを忘れないために行動を起こす少年と、過去を忘れるために少年を追う男──という構図はわかりやすいが、その構図が見えてくるまでの前半部分がややもたついていて、なかなか作品の世界に入り込めなかった。昨年『5』で、人物の雰囲気をなんとうまく表現する作家なんだろうとため息が出たのだが、そこにつながる才能の片鱗は所々に見えるものの、期待度が高いためにどうしても採点が辛くなってしまう。星3.5個!
評価:
実弾入りの拳銃を手にし、復讐に向かう少年。復讐に向かった先は札幌…。拳銃の持ち主だった警官と少年の同級生も札幌へ向かい、さらに謎の博打打ちも永井&蜂矢ペアもライラックの花を買いに札幌へ。3組の九州から札幌への旅の物語。別の作家さんなら少年の描写をなくして、他の二組から少年の足跡をたどるミステリーになるだろうなと、少し物足りない。
北海道出身なので、地下鉄の札幌駅の描写や狸小路と大通り公園の距離感の違いなどついつい粗探しをしてしまった。さらに札幌についてからの少年の心理描写が、一番大事なところなのにあっさりしていて残念に思う。
国鉄、新幹線盛岡駅、青函連絡船……など時代を感じさせるなあ、と読みながら思っていたら、単行本は1985年刊ということ。物語は電車、飛行機、新幹線の中で偶然に隣り合った人たちが会話をすることで進んでいく。隣り合った人たちが会話をすることに違和感を覚えるのは、現実とフィクションの差なのか、23年の時代の差なのか、読み終わったあとに考えてしまった。
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