『ハートシェイプト・ボックス』

ハートシェイプト・ボックス
  • ジョー・ヒル(著)
  • 小学館文庫
  • 税込860円
  • 2007年12月
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  1. 君たちに明日はない
  2. 荒蝦夷
  3. リボルバー
  4. 箆棒な人々
  5. はい、泳げません
  6. 文章読本さん江
  7. ハートシェイプト・ボックス
岩崎智子

評価:星3つ

 「金で愛は買えない(Can't Buy Me Love)」などと歌っている場合ではなさそうだ。なにしろネットオークションで、幽霊つきスーツまで売り買いされる時代なのだから。買ったのは、ロック界である程度成功した大スター、ジュード。趣味はオカルトグッズの蒐集。スーツが入っていたハートシェイプト・ボックス(原題)を開けて以来、ジュードや愛人ジョージアの周辺で怪事が起こる。そして更に、売主と幽霊に、自分との因縁があった事が判明したため、ジュードは幽霊につきまとわれながら、愛人ジョージアと旅に出る。特別な知識もない元ロックスターが、姿なき幽霊をどうやって退治するのか?愛情、それとも特別な呪術?興味津々でページを繰った。
幽霊から必死で逃れる旅を続けるうち、オキラクだった主人公が変わってゆく。オドロオドロしさを引きずらない、スピーディなホラーという印象。
ニルヴァーナのタイトルから採られたタイトル。
愛犬の名前はAC/DCのメンバーに由来したアンガスとボン、そして主人公の名前ジュード。著者のロックへの愛の欠片が、そこここに散りばめられている。

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佐々木康彦

評価:星3つ

 正体がわからないというのはそれ自体怖いものです。ですから、UFOも「UFOは○○星人の乗り物で、○○星人というのは……で、地球人に敵意はなく……」なんて全てが明らかになれば意外と怖くないのかも知れません。
 
 本作で主人公たちに襲いかかって来る幽霊は冒頭から正体がわかっていますし、襲ってくる理由もほぼ明らか、生前のことはネットで検索可能、という丸裸状態。色々と超常現象は起こすものの、トラックに乗って追ってきたりするストーカー的なノリで、幽霊的な怖さはあまりないように思います。 

 それよりも文庫本600ページ以上を飽きさせない展開の仕方が絶妙で、前半の何気ない一コマが後半の重要な部分に関係している無駄のなさにも驚きました。
 主人公たちが旅を通じて本来の自分を取り戻し、絆を深めていく内容も素直に感動出来、読了後は今さらながらこう思いました。やっぱ、最後は愛だね、愛。

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島村真理

評価:星4つ

 この本の美点は3つ。幽霊がネットで買えるという突飛さ、敵役が意志を持った力強い霊であること、もったいぶった引き伸ばしがないことです。恐怖は濃厚なのに、すっきりとした気分で楽しめます。私は詳しくないので素通りしているが、作者が力を入れているロックのテイストのおかげでもあるでしょう。
 かつてのカリスマロック歌手、ジュード・コインが、「幽霊付きスーツ」をネット・オークションで落としてからの急展開は、映画さながらのスピードと迫力。しつこい幽霊も俄然健闘し、600ページという重量を感じさせないすばらしい内容です。例えれば、スピルバーグの「激突!」と「リング」、そしてスプラッタ全盛期の作品のいいとこ取りかな(ほめ言葉です)。それから、忘れないで解説まで読んでくださいね。

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福井雅子

評価:星4つ

 幽霊……に見せかけた殺人事件かなと思いながら読み始めたが、なんと復讐に燃える本物の幽霊が襲ってくるという、とても怖い話であった。それでもホラーは苦手な私が途中で投げ出さずに読めたのは、心理描写の巧みさに惹かれたせいかもしれない。
復讐を遂げようと襲いかかる怨霊から逃れ、真相を確かめるべく昔の女の故郷へと向かう主人公とその愛人は、それぞれ心の奥底に閉じ込めてきた自分の過去と向き合い乗り越えようとする。その過程の心の揺れが新人とは思えない巧みな描写で描かれてゆく。また、現実と幻想と過去の記憶を織り交ぜながら話を進める技術も上手い。何度も懲りずに襲ってくる幽霊には途中でややうんざりしたが、次の作品も読みたいと思わせるだけの魅力がある作品だと思う。

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